複雑・ファジー小説

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【刺されると痛い。】 ( No.86 )
日時: 2014/07/03 20:49
名前: 紗倉 悠里 ◆kvgzsaG21E (ID: I.inwBVK)

【第十九話】<事後処理はお任せで> -“狂った子供チルドレン”-

 今日は気分がいいな。
 目の前の倒れている男を見下ろす。彼は確か、「白野 夜人」だったはずだ。
 ——そして、今日死ぬことが決まってた哀れな人。
 
 彼がやっていたスマートフォンのゲーム、「Die Application」。これは、ただの面白いゲームなんかじゃない。
 まぁ、普通に考えればわかることなんだが、「Die」とはサイコロ、という意味の他に、死ぬ、という意味がある。このゲームは、そんな掛け言葉で作られたものだ。

 仕組みは割と複雑。ユーザーを適当な広告などで集める。そして、集まったユーザーには番号を割り振っておく。——これは、所謂「ユーザーID」と言うやつだ——そして、その番号には秘密がある。それは、「白野歩と高川時雨による絶対的秘密との密接度」だ。密接度が高ければ高いほど、番号の最初の二桁の数が小さくなるのだ。
 例えば、白野歩の子である夜人は、歩との血縁関係はあっても秘密との関わりは比較的少ないため、「18」になる。
 
 ユーザーは、この番号によって、管理される。もちろん、最初の二桁が小さい順から並んでいくのだ。
 今のところ、一番数が小さいのは、「赤崎 真人」という男で、夜人の友人で、「5」だ。まぁ、そんなのはどうでもいい。
 とりあえず、数字の小さい人は、可哀想な人だ。このゲームは、数字が小さい人から順に殺していくのだから。でも、なんで今回夜人が殺されたかって言うと、ちょっと不都合なことがあったからだ。歩曰く、「真人に『Die application』を認識させてはいけなかった」らしい。ボクにはよく分からないけど。

 このゲームの存在理由は、簡潔にいえば「絶対的秘密に関与した人間を社会から断つ」ことだ。だから、秘密を知る人は、片っ端から殺されていく。それも、秘密をたくさん知っている人から先に。
 まぁ、もちろんゲームの力で殺すなんてことはできないから、ボクや時雨、歩などいろんな人達が殺戮に関わる。ゲームは、その死体を、まるでゲームデータのように消してくれる能力があるのだ。この能力は、もう魔法とか、そういう類のものとしか考えられない。

 今だって、不思議なことに、目の前の夜人の身体が輝き始めていた。傷口が赤く輝き始め、やがてその光が全身を覆い、赤い光が白い光になった瞬間、その遺体は跡形もなくなくなってしまう。

 おっと、最後にこの説明を忘れていた。このゲームで消えた人間の事は、世界のすべての人間が忘れてしまう。だから、夜人が消滅すれば、ゲームによって、白野夜人はこの世に存在しなかったことになる。だから、いなくなって疑問を持つ人もいないってことだ。本当、都合の良すぎる話だよな。あり得ない位のご都合主義ってやつだ。

「おい、“狂った子供チルドレン”。なにじっと死体眺めててるんだ、気色悪いぞ」

 そんなボクの物思いを遮るのは、タバコを咥えて含み笑う白衣の男——“傍観者ノーサイド”——だ。
 それにしても、言い様だ。気色悪い、はないだろう、どう考えても。せめて気味悪いにしてほしい……って、あまり変わらないな。

「別に、気色悪くはないだろう!」
「いや、気色悪い。考えてみろ、あんなグサグサ刺されてる死体をみてる幼女だぞ」
「それくらいイイじゃないか。それと、幼女言うな」
「っは、本当性悪だな。どーせ、切る感触が楽しかったとか言うんだろ?」
「別に」

 “傍観者ノーサイド”が笑いながら、ボクの頭を撫でるから、それを振り払う。“傍観者ノーサイド”は、ボクのことを子供扱いしすぎる時がある。やめて欲しい、ボクだって一応は高校生なんだから。

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【刺されると痛い。】 ( No.87 )
日時: 2014/07/03 20:58
名前: 紗倉 悠里 ◆kvgzsaG21E (ID: I.inwBVK)

「まぁ、そんなことはいいんだ。とりあえず、お前はさっさと帰れ」

 歩は、キョロキョロと周りを見回してからそう言った。歩も、人目を気にしているのだろうか。
 一応、ボクらは学校では教師生徒の関係だ。あまり関わっていると、色々勘違いされかねない。周りには歩が、「縁戚の関係にある」と話してくれているのだが、それでも近づきすぎるのは不味い。だから、いつも人目につかないところで話をしているのだ。
 しかし、今日はただの裏庭。鍵をかけることができる空き教室でもないから、かなり危ないのだ。もしかしたら、ボクが夜人を呼び出す時にもっと危なくないところに呼び出せばよかったのかもしれない。でも、変な所に呼んだら、きっと怪しまれていただろうから、結果はここでよかったのか。

「おい、なにボーッとしてる。帰れ」

 歩が顔を近づけてきたらしい。歩の顔が突如目の前に見えて、慌てて後ずさった。
 
「わ、分かってるって。じゃあな」

 そう答えて、さっさと帰ることにした。いきなり顔を近づけてくるなんて、恐ろしい男だ。ちょっと考え事をしていただけなのに。

 裏庭を出て、荷物を取りに校舎へ戻る。ふと、歩は帰らないのか、なんてことを考えたが、あいつの事だからまた何かやるつもりなのだろう、と簡単に結論づけておいた。

Re: 太陽の下に隠れた傍観者【刺されると痛い。】 ( No.88 )
日時: 2014/08/24 13:16
名前: 紗倉 悠里 ◆kvgzsaG21E (ID: fE.voQXi)

 自分の教室へ行こうと廊下を歩いていると、ふと一組の教室に人影を見つけた。何をしてるんだろう、こんな時間に。
 何気無く窓から覗いてみると、二人の男が話していた。片方は、見たことがある。ボクが入学式当日にあいつにからかわれたからな……! あいつは、不良そうな感じで、制服をかなり着崩している。
 そして、もう一人。こうやって見るだけでも、かなり弱そうな奴だ。さっきからずっとおどおどしているのが、ボクでも分かった。
 何を話しているのか気になって、もう少し身を乗り出す。二人は話に夢中になってるみたいだし、多分バレることはないはずだ。

「ねぇ、やっぱり死んでたって!」
「なにいってんだよ、バカじゃねーの?」
「本当だって! 青いツインテールの子が殺ってた」
「は? 青いツインテールの女が殺ってたのか?」
「うん。本当だよっ」
「絶対ねぇな」

 どきっとした。こいつら、と言うより片方のおどおど男は、あれを見ていた、と言うことか……?
 やばい。これはやばいぞ。こいつらの口封じをしなければならないかもしれない。でも、こいつらは殺しても消えないしな……。
 昔みたいに、何でも殺す訳にはいかない。昔は警察や科学の技術が進んでいなかったからばれなかったが、今の向上具合は、流石に侮れるものではないのだ。
 とりあえず、まだ様子見をすることにした。

「本当だよ、なんで信じてくれないの?」
「そりゃ、あり得ないからだろ。バカ」
「バカじゃないっ」
「はいはい。……で、それにしてもさっきから覗いてる青いツインテールの子は何の用だ?」
「へ、覗いてる?」

 不良が、こっちを見た。また、どきっとした。おどおど男も、同じくこちらを見る。逃げなきゃ、そう思ったが、体が動かなかった。

「おーい、高川さん? 盗み聞きは良くないなァ?」

 不良が立ち上がり、こちらに寄って来た。顔には、優しげな笑顔が張り付いているが、纏っているものは、明らかに殺気とかそういう類のものだった。というか、なんでボクの名前を?
 思わず後ずさりするも、それ以上動かない。

「す、すいません……っ」
「謝る必要ないよなぁ、高川さん。だって、俺のパシリがお前のこと殺人鬼呼ばわりしてたんだからなァ? なぁ、御鎖?」
「だっ、だって本当に殺してた、からっ」
「ってさぁ。で、そこん所、どうなわけ? 本当に、殺したのか?」

 不良は、おどおど男——御鎖と言うらしい——に確認を取った後、ボクと急激に顔を近づけて聞いた。表情が真顔になる。
 不良が付けているだろう香水の匂いが、かなりきつかった。

「そんなこと、するわけないじゃないですか」 

 さっと顔をそらした。相手の顔が見られない。こちらのことを見透かされそうで怖かったのだ。

「ふぅん。そうか。じゃあいいよ、帰りな」

 不良の真顔が、先程の笑顔へと変わる。それも、今度はかなり軽い雰囲気のものだった。
 ふぅ、と一息つく。そして、教室から早々と出た。

「でもさァ、考えられないよな、人を殺す奴の気持ちなんてさ」

 後ろから、不良の声が聞こえた。だけど、聞こえなかったふりをして、階段の方へ走って向かった。

「怪しい。なぁ、御鎖?」
「だから言ってるじゃん……、三奈木くん」

 まだ、あの教室で2人がボクのことを話しているとは知らずに。

【第十九話 END】