複雑・ファジー小説
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.3 )
- 日時: 2013/12/03 00:16
- 名前: 桜 ◆N64vfsjfrs (ID: I/L1aYdT)
誘う少年と笑う少女
路地裏には二人の人物が居た。一人は指定された制服を着た黒髪の少年、もう一人は黒いコートを羽織ってフードで顔を隠した少女。
少年は髪と合った黒い瞳、少女はフードからはみ出た紅い瞳で双方を見ていた。
暫くの沈黙、路地裏は朝でもあまり光を通さない。物音一つしない人もあまり来ない静寂な場所。
「御礼と、御詫び……」
その静寂を切り裂いたのは少女の方だった。
「ぁ……そんなの別に良いよ。今時間無いし、学校直ぐ近くだし」
少年は慌てて彼女に言う。気遣われるのは苦手なのだろう。実質彼の目的地は少し歩けば5分ぐらいで着く。
「駄目です。直ぐ近くなら其処まで着いていきます……」
「いや、でも……。……わかったよ」
結局彼女に押された少年は見送りを受け入れた。
そしてまた生まれた沈黙。路地裏はまた静寂な場所に戻った。
少し歩いたところで少年が口を開いた。
「……そういえば君は学生、だよね?」
確認するように彼は問う。自分より少し身長の低い少女は見た目からして恐らく十代半ばか後半だろう。
「……はい」
答えは少年の思っていた通り肯定だった。しかし、この事で彼は疑問を持った。
何故学生が黒服でそれも通学時間に路地裏に居るのか。
彼は学校に行くために路地裏を通学路として利用したが、彼女は制服ではない。それに目立った鞄類も無かった。
黒いコートに黒い服、黒いブーツ、全身真っ黒でまるで闇に溶け込むかのようだった。
「学校……行かないの?」
「はい」
少年が問えば即答で返ってきた肯定。
「そう、なんだ……。楽しいよ、学校」
うつ向きがちに言う彼の言葉には少しだけ寂しさが籠っていた。
「……楽しい?」
「ぇ? ぁ、うん」
不思議そうにする彼女に少年が言う。
「もし良かったら僕の高校に来なよ! ぁ、えと、無理だったら良いんだけど」
少年は慌てて自分の意見を下げようとする。
「無理じゃない、です……」
「本当に!?」
彼は嬉しそうに驚いて言う。少女はただそれを見て頷く。
「あ、彼処なんだけど……」
彼は後少しで着く距離にあった建物を指す。それほど古くなく、綺麗に整備された建物。
「此処が……」
校門の前に来て少女は顔を上げ校舎や建物、学校全体を見回す。
「あ、送ってくれてありがとう。楽しみにしてるね!」
時間がギリギリだったのか、少年は急いで校舎の中に駆けていく。
そんな様子を少女は顔では笑っていないものの心の中で笑いながら見ていた。
「学校……。人間の子供が集まる場所……」
少女は心の中で喜び、心の中で笑い、心の中で楽しみにしていた。
それを“影”に見られているとも知らずに。
「みぃーつけた。……さてさて、挨拶位はした方が良いのかな……?」
___黒蝶の生き残りちゃん___
影は笑った。
静かに口角を上げ、怪しげに笑った。
獲物を見つけた虎のように、影の瞳はギラリと光る。