複雑・ファジー小説

Re: アビリティワールド-Abilityworld- ( No.2 )
日時: 2013/12/20 16:59
名前: 遊太 (ID: 8fZYMRgY)

第2話
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未来暦17年 春



夕日で橙色に染まりつつある空の下、制服を着た学生4人が住宅街をのんびりと歩いている。
どこでも見かける、学生たちの帰宅風景。それは、世界の平和を表す一つの存在なのかもしれない。
「入学してすぐにテストなんて、なぁ〜んかやる気失せるよなぁ〜」
「元太、あんた基礎はちゃんとやっとかないと置いてかれるわよ」
「お前なんかまだいい方だろ。俺なんて、部活のせいでまともに勉強もできやしねぇ」
「けっ!!野球部なんてむさ苦しい部活に入んのが悪いんだよ!!」
「あ?なんだと万年帰宅部クソ野郎」
「やんのか、万年変態野郎」
都立一会高等学校の1年生、八槙元太と佐藤竜は道の真ん中でにらみ合いを始める。
この2人は中学の頃からよく喧嘩をしている。
「もぉ!!やめなってば2人とも!!こんなところで、ほかの人の迷惑になるよ!!」
そしてその2人の喧嘩を止める係は、同じく一会高校1年生の酒井有紀である。
「……それなら元太、今から俺んち来いや」
「はぁ?」
「マリパで勝負つけようじゃねぇか」
「いいぜ。勝った方が今日の数学の宿題負けた方にやらせるってことで」
「乗った!!有紀と優太は!?」
竜は目をギラリと光らせ、有紀と神宮優太の方を見る。
「私はパス。宿題は自分でやります、優太は?」
「俺も」
2人が断ると、元太と竜は睨み合いながらも、2人仲良く並んで、竜の自宅へと走り去っていった。
なんだかんだで、元太と竜は仲が良い。まさに、『喧嘩するほど仲が良い』という言葉を表現している。
優太と有紀は、遠くに見える夕日を見つめながら、互いの自宅に向けて歩く。
しばらく沈黙が続いていたが、その沈黙を有紀が破った。
「…もう、私たちも高校生か」
「え?どうしたの急に?」
「高校生活もあっという間に終わって、3年後には皆、バラバラになるのかなって」
「そんな先のことまで考えてんだ。俺なんて、来週のテストで頭いっぱいだよ」
「そんなこといって。どうせ楽勝でしょ」
「まぁ、元太よりはね」
優太と有紀は、目を合わせて笑う。2人の顔は夕日で赤く染まり、2人の後ろに綺麗な影が伸びていた。
やがて小さな公園にぶつかり、2人は足を止める。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。ばいばい」
優太と有紀は手を振り、お互い逆の方向へと進み始める。
優太は公園に沿って歩き、人気のない路地に入った。
その瞬間、優太は異様な雰囲気を感じ取った。
「……なんか、嫌な感じ」
先ほどまで夕日で赤く照らされていた住宅街だったが、なぜがその路地は薄暗く、街灯もチカチカと点滅を繰り返している。
「気味悪っ。さっさと行こ」
優太はそう呟き、早足で歩き始める。その時だった。
一本の電柱を通り過ぎた瞬間、その電柱の陰から何かが優太めがけて伸び、そのまま優太をうつ伏せに倒した。
「痛っ!」
優太は倒れた衝撃で顎を打ち、眩暈を起こす。と同時に、優太の背中に何者かが馬乗りとなった。
「な、なんふぐっ!?」
優太が叫ぼうとした瞬間、口を手でふさがれる。
もがいてもどうしようもできず、優太は背中に乗っている人物の顔を見ようと必死に首を回すが、うつ伏せの状態では首をどんなに回しても見ることができない。

「んんんんん!!んんんんん!!」

優太は呻き声をあげ、どうにか助けを呼ぼうとする。しかし、周囲には2人以外の人の気配はまったくなかった。
次の瞬間、優太は首筋に何かが突き刺さる感覚を感じた。
「んっ!?」
突き刺さる感覚と同時に小さな痛みに襲われた優太は、激しくもがく。
すると、今まで馬乗りになっていた人物がひょいと離れる。
優太は首を押さえてすぐに立ち上がるが、その直後に謎の眩暈に襲われ、片膝を地面に着いた。
視界もボンヤリと黒が目立ち、どうにかして目の前に立つ人物の顔を見ようとするが、首に力が入らず、頭をあげることができない。
優太の脳裏に突然、有紀の笑顔、元太と竜の喧嘩の風景、3人との思い出が駆け巡る。
「……これ…走馬灯……」
優太はとてつもない嫌な予感を感じるが、その直後に気を失ってその場に倒れた。
優太に何かをした謎の人物は、気絶した優太をしばらく見つめ、やがてその場から姿を消した。



***** ***** *****



アメリカ合衆国ワシントンD.C. 世界政府本部最上階 元帥会議室

巨大な会議室の中央には、中央にクリスタルの地球儀が置かれた円卓があり、その円卓を囲むように9人の人物が着席していた。
さらに彼らの後方には巨大な液晶モニターがあり、アメリカ国旗を背景に一人の人物が現れる。
「おはよう諸君」
現れたのは、第46代アメリカ合衆国大統領、ジェームズ・B・ダーウィン・シニアだった。
ジェームズの挨拶と同時に、9人は立ち上がり、深い礼をして再び着席する。
「今日集まってもらったのはほかでもない、空席にしている者についてだ」
円卓を囲んでいるのは9人だが、椅子の数は10脚であり、1つだけ空席である。
「それでは、諜報機関“十戒衆”長、天地人、報告を頼む」
「はい」
返事をして立ち上がった赤髪でスポーツサングラスをした男は、第89代アメリカ合衆国司法長官であり、国際特別諜報機関十戒衆長の天地人だった。
「本日未明、超能力科学技術調査局局長であり元帥の一人であるアダム・ベルが、試作品の新薬を超能力科学技術調査局から盗み出し逃亡。現在、十戒衆と犯罪対策室が協力してアダム・ベルの足取りを追跡しております」
「それでは、犯罪超能力者対策室室長、レイモンド・アインスタイン、現在判明していることの報告を頼む」
「はい」
立ち上がったのは、凛とした顔つきで穏やかな雰囲気を出している犯罪超能力者対策室室長であり元帥の一人である、レイモンド・アインスタインだった。
「対策室のメンバー総動員で、アメリカ合衆国から他国へと繋がる道を地元警察の協力を得て封鎖。ライフラインの封鎖もあと1時間前後で完全に終わります。アダム・ベルはまだ国内にいると思われており、最悪の場合を考え、街中に対策室のメンバーと地元警察を配備しています」
「もともと変な奴とは思っていたが、まさか本当に仕出かすとはな。さすが天才科学者だ」
犯罪超能力者専用特別刑務所コリンベイツ署長であり元帥の一人であるアルバート・グレイマンは独り言のつもりで発したらしいが、その声は大きく、会議室に響き渡る。
その言葉を聞いた天地人はサングラス越しにアルバートを睨み付ける。
「グレイマン、口を慎め。ともかく、アダム・ベルは国外に逃亡する前に捕まえる。必ず生きて捕えるように心がけてくれ。この件の指揮については、十戒衆長の天地人と犯罪超能力者対策室室長のレイモンド・アインスタインに任せる。2人は随時、報告を頼む。残りは通常通り自らの仕事に励んでくれ。以上、解散」
液晶モニターの電源は消え、会議室が一瞬で暗くなる。と同時に、会議室の電気が点くが、その会議室には、もう誰もいなかった。



***** ***** *****



「う…うぅ……」

「お兄ちゃん!!お母さん!!お兄ちゃんが起きたよ!!」
聞き慣れた声が耳を通り、優太は重い瞼をゆっくりと開けた。
優太は上半身を起こし、周囲を見渡す。そこは病院のベッドの上であり、窓から見える外は暗かった。
「お兄ちゃん!!大丈夫!!」
「……可南子」
優太の目の前にいたのは、中学3年生の妹である可南子だった。
病室の扉が開き、涙目で優太の母・美保が優太に駆け寄る。
「優太!!あんた!!あんた!!」
「……母さん」
美保は優太を優しく抱擁し、頭を撫でる。高校生にもなって恥ずかしいなと優太は思ったが、久しぶりに感じる母のぬくもりに少しばかり甘えた。
「お兄ちゃん、道端で倒れてたんだよ」
「お医者さんがいうには、過労っていってたけど、あんたテスト前で勉強無理してたんじゃないの?」
「過労……」
優太は母親の言葉で、あの時、何者かに襲われたことを思い出す。
「そうえいば母さん、俺はあの時誰かに……」
優太が美保と可南子に襲われた時のことを話そうとしたその時だった。
美保と可南子は、まるで糸がプツンと切れたかのように、バタリとその場に倒れた。
「え?か、母さん!!可南子!?」
と次の瞬間、病室の扉が開き、見たことのない美しい女性が入ってきた。
腰まである金髪を靡かせ、スーツ姿でもそのスタイルはモデルのようである。
「こんなやり方は酷いと思う、あなたにはとても同情する。けど、これがあなたにとっても、あなたの家族にとっても、あなたの友人にとっても最善の選択なの」
金髪女性は優太に近づくと、片手を優太のおでこにソッとつける。
その瞬間、優太は急激な眠気に襲われ、そのままベッドに倒れ込んでしまった。


「ごめんなさい、神宮優太君」