複雑・ファジー小説

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照900ありがとうございます!!】 ( No.76 )
日時: 2014/03/13 14:17
名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: GlabL33E)

 廊下を全速力で駆けていく俺。そして、そんな俺の方をちらちらとみる他クラスの奴ら。本当なら廊下は走ってはいけないところだが、非常事態だ、仕方ない。あ、良い子の皆はしてはいけないぞ。
 なぜか、俺の学校には、更衣室が三階にしか無い。だから、俺は二階から三階まで走り、そこで着替えてから、運動場まで走らなければならないのだ。あぁ、辛いよ。もう、それだけで準備運動が終わるよ……。
 階段を駆け上がりながら、そんなことを考える。まぁ、三階までの道のりは余裕なんだけどね。

 三階には、三年が大学受験に関する勉強に追われている。噂によれば、三年の授業の中に、体育や音楽などは殆ど無いらしい。まぁ、この噂は嘘だと思いたいけどね。体育がなかったら、俺がただのバカになってしまうじゃないか。
 とりあえず、三年が受験勉強している横で全力疾走したら、流石に先生は許してくれないだろうから、ゆっくりと歩いた。三年の教室を見ないように、顔を背けながら。
 そして、俺はふと足を止めた。女子更衣室の前で。

「ん? あれって……」

 なぜか、少しだけ開いているドア。気になって少し覗いてみると、そこにいたのは……高川さんだった。後姿しか見えていないから確信はできないけど、青髪のツインテールの女子なんて、俺は、高川さん以外には思いつかない。
 ……これは、神様がくれたプレゼントだよな。日頃、勉強をちゃんとして、最近は赤点取らなくなった俺へのプレゼントだよな。見て良いんだよな、お咎め無しだよな!?
 着替えをしている可愛い系女子が見えるというのに、それを見ないという男がいるだろうか。いや、いない。いるわけがない。誰でも、みようとするはずだ。俺は、女子更衣室のドアの隙間から、中をそっと覗いた(多分、このことは三年や先生に見られていたことだろう。だが、これは漢の勇気なのだと思ってもらいたい)。

 更衣室の中にある窓から差し込む光は、高川さんを華麗に照らしている。そんな彼女は、まるで光の天使のようで、とにかく綺麗だった。男子高校生がこんな比喩を使うのは少々女々しい気がしなくもないけど。

 彼女は、割と服は丁寧に脱ぐらしい。
 学校での彼女の噂といえば、「大男の体の上をスキップした」だとか、「人を殺したことがあるらしい」などという、女らしさ、可愛らしさが一欠片もないものばかりだ。が、今の彼女をみれば、どんな人間でもこう思うはずだ。「あぁ、美しいな」と。
 彼女は、上を全て脱ぎ終わると、体操着の上着を着た。つい、シャツまで脱いだところで、もっとみようと凝視してしまったが、とりあえず手に入った情報は、男子高校生には十分なものばかりだ。例えば、ブラジャーがピンクだっただとか、肌が白くて柔らかそう、とか……そんな感じだ。それと、胸は小さめだ、とか。
 その後、彼女はスカートを脱ぐために前かがみになった。そして、ふと……こちらの方を見た。
 バチッ、と目が合う。あ、やばいぞ、これはやばい。本能がそう言っているから、相当やばいのだと思う。
 まぁ、男が女子更衣室覗いてたらやばいのは当たり前だけど……俺の場合は、それに『高川 葵』の恐ろしさが加算されるのだ。
 
 さっと目をそらして、何もしていないふりをして、男子更衣室に向かおうとする。
 しかし、俺の体は、動かなかった。腕に強い圧迫感。現実から目をそらしたい気持ちを抑えて、目線を女子更衣室の方に戻した。——俺の腕は、高川さんに強く掴まれていた。

「おい、お前……じゃなくて、白野君。なにしてたんですかっ?」
 
 なんか、最初の方で女子高校生が口にしてはいけないような言葉が聞こえた気がするが、多分幻覚だろう。いや、絶対に幻覚だ。こんな可愛い彼女の口から……ありえない。
 
「えっと……そのぉ……これは、あの」

 流石の俺も、堂々と覗き見してた、なんて言えない。勿論、雪とかクラスメイトの親しい女子とかだったら、冗談めかしてそういう事もできるけど、この子はかなり純粋な子だ。多分、男子高校生の脳内なんて全く知らないタイプの女の子だ。
 そんな子に、言えるわけがないだろう。こんなに恥ずかしいことを!!
 まぁ、言えないくらいなら最初からやらなきゃよかったんだけどな。

「……覗き見してたんですよね? ……まぁ、白野君ならいいけど」

 彼女の言葉に、その通りですすいませんでしたー!! と、凄い勢いで謝ろうとしたのだが、その後に呟かれた小さな一言に、つい体が動きを止めてしまう。
『白野君ならいいけど』? え、ちょっ、どういうことですか、高川さん!!

 

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【黒の少年は蒼い少女の何を見る】 ( No.77 )
日時: 2014/04/01 17:18
名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: mb1uU3CQ)

 俺が混乱している間に、高川さんは俺から手を離した。

「ちょっ、それはどういうこと!?」

 慌てて高川さんに聞こうとするが、彼女はもう服を全部着替えて、出て行こうとしていた。彼女の腕を掴もうとするが、払われてしまった。

「……今日、放課後。校舎裏で、待っててください」

 そんな言葉を残して、彼女はスタスタと校庭に向かって行ってしまった。いや、そんな謎な言葉残していかないでくださいよっ、高川さん!? 
 とりあえず、これはあの告白的なあれなのだろうか。いや、でも覗き見してた男子生徒に告白するとは思えないし……なら、不良みたいなの一杯引き連れてきて、俺がリンチを加えられるの? いやいや、覗き見くらいでそんなことはしないよね? いや、して欲しくない!
 放課後俺を呼ぶ、という高川さんの行為の意図が分からない。まぁ、これが告白だったら喜んで行くんだけどさ。リンチだったら行きたくないけど……逃げるのは漢として情けないし……悶々。
 暫く考えて、結局俺は放課後、校舎裏に向かうことにした。多分、大丈夫だろ。告白だったら受け止めるし、リンチだったら真人と雪からやられてると思えばいいし。
 よし、決定! じゃあ、着替えるか。
 そう思って、男子更衣室に踏み込んだ時だった。

「オイ、お前……」

 後ろから、なにやら低い声が聞こえた。うーん、この声は聞いたことがあるぞ。なんたって——

「なにやってんだ」

 俺の親父——白野 歩——だから。

「なにって、き、着替え……?」
 
 慌ててそう答える。まぁ、親父が数分前のことを見てたらもう終わりだけどさ、うん。もしかしたら、親父は許してくれるかも……生物学も得意らしいしね。いや、でも、俺まだ更衣室に入ってないじゃん、俺。廊下で着替えるバカはいないだろうし……あ、俺もしかして怒られる?
 と、俺はぐるぐると頭の中で思考を巡らせていたのだが、親父の答えは簡単なものだった。
 
「そうか」

 三文字だった。そして、俺の横を通り過ぎる親父。
 この言葉を聞いて思い出す。この人は、俺に興味なんてないんだ、ってこと。自分の息子が授業に何十分も遅れてても全く無視する人だった、ってこと。
 せめて、「なんで遅れてるんだ?」って聞くとか、してくれたらいいのに。それさえもしてくれない。
 本当、俺が言うのもなんだけどさ、「父親」って自覚あるのかな、俺の親父は。
 なにも見てない、聞いてない、そんな感じで歩いていく親父は、この学校の保険医らしい。白衣を着ているから、誰でも分かる。
 ちなみに、変わってるかもしれないけど、俺の母さんもこの学校の教師だ。担当教科とかは知らないけど。
 つまりは、俺の両親はどちらも教師だ。もしかして、俺や雪も教師になるのだろうか……なんて、一時は心配したが、まぁ、それはない。俺らは頭悪いし。特に雪は。
 そんなことを考えながら、男子更衣室に入った。この男子更衣室は、女子更衣室とは違って窓がない。だから、日が差さなくて、いつも薄暗いのだ。面倒臭いなと思いつつも、サッカーはしたいからのろのろと着替え始める。
 と、何故か廊下の方からバタバタと大勢の人間が歩いているような音がした。あれ? と思って、更衣室のドアを少し開けて様子を見てみる。
 そこには……さっきまで外にいたはずの俺のクラスメートがいた。

 「ちょっ、なにしてんだ?」

 つい疑問に思って聞いてしまう。だって、まだ授業終了までには時間あるだろうし。こいつらが更衣室にくる理由はない。

「あー、いや、そのな。雨が降ったんだよな、だからもう授業終わりだってさ。ふざけんなって話だよなー、まだ試合決着ついてねーしさ」

 不満そうに弥生が言う。赤い髪をがしがしと掻く姿からも、かなり苛立っているのが分かる。しかし、俺が気にするのはそこではない。

「は? 雨?」

 そんなはずはない。——だって、(ちょっと恥ずかしい話だが)さっき高川さんの着替えを覗いた時には、女子更衣室の窓から日が差していたのだから。
 窓がない男子更衣室、雨音は……しなかった。

【第十六話 END】