複雑・ファジー小説
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【★アンケート開始(〆切2/14)★】 ( No.67 )
- 日時: 2014/02/04 21:27
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: CymMgkXO)
私は、引き出しに向かった。そっと引き出しを引いて、イヤホンを取り出す。それをスマートフォンに指して、音楽を選ぶ。
今日は、もう激しい曲を聞きたい気分。だから、この頃流行ってる、早口な歌をセットした。
周りの音が聞こえないくらいの大音量で、音楽を聞く。
すぅ、と肩の上の重みが引いていく。とっても、幸せ。ずっと、音楽を聞いていたい。真人の世話も、朔さんとの話も、全て捨てて、音楽に溺れていたい。
世間は、この私の状態を、「音楽依存」なんて考えるのだろう。
でも、それは私のことを知らないから。
——もう、私はこんな暮らしに耐えられない——
本当は、心の中でずっと思ってた。だけど、それを笑顔で閉じ込めて、理性で消して。
ても、そんな思いが完全に消えることなんてない。この思いは、ゆっくりゆっくり、心の中に蓄積されていく。
周りに分からないように、私自身も気づかないくらいに、少しずつ。
でも、どんなに小さくてゆっくりだったとしても、確実に溜まっていくそれ。
私は、それが心の中で一杯になる時が怖い。いつか、私の中でそれは爆発して、周りの人にも被害を与えて、辛い思いをさせていくのかもしれない。
そんなのは、嫌だ。自分のせいで、周りが苦しむなんて、考えたくない。
だから、私は音楽を聴き続ける。ただ、周りの人に危害を与えないようにするために。
朔さんには、音楽を聴かない様に、と再三注意された。それは、私が音楽に溺れて、ご飯作りも掃除もしなくなってしまうから。
でも、そんなの真人や朔さんでもやれることじゃないの。なんで、全部私がやらなきゃならないの? 主婦だから? そんなの、知らないわよ。
朔さんの言うことに、全て屁理屈を付けてしまう。昔は、こんな気持ちにはならなかったのに。なんで? ねぇ、なんでよ、教えてよ。誰か、教えて。
今日選んだ音楽のサビ。『もうどうなっちゃってもいいのにさ いつのまにか 何かを求めてて でもその何かは分からなくて もどかしくて 悔しくて』。なんだか、私にピッタリ。この歌詞通りの感情になってた、私に。
やがて、音楽は終わる。どれだけ派手な音楽だって、儚く終わってしまう。
終わるのは、五分後かもしれないし、一分後かもしれない。でも、絶対に終わってしまう。
もしかしたら、人間も、音楽と同じなのかもしれない。
生まれてきたら、絶対に終わってしまう。それは、十年後かもしれないし、八十年後かもしれない。
でも、人間が音楽とは違う所は、その終わり方が『キレイ』なものだとは限らない所。
音楽は、全てキレイな終わり方をする。だけど、人間は違う。人に殺されるかもしれないし、病気で早死にするかもしれない。
——さて、私の《音楽》は、一体どんな終わり方をするのかな。——
なんてことを考えながら、私はスマートフォンの電源を切った。そして、イヤホンを引き出しに入れて、鍵をかけておいた。
【第十四話 END】