複雑・ファジー小説
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照300越えありがとう!】 ( No.35 )
- 日時: 2014/01/03 08:27
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: SrUKMM4y)
「えぇ。さっき、エレベーターでね」
にっこり、と私は笑顔で答える。
少しでも、彼女の気が引けるように、まるでエレベーターで何かがあったかのように話す。実際、そんなことは全くなかったのだけれど。
すると、予想通りに彼女は、
「アイツになにもしてないよな……?」
と、少し焦ったように、それでも冷静を装ってそう聞いてきた。
綺麗に、罠にはまってくれたらしい。私の可愛い「親友」は。
あの子は、小さい頃から、いつもそうだった。ガードは堅いんだけど、歩の名前を出すとすぐに乗ってくれる。だから、私はいつも彼を餌に使ってたっけ。だって、そうでもしないと彼女は心を開いてくれないんだもの。私に、自分の話を一つもしてくれない。私の話は、何でも聞きたがるのに。
「ふふっ、なにもしてないわよ」
そういって微笑むだけで、彼女は安心したように胸をなでおろした。本当、可愛らしい。
彼女の姿をみると、あまりにも単純すぎて、つい笑ってしまうのは私だけかしら? いえ、私“たち”だけよね。
私“たち”以外の人たちには、彼女は【悪の塊】に見えるのかもしれない。大人を虐殺する幼女なんて、そうそう居ないものね。私も、もし彼女の関係者じゃなかったら、恐ろしくて震え上がってたに違いないわ。
「そうか……。だが、アイツに接触するのはやめてくれ」
「あら、独占欲のお強いことで」
「黙れ。ボクとアイツはそんな関係じゃない」
「えぇ、知ってるわ」
彼女が、警戒心をむき出しにして、私を睨む。幼女に睨まれても、なんの力もないけどね。
私は知っている。彼女と歩がそんな関係じゃないということは。増してや、彼女が歩のことが好きになるだなんて、全くあり得るはずのないこと。
だけど、茶化したくなってしまう。彼女がとても可愛いから。
「知っているなら、そんなことを口にするな」
「いいじゃないの、生徒が先生に恋愛相談、なんてねっ」
「不純異性交遊はオススメできない」
……やっぱり、容赦無いわね、彼女は。“狂った子供”って名前が付くだけあるわ。
それにしても、不純異性交遊禁止だなんて。容姿の割に古い言い方をするわ。まぁ、普通の女子高生とは思っていないけど、ね。
「えぇーっ、青春よ?」
「煩い。青春など、ボクには必要ない」
彼女は、そう言うと私の返事も聞かずにまた歩き出した。私のことを、本当に煩わしく思っているらしい。
あーあ、前は可愛らしかったんだけどなぁ。喧嘩したら、あんな可愛い姿は見せてくれないんだ。見せてくれるのは、彼女の容姿だけなのかな。
私は、苦笑いしながら、校門に出た。そして、いつも通り夫の車を見つける。
私の夫——高川 時雨——は、いつも私を迎えにきてくれる。いくら忙しくても、どんなに酷い台風の時でも。
だから、私は彼が好き。本当私って愛されてるなぁって実感する。
「お帰り、玲子さん」
私が車のドアを開けると、時雨が笑顔で出迎えてくれる。それに、私も笑顔で何か返しておく。
そのまま車に乗り込む。それを確認すると、時雨は車を発進させた。
「ねぇ、時雨。あなた、なんで途中から葵ちゃんから離れたの?」
「んー、こちらの事情があったので……」
まるで、回答を濁すようにいって、彼は頬をぽりぽりとかいている。
あぁ、いつもの方向音痴かしら。ほとほと呆れちゃうわね。方向音痴、いつまで治らないのよ。
「道に迷ったんでしょ?」
私が笑いながら聞いてみると、時雨は「い、いえっ、そんなことは決して……っ」と慌てたように言った。
図星みたいね。時雨って、本当分かりやすい。
「まぁ、そんなことはいいんだけど……。そういえば、葵ちゃんってなんで私たちの子の設定にしたの?」
私は、ずっと疑問に思っていたことを口にした。
だって、葵ちゃんは歩に懐いていたのよ。なら、歩のところでいいじゃないの。なんで、私たち? 偽装がばれたらどうするつもりよ。
「あぁ、それは。……玲子さんが、『私たちの子が欲しい』って言ってましたから」
その回答に、私は苦笑いしてしまう。
にこりと微笑みながらそう言っている時雨は、どうにも胡散臭いけど、彼の笑顔が胡散臭いのはいつものことだから、気にしないことにした。
それにしても、『私たちの子』って……。まぁ、言った気もするんだけどさ……。
仕方なく、時雨の横顔に、無言の文句をぶつけることにした。絶対、この文句を口にしても笑顔で流されるだけだから。
その時、時雨のスマートフォンが鳴った。有名な曲の着信音だった。
【第六話 END】