複雑・ファジー小説

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照1000記念SS公開中】 ( No.81 )
日時: 2014/05/06 17:29
名前: 紗倉 悠里 ◆kvgzsaG21E (ID: MgUgGnIS)

【第十七話】<“雨雨ふれふれ” なーんてな> -白野 夜人-

「んなわけねーだろ? だって、さっきまで晴れだったんだぞ!?」
 
 苛立っている弥生に言い返す。すると、弥生は笑いながら言ったのだ。それは、楽しそうな笑いではない。俺を嘲るかの様な笑いだった。こいつはよくこんな笑い方をする。慣れていても、やっぱり腹が立つ。

「バァカ。俄雨に決まってんだろうが」

 『ニワカアメ』? なんだそれ。
 。。あぁ、あのザッと降ってサッと止むあれか。まぁ、それならあり得る気がする。だとすれば、もしかしたら俺があの子の覗き見をしてた時にはもう雨が降ってたということなのか。そうしないと、弥生達だってそんなに早くこの階まで上がってこれないだろうし。

「ハハッ、お前ってマジで頭悪いな」

 弥生が意地悪く笑ってみせると、周りの奴もそれに合わせて笑い出した。その声に、高三の奴等がウザそうにこっちを見ているのが分かった。
 でも、確かに、今のは俺が頭悪いのがだめだったんだよな。あー、残念。理科は割と得意だったはずなんだけどな、小学生の時は。

「仕方ねーじゃん、普段『俄雨』とか使わねーし」

 俺も一緒に笑いながら、そう言ってみる。弥生も、その言葉で尚更爆笑していたが、高三達を教えていた教師が流石に怒ってきて、一瞬でその場は静かになった。
 
 とりあえず、弥生たちはさっさと服を着替えて、教室に帰って行った。俺も、その集団の中に混じり混んで、教室へと向かう。
 さて。よく考えてみれば、俺、一時間目サボったのか。やばいな、先生に怒られそう。怒られるんだったら、巨乳のお姉さんか、高校生にしか見えないようなロリロリしてる可愛い人がいいのに。なんで、毎回毎回禿げたおっさんに怒られなきゃならないんだろうか。はぁー、やだやだ。
 これは、怒られないように逃げるしかないよな。今日は、体育の教師に巡り会わないように気をつけておこう。
 そんなことを考えながら、自分の席に着く。そして、ため息をついた。
 すると、それと同時に授業終了のチャイムが鳴った。キーンコーンカーンコーン、とお馴染みの音楽を聞き流しながら俺は、もう一度ため息をついた。

——「早く放課後になって欲しいよ、マジで」


 

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照1000記念SS公開中】 ( No.82 )
日時: 2014/05/25 17:56
名前: 紗倉 悠里 ◆kvgzsaG21E (ID: G1aoRKsm)

 二時間目、三時間目……そして、六時間目。今日の最後の授業だ。
 俺らが授業を聞いていても、聞いていなくても、時間は過ぎていく。
 意味のわからない数式をジジィが並べ立てていく数学や、巨乳のお姉さん系の先生が白衣を着て、これまた意味のわからない記号を教えてくれる理科。そして、ロリロリした妹系の先生が語り出す現代文や古典を学ぶ国語。……ジジィはともかく、女方には申し訳ないが、俺の感想は、全て『つまらない』の一言だ。
 もっと面白いハプニングがあればいいのに。いっそのこと、保健体育の授業が毎日あればいいのに。それで、男の体の仕組みじゃなくて、女の子の体の仕組みを美人な女医さんが教えてくれれば尚更GOOD!!
 俺が、そんなピンクな男子高校生らしいことを妄想していると、「ピシッ!」と、なにか硬いものが額にヒットした。
 それは、俺の石頭によってパラパラと砕けて、重力によって下に落ちていく。その白い塊の正体は言わずもがな、「チョーク」である。多分、俺の額は一箇所だけ真っ白になっていることだろう。

「ちょっと、白野くん! なにをボーッとしてるの!」

 わーぉ。見事な美人ボイス頂きました。
 今は、理科の時間。担当の先生は、高川玲子先生。我が校に誇る巨乳美女だと、俺は思っている。ついでにいえば、あの可愛らしい高川さんは、この先生の娘さんだ。
 さて、この高川先生。実は、特技が……チョーク投げ、なのだ。
 チョーク投げとは、皆さんご存知、「漫画によく出てくるけど、実際にはあまり見ない二次元に精通する必殺技」のこと。
 勿論、俺は今現実にいる。だが、誰が考えられるだろうか。巨乳美女からチョーク投げを受ける男子高校生が現実にいる、ということを!
 この丸菜学園、そういうところだけは男子高校生に都合良いところが多い。俺たち男子生徒は、ここに入れてもらえたことを、今一度両親に感謝しねばならぬだろう。そして、都合をよくしてくれた校長にも(ここの校長は、女好きだという噂がある)。
 さて。ここまで喜んでいては、俺がMだと勘違いされかねない。ということで、定義しておこう。「チョーク投げは痛い。美女がやるからこそ我慢できるが、禿げた野郎にやられたら、腸が煮え繰り返るほど腹が立つ」と。
 この定義に沿えば、高川先生が美女だから、俺は我慢できる、ということになる。最も、その通りだ。
 しかし、我慢できたから、その先生の怒りが収まるかといえば……そういうことではない。

「こら、聞いてるんですか!? 返事しなさい!」

 あまりの痛さを我慢しようとして俯いているうちに、またもう一本新品のチョークが投げられる、ということもある。こんな時は最悪だ。大体が一本目より威力が強い、と相場で決まっているのだから。

「いってぇっ!!」
「授業を聞いてないのが悪いんでしょうが!」

 最もなことをいわれて、返しが思いつかない。でも、授業って面白くないから仕方ないのに……。
 そう思ったが、高川先生に嫌な奴だと思われるのは嫌だから、「すいません」と素直に謝っておいた。周りからクスクスと笑い声が聞こえたが、気にしてはいけない。
「ん、よろしい」と先生が機嫌を直した所で、俺は椅子に座る。
 授業中にボーッとしているだけでチョークをくらうってのも、よくよく考えれば酷い話だ。
 そう思いながら、俺は額や髪などについた白い粉をパタパタと払っておいた。
 そして、今度は怒られないように、とシャーペンでひたすらノートに文字を書き連ねていった。
 そうこうしているうちに、あっというまに授業は終わり、俺のお楽しみの時間は刻一刻と迫って行った。

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照1000記念SS公開中】 ( No.83 )
日時: 2014/08/23 08:44
名前: 紗倉 悠里 ◆kvgzsaG21E (ID: MgUgGnIS)

 そして、遂にやってきた放課後。
 俺は、ワクワクしつつ、教室を出た。周りのクラスメートに「なあ、夜人! 帰りにどっか食いにいかね?」と誘われた。「俺には、お前らと食いにいくよりも楽しいことがあるんだ。すまないな」と言うわけにはいかずに、ちょっと用を済ませてからついていくから、校門あたりで待っててくれ、と言っておいた。
 俺は、高川さんとのことと、真人との約束とがあるからな。

 バックを片手に、校舎裏へ。てっきり高川さんはもう来ているものだと思っていたが、まだ来ていないらしい。可愛らしい高川さんの姿はなく、あるのはただ、伸びっぱなしの雑草だけだったからだ。
 とりあえず、高川さんを待とう。女の子を待つというのも、これまた青春あるあるの一つじゃないか。いくらでも待つぞ、俺は!
 最初は、高川さんの着替えを覗いたから、これからリンチをかけられるのではないか、と恐れていた俺だが、多分それはないだろうという結論に辿り着いた。理由は、俺の勘だ。青春男子の勘は高確率で当たる、ということを何かの本で読んだことを思い出したのだ。絶対、高川さんは俺に告白しに来たに決まっている。高川さんが俺に惚れていなければ、『白野くんだからいいけど……』なんてことは言わないだろう。まぁ、これはただの俺の自惚れでもあるのだが。

 しばらくはじっとして待っていたが、高川さんはなかなかこない。まだHRが終わってないのだろうか。
 十分程経ったが、まだ来ない。流石に暇になったから、隣においてあったバックからスマートフォンを取り出した。ロックを解除して、ゲームアプリを開く。

 これは、俺が最近ハマっているゲームで、「Die Application」という名前だ。Dieというのは、「死ぬ」じゃなくて、「サイコロ」という意味。
 このゲームは、サイコロを使ったボードゲームで敵と戦うのだが、これがとても面白い。まずはサイコロを振って、出た目の数だけ進む。そして、止まったターンにいる敵と戦う。ターンの数字が大きくなるごとに、この敵もどんどん強くなっていく。
 戦い方も、簡単だ。またサイコロを振って、手持ちのモンスターの攻撃力×出た目の数のダメージを敵に与える。モンスターは、一匹しか連れていくことができない決まりになっている。例えば、俺の手持ちのモンスターの攻撃力が【1700】だったとしよう。そして、出た目が【5】だとすれば、【1700×5】で、【8500】のダメージを与えることができる。一発で敵が倒れるのをみるのは、とても痛快だ。

 このゲームの面白いところは、キャラクターデザインが可愛いこともあるが、何よりこの爽快さだと俺は思っている。なかなか、1ターンでこんなにダメージを与えられるゲームはないだろう。その上、無課金でこのクオリティなのだ。
 課金すればもっと楽しめるだろうが、俺はまだ高校生だからそれはできない。少し残念だが、仕方ないことだ。

 しかし、俺は最近このゲームをあまりやっていなかった。前言を覆すようだが、最近は楽しくなかったのだ。なぜならば、どんどん俺自身のランクが上がっていくに連れて、敵が強すぎて倒せなくなっていったのだ。
 しかも、その強い敵は、なぜかロリータファッションのツインテールっ娘だった。こんなの、可哀想で倒せるわけないじゃないかっ!

「はぁ……」

 小さくため息をつく。まただ。
『ゲームオーバー! コンティニューしますか?』という表示が出る。俺は、いいえを押す。コンティニューするには、ゲーム内で利用できるコインが必要なんだが、それは課金しないと買えない仕組みになっている。課金の他にも、ログインボーナスなどで手に入れることも可能ではあるのだが、そんなのはすぐに消費してしまう。

 何度かチャレンジしていたが、やっぱり勝てなかった。いつの間にか、スタミナも0になっていた。1ダンジョンにスタミナを10程消費してしまうから、スタミナもすぐになくなる。
 はぁぁ……と、また大きくため息をついた。最初は、すげぇ面白かったんだけどなぁ。そう思いながら、ゲームをやめてホーム画面へと戻った。

 ——その時だった。
 とんとん、と誰かに肩を叩かれた。高川さんだと思い、さっと振り返った。

「あの……白野くん、待たせちゃってごめんなさい」

 申し訳なさそうに軽く頭を下げるその人。どうやら、俺の天使こと高川さんが降臨したらしい。

「いやいや、俺も今来たところだよっ」

【第十七話 END】