複雑・ファジー小説
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.22 )
- 日時: 2013/12/31 00:25
- 名前: 雛(元:桜 ◆Uu32iDB2vY (ID: I/L1aYdT)
射撃場の三人
今、俺は知り合いの車の中にいる。車内は俺と運転手の馬鳥羽以外にもう一人居る。
黒いコートは着ているものの、何時も被ってるらしいフードは外している。そのお陰で素顔がよく見える。
艶やかな黒髪に光を受け入れない紅い瞳、整った顔立ちに白い肌。稀に居そうな美少女だが瞳の奥は無心、無感情のように見える。
こいつは普通じゃない、俺がそう思った理由の一つだ。
「此処がデパート、彼処が公園だ。交番は公園の近くにあるぞ」
俺はその少女、深淵今宵に街を紹介する。偶俺の馬鹿な仲間が深淵を連れて来て色々あってこうなった。
彼女は此処に引っ越してきたばかりで迷子になるのは嫌だから街の案内をしてほしいとのこと。
此処は結構広いので案内しても迷う奴は多々居る。こいつがそうならなければ良いんだが……。
「……あの、あれは……?」
案内の途中、彼女が声を発して興味を示したモノを指した。彼奴の指した先は射撃場、基本本物の銃やライフルを使ってする大人しか遊べない所だった。
「あー、あれは大人しか……って、居ねぇ……」
助手席に座っていた俺が後部座席へ振り向くと少女は居なくなっていた。
車は信号で停止していたので降りられなくは無かったがドアを開け閉めする音、足音は一切聞こえなかった。
「おい、其処ら辺の駐車場に停めて待っとけ」
俺は馬鳥羽にそう指示を出すとシートベルトを外し外へ出た。
しかし彼女の姿はもう近くには無かった。
「…………」
黒いコートを羽織りフードを被った少女が一人町を歩く。回りには老若男女が街を歩いていたため人の波に押されそうになっていたが少女はなんとか目的地の前まで来ることが出来た。
射撃場と黒文字で書かれた看板があり、壁は防音効果のあるものが使われていた。
普通では恐らく存在しないであろう場所に彼女は居た。其処は大人なら一般人でも射撃が出来る場所、勿論ガードマン付き。
しかし少女はガードマンの目を盗んで勝手に中へ入っていった。
それを一人の男が見ていた。口角を上げて、怪しく笑いながら。
「…………」
中に入ると大きな発砲音が絶えず聞こえる。大人が数人射撃をしていた。仕切られた空間で、誰にも邪魔されることなく楽しんでいた。
「人間は危ないな……」
「そんな所に来てる子供はもっと危ないんじゃない?」
少女は冗談で言うと、背後から声がかかった。少女は聞き覚えのある声に思わず振り向いた。
「っ……! 何の用ですか……」
「別に〜? ただ射撃場に来てる駄目な子供を叱りに来ようと思ってさ」
「嘘吐かないでください……」
へらへらと笑って言う男に対し、少女は警戒心を強め睨みながら言う。
「はは、ばれちゃったか。ま、当然だね……」
少し間を空けて、男が再び口を開く。
___射撃、やってみてよ___
相変わらず笑ったまま、怪しくそう頼んだ。
「……別に良いですけど」
少女は了承した。これは彼女が初めて人にの銃の腕を見せる時だった。
少女と男は仕切られたスペースの所に移動し、彼女はヘッドホンを着け銃を持ち、彼は少し離れたところでヘッドホンを着けながら壁にもたれてそれを見ていた。
少女が撃とうとしたまさにその瞬間、誰かがそれを阻止した。
「…………?」
「ちょっとー、何邪魔してんのさ境ちゃーん」
「だからその名前で呼ぶな!」
阻止したのは深緑の髪に灰色の瞳の男、藤波境介だった。彼は少女が車内から居なくなった後、射撃場に入っていくのを見たらしく、直ぐに探し出すことが出来た。
「藤波さん……」
「お前も何こんなとこに入ってきてんだよ、馬鹿か」
境介は軽く少女の頭を叩くと彼女から銃を奪った。
「にゅ……すみません……」
「あー、境ちゃん子供に暴力振るったー」
「るっせぇっ。おい、帰るぞ」
「いって!」
境介は思いっきり男に拳骨を喰らわせると少女の手を引っ張り射撃場から去っていった。
「チッ……折角銃の腕を拝見させてもらえそうだったのに……。ま、いっか」
男はベッドホンを元の場所に戻すとまた怪しく笑って帰っていった。
「ったく、勝手に出歩くんじゃねぇよ」
「すみません……」
僕は今藤波さんに引っ張られながら黒い車の許へ戻っている。先程までは射撃場に居た、何とか彼の目を盗んで出ていけたものの結局は見つかってしまった。少しは射撃したかったのに。
車まで後少しのところ、急に彼は足を止めた。
「藤波さん……?」
「なぁ……お前は一体_____何者なんだ?」
彼は口を開き、そう僕に問った。勘の鋭く面倒な人によく問われることを。