複雑・ファジー小説
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.19 )
- 日時: 2013/12/25 14:15
- 名前: 雛(元:桜 ◆Uu32iDB2vY (ID: I/L1aYdT)
第五話「大人組」
___迷子になって___
僕は屋上で昼食をとった後、普通に授業を受けた。今は下校中、左には宮野さん、右には西原さん、前には永原さんが居る。彼等は僕の“トモダチ”と言うことになった。宮野さんと永原さんの場合は自然にそうなっていた。
彼等が街を案内してくれるらしいので僕は三人についていく。廊下にはいそいそと歩く教師、昇降口には帰宅する生徒達、グランドや体育館には部活などをする生徒達が居る。
何故そんなに楽しそうなんだ? 何故そんなに一生懸命になれる?
僕は疑問を抱きながらも靴を履き替え校舎から出た。三人と一緒に。
永原さんは校門から出ると此方を向いた。
「先ずは此処から近い所とかからだな!」
彼は楽しそうにそう言う。何故? 人に町案内するのは面倒だろう。どうしてそんなに楽しそうにしているんだ?
「そうですね……。助かります」
だが後々迷子になるのは嫌なので一緒に行くことにする。
「よっしゃ! じゃあ行くぞー!」
「ぁ、待ってよ普臣!」
永原さんに続き、宮野さんも走っていく。この場に居るのは西原さんと僕だけ。
「気にしなくても良いですよ。何時もあんな感じなので……」
彼女は苦笑いして僕に言うとゆっくり歩き出す。
「あ、勿論ゆっくりで良いですからね?」
彼女は微笑む。最初会ったときの暗い顔など無かったかのように。
「はい……」
僕は歩みを進め、彼女の隣を歩いた。
空は何処までも青く雲一つ無い晴天だった。
「___おかしい」
僕は今街中のカフェの前に居る。近くにはカフェのスタッフであろう人がチラシを配ったりしている。その少し離れた所で僕は一人突っ立っている。
さっきまで僕は三人の友達と一緒に行動していた。が、いつの間にか一人になっていた。引っ越してきたばかりで見慣れない街並み、知らない人達に少し不安になる。
そう、僕は_____迷子になってしまった。
下手に動けば違う街や変な場所に行ってしまうだろう。僕はどうすることも出来ず徒辺りの景色を見ているしかなかった。
「其処のお嬢ちゃーん、どうしたのー?」
そんな僕は、聞き覚えのない声を掛けられた。世に言うナンパか、それとも何か別の……
「まぁまぁ、そんな警戒しなくて大丈夫だよ」
気がつけば目の前に二人の男女が居た。双方共に二十代半ば程でにっこり笑って居た。
男は栗色の髪に髪と同じ色をした瞳を持ち、女は薄い赤色の髪に紅色の瞳を持っていた。
「あなた方は何方ですか?」
知らぬ人間に警戒しないなど徒の馬鹿ではないか、そう思い問った。
「私達は徒の通りすがりの一般市民よ」
女の方が微笑んで言う。けれど決して一般市民などではないだろう。勘だがそう思う。だってこの人達の笑みは___
他の人間とは少し違うから
「そうですか……」
「……あ、もしかして迷子とかになってた?」
僕が適当に返事を返すと男の方が図星を突いてきた。最初から迷子だと想定して話しかけてきたのだろう。
「…………」
「図星みたいね〜」
女は笑ってそういうと僕の方に近付き僕の頭に手を乗せ撫でた。
「っ……。何してるんですか……」
僕はいきなりのことで吃驚した。初対面の人に撫でられるのは想定外だ。と言うか迷子になること事態想定外だった。
「あはは、ごめんごめん。ねぇ、ちょっと付き合ってくれない? 迷子なら私用序でに送ってあげるから」
ね? と言いウインクをして肯定を待っている。何故だ? 僕が付いていっても何も利はない筈だ。
だがしかし、家まで送ってくれると言っているのだ。肯定せずにはいられない、僕は口を開き
「良いですよ……」
肯定した。女は嬉しそうに笑みを溢すとまた僕を撫でた。
「じゃあ行こうか!」
男も嬉しそうに言い、私の手を繋いだ。
「あの……?」
何故手を繋ぐんだ? 僕は不思議そうに彼を見た。
「逃げられたら困るから、ねっ」
語尾に音符の付くような勢いで言うと彼は僕の手を握ったまま歩き出した。
暗い路地裏に停まっていた黒い車の所へと。
「___で、何故僕がこんな格好をしなければいけないのですか」
僕は今、メイドの格好をしている。前には賑やかな雰囲気の建物が。そう、其処はメイド喫茶だ。
何故だ? 僕はバイトをしたいなんて言った覚えは無いぞ?
今は路地裏に居る。メイド喫茶の中に居るのがしんどくて出てきた。
「さぁな……」
僕の隣には一人の男の人が居る。深緑の髪に灰色の瞳の男は路地裏の壁にもたれて僕との会話を繋ぐ。
別に答えなくても良かったのに……。彼は僕がとある男女二人組に引っ張られて乗せられた車の中に居た人だ。運転手はまだ車の中に居るだろう。
男は落ち着いていて大人しい、何処かの男女とは大違いだ。因みにその男女は今メイド喫茶で接待やら何やらをしている。
「貴方は行かないのですか……?」
あの二人と居たのだから彼もその仲間だろうと思いそう問った。
格好良い部類に入るであろう彼の執事服姿は嘸客受けが良いことだろう。
「馬鹿なことを言うな。俺はそんなのには興味ねぇ……」
落ち着いた口調で静かに言う彼は今まで見てきた人間とは違った何かを持っているように見えた。
「そうですか……」
「ま、無理すんな。あの馬鹿共は無視して此処で休んどけ」
男はそう良い僕の頭を撫でた。今日はよく頭を撫でられるな……。
にしても彼は大分優しく撫でてくる。優し過ぎて何をしているのか分からないくらいだ。
「本当に、優しいんですね……」
そう言うと彼は照れたのか黙り込んでそっぽを向いた。耳が赤い、シャイな人だな……。
人間は面白い
たった一言で照れるのだから。
人間は面白い
初対面の子供に優しくする。
「御名前……お伺いしても宜しいですか?」
「あ、あぁ……俺は藤波境介だ」
「藤波さん、ですか……。僕は深淵今宵です。宜しくお願いしますね……」
これからはもう会うことはないだろう人に僕はそう言った。
「あぁ……」
初対面の僕に、彼は微笑んだ。嬉しそうに、照れながら。
これだから人間は見ていて飽きないんだ。
宜しくね
藤波境介さん___