複雑・ファジー小説

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【第二章開幕!】 ( No.62 )
日時: 2014/01/31 21:38
名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: fE.voQXi)

 次の日。
 今日は、空が朝から曇っていた。日光が差していない朝は、なんだか薄暗くて、気分の良いものじゃなかった。だけど、太陽がサンサンとしている日よりかは、なんでかは分からないけど、落ち着いた。
 そんなパッとしない日だったけど、今晩、私は思いきって、あのスマートフォンのことを、朔さんに相談することにした。
 でも、朝は何も言わずに、いつも通りに仕事に送り出す。
「いってらっしゃい、朔さん」
ニコリと笑顔でいつものセリフ。これは、朔さんと結婚してから毎日続けていること。欠かした日なんてない。この頃は朔さんは私の方を見てくれなくなったけど、きっとこの想いは朔さんに伝わってるはず。ただ、照れてるだけのはず。
 朔さんの背中が見えなくなるまで、玄関で小さく手を振った。見えなくなると、家に入って家事を始める。
 そろそろ、真人が起きてくる時間。私は、真人の為の朝ご飯を作り始めた。朝ご飯は、サラダとパンと牛乳。パンは、トーストしてから、ブルーベリージャムを程よく塗る。牛乳は、ガラスのコップに注ぐ。サラダは、昨日の晩に使った野菜の残りを、お皿に綺麗に盛り付ける。
 それらを一式、テーブルに並べ終わると、まるでそれを見計らっていたかのように、真人が起きてきた。
 ゆっくりと階段を下りる音がする。低血圧気味なのかもしれないけど、真人が朝がいつも辛そう。朔さんとそっくり。
 
「母さん、おはよ……」

 私がリビングで笑顔で真人を待っているのを見つけて、真人は、弱々しい声でそう挨拶した。目をこすりながら歩いてくる真人の頭には、寝癖があった。それが結構面白いから吹き出しそうになるのをどうにか堪えて、私も「おはよう」って返しておいた。
 真人は、そんな私に気づいているのかいないのか、朝ご飯が並べてあるところの前に座った。まだ、目がトロンとしている。
 
「いただきます……」

 元気なさそうな声で、手を合わせる真人。そんなに朝が辛いのかな。私は、スッキリ起きられるんだけど。
 真人は、それ以外一言も発さずに、もぐもぐと口だけを動かして朝ご飯を食べていた。たまに美味しそうに微笑んでくれるのが、なんだか嬉しい。
 いつも、朝ご飯のメニューは一緒。トーストしてジャムを塗ったパンと、サラダと牛乳。違うのは、ジャムの味くらい。
 手抜きの朝ご飯なのはちょっと申し訳ないけど、朝は朔さんも真人も忙しいだろうし、そんなに手の混んだご飯は要らないと思う。だから、朝ご飯はこれぐらいで許して欲しい。
 暫く、真人が朝ご飯を食べる音だけが部屋を埋めていた。
 
「ごちそうさまでしたーっ!」

 朝ご飯が終わった後の真人の声は、いつも元気。さっきまであんなに暗かったのが、嘘みたい。

「ふふっ、美味しかった?」
「うん、うまかった。母さんが作ると、うめぇよな。俺が作ってもうまくねぇのに」
「真人も、練習したら美味しくできるようになるわよ」

 二言、三言、真人と会話を交わす。
 真人は、私を褒めるようなことを毎回言ってくれるから、嬉しい。朔さんはなにも言わないけど、美味しいって思ってくれてる、絶対に。きっと、朔さんはそれが恥ずかしくて言えないんだ。ただ、それだけ。

「じゃあ、高校行ってくるから!」

 真人は、そういってガタッと席を立った。
 本当、間抜けな子。パジャマ姿でなにも準備してないのに、高校にどうやっていくのよ。
 私は、つい吹出してしまった。こればかりは我慢出来ない。

「はははっ、バカねぇ。そんな格好でどこにいくのよっ」
「ぇ? うわっ、本当だ! やべぇー!」

 真人は、自分の服装とか髪型とかに気づくと、慌てて洗面所に走って行った。
 可愛らしいなぁ、そう思いながら、食器の片付けに入る。
 さっさと洗って、干す。単純な動作だから、あっという間に片付けは終わってしまう。
 洗面所の方で、ドタバタと音がする。そんなに急がなくても、あと三十分はあるんだけどね。まだ、寝ぼけてるのかしら。
 
 やがて、十分くらいすると、真人は家を出て行った。何だか、この頃の真人はとても楽しそう。私も、真人と同じくらいの歳の時は、楽しくてたまらなかったわねぇ、高校生活。今は、楽しいけど……昔ほどじゃないかも。
 あの時は、朔さんも優しくて、周りからよく「イチャイチャカップル」って囃されてて……って、そんな話しても意味ないわよね。今は今、昔は昔だもの。