複雑・ファジー小説
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.17 )
- 日時: 2013/12/20 23:37
- 名前: 雛(元:桜 ◆N64vfsjfrs (ID: I/L1aYdT)
___面倒で、面白い人 b___
「…………」
あれから数十分間、僕と少年は小刀と鋏で殺り合っていた。刃と刃が当たる音、弾く音、地を蹴る音、無音の屋上にそれらが高く大きく響き渡る。
「っ……流石、このままじゃ此方が先に負ける羽目になるだろうな……」
少年は荒くなった息を整えながら言う。彼は本気じゃないだろう、本気なら今頃僕はズタズタに切り裂かれてたと思う。
「……本気、出してほしいのですが」
「とっとと始末してぇんじゃねぇのかー?」
彼は笑いながらそう僕に問う。少年は僕の目的が殺人だと言うことを読んでいたようだ。
「最初はそうでしたが今は違います……」
「……と言うと?」
「じっくり楽しんで消したいです」
僕ははっきりと答えた。こんなことを一般人に聞かれれば絶対通報されるだろう。
けど、目の前にいる少年は僕と同じような感情を持ちながら戦っている。そう思ったから言った。
「っはは! 悪趣味だなー」
彼は笑って言うと鋏を仕舞った。
何故? 僕はもっと彼と戦いたかった上、最終目的は殺すこと。なのに途中で止められては困る。
「もっとやりたそうだなー」
少年ははぐらかすように笑い、僕の方に近づく。
「御前気に入った!」
急に明るい元気な子供のような声で彼は言い、僕の頭を撫でてきた。
「……何なんですか」
再び小刀を構える僕に対して彼は戦闘体勢を解いた。
不愉快だ。掌で弄ばれているようだ。何だか悔しい。
標的が戦わないとしても直ぐに始末出来るがそれじゃあつまらない。僕はそんなつまらないと思う、つまらない考えのせいで彼を殺せなかった。
今思えば少年は最初からそのつもりだったのだろうか。
「ふざけないでください……」
僕は小刀を振ろうとした瞬間、彼が耳元で囁いた。ズルすぎることを、僕の欠点をついてくるような、小癪なことを。
___君と同じ種族の人が一人居るぞ___
大抵の事に無関心な僕でも興味を示すこと。彼は僕の扱い方を知っていたようだ。
「情報、欲しいか?」
笑って、見下すように笑って問う少年。彼の質問に僕は
___………はい___
そう答えていた。無意識に、ただ本能に逆らえずに。
僕は簡単に彼の戦略にひっかかってしまった。……面白い。
面倒な程僕に絡み付いてくる触手のように彼はやたらと僕に絡んでくる。
面倒な情報と能力を持った面白い人。
これだから人間は面白いんだ。
「そう言えば御名前は?」
「あぁ……俺は五戯奏だ。お前は?」
「僕は深淵今宵です。宜しく御願いします」
僕も気に入ったよ
キミのこと。
何時しか少女は惹かれていた。
五戯奏と言う先輩に
いろんな意味で、惹かれていた。
それは愛なのかそれとも闇の中の何かなのか。
今は誰も、本人で冴えも分かっていなかった。