複雑・ファジー小説

Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.5 )
日時: 2013/12/05 23:40
名前: 雛(元:桜 ◆N64vfsjfrs (ID: I/L1aYdT)

      **___ただ興味があるだけ___**


「ぁーあ……。行っちゃった」
少女は慌てて俺の前から去って行った。警戒心が高いのは別に気にしないけど……もう少し話したかったなー。
にしても興味深い子だ。あんなに綺麗な黒蝶を連れて歩いているんだから。
何れまた会うだろうし、その機会が無くても今日のように会いに行けば良い。

俺は静かに笑う、暗闇の中で。
雲行きが怪しくなってきた。そろそろ帰ろうか。


「はぁ、はぁ……っはぁ、はぁ……」
路地裏を全力疾走した少女はあの後自宅に急いで帰った。
荒い呼吸を整えながらドアに背中をもたれさせる。
「あの人は、いったい……」
少女は彼のまだ知らない何かに恐怖心を覚えドアを背にしゃがみ込んだ。
外では雨が降り始めた。


「あまり若い子を苛めちゃダメよ」
男の後ろで女が本を読みながら呆れたように言う。
「別に苛めてはいないさ。ただ遊んであげてるだけ」
男は笑みを崩さぬまま言う。
「あら、もしかして“アレ”に惚れた?」
「……まさか、今日ついさっき会ったばかりだよ? ……それに俺は人外はあまり好きじゃない。」
「じゃあどうして彼女に拘るの?」
女が本から男に目を移して言う。
「ただ……興味があるだけさ」
男は笑って言う。感情を読まれぬよう、心情を悟られぬように。

「そう……。……あら? 雨……」
空から水の粒が落ちてきた。雨は小雨から大雨になった。
道に小さな川を作られ水溜まりは雨で水紋が作られる。
「はい、濡れたら風邪引くでしょ?」
男が大きな黒い傘をさし女に渡した。
「……。余計な御世話よ」
女は男を引っ張り二人で傘の中に入った。
「はは、相合い傘だね」
「……豪雨の中で置いてかれたかったのかしら?」
「ははは、冗談だって」
路地裏で二人の人物が一つの傘をさして歩いている。しかしその姿はカップルでも兄弟にも見えない。
男は不適に笑いながら、女は無表情で歩く。そして闇に消えて行った。

路地裏には誰も居ない。
また、静寂な世界に戻った。
ただ雨音の余韻を小さく響かせながら。