複雑・ファジー小説
- Re: アビリティワールド-Abilityworld- ( No.3 )
- 日時: 2013/12/20 17:05
- 名前: 遊太 (ID: 8fZYMRgY)
第3話
‾‾‾‾‾‾
「いやぁ!!船で朝を迎えるってのはいいもんだなぁ!!」
フェリーの甲板には、腰に手をあて潮風と朝日を浴びるライリー・ロックウェルと、その姿を見ているジョン・シルファーがいた。
船内に並んだ5人掛けの椅子の一つに優太が横になって寝ている以外誰も座っておらず、閑散としている。
「そろそろ起こして、事情話した方がいいんじゃねぇの。学校ついてから説明すると校長に迷惑かかるしな」
「そうだな」
ジョンは頭を掻きながら、面倒くさそうに船内に歩いていく。
そして、椅子で横になって寝ている優太の頭をペシペシと叩く。
「起きろ」
「うっ……うぅ………ん?は?!」
優太はガバリと立ち上がり、周囲を見て愕然とする。
それも無理はなかった。路上で謎の人物に襲われ、病院で金髪の女性に眠らせ、次は船の中で目が覚めたのだから。
優太は目の前に立つ、銀髪の男性に目を向ける。
「神宮優太、ようやく目を覚ましたか」
「え?は?ここどこ!?」
「とりあえず、ついてこい」
ジョンは優太の言葉に耳を向けず、そのまま甲板へと出ていく。
優太は意味が分からないまま、とりあえずジョンの後をついて行く。
甲板に出ると、優太は朝日の眩しさで一瞬立ちくらみに襲われる。しかし、どうにか踏ん張り、甲板に立つジョンとライリーに歩み寄る。
「初めまして、優太君。俺はクリスフォードの職員のライリー・ロックウェルっつうもんだ」
「俺はジョン・シルファー。色々と聞きたいことがある思うから、さっそく説明を始める」
ジョンはそういうと優太に歩み寄り───
「お前は、超能力者になった」
ジョンの言葉に、優太はポカンとする。
優太は唖然としたままの表情で、ジョンとライリーの顔を交互に見る。2人の顔は真面目で、その鋭い眼差しは優太をジッと見つめたままである。
「これ夢でしょ?意味わかんないから。一晩にあれだけ襲われれば……」
優太はその言葉を発した瞬間、頭の中に1つの疑問が思い浮かびあがる。
いつからが、夢なんだ……────
金髪の女性が手をかざした時から?
病院のベッドで目を覚ました時から?
路地で襲われた時から?
有紀と公園の前で別れた時から?
元太と竜が喧嘩して、走り去って行ったときから?
「え?……夢だろ……」
「夢じゃない、現実だ」
ジョンはそういうと、船の淵に腰を下ろす。
「路地で襲われた……その時、襲った人物の顔を見たか?」
「い、いや」
「自分の感覚でいい。その人物は男と女、どっちだと思う?」
「感覚って……でも、馬乗りにされて口をふさがれた時は、あの力は男だと思う」
「そうか。その男に何かされたか覚えているか?」
「確か、首に小さな痛みが……」
「DTMだな、委員長の推測通りだな」
ライリーはそういうと、優太に近づき、優太の頭を掴んで強引に首の裏を見る。
すると、首の裏に小さな赤い斑点があった。
「ちょ、ちょっと待ってください!!意味が全く分かりません!!」
ジョンとライリーは顔を見合わせる。
「まぁ、着くまでにはまだ時間はあるし、一から説明してやるよ」
ライリーはそういうと、優太にこれまでの経緯を説明し始めた。
今から約36時間前、世界政府本部内にある超能力科学技術調査局で盗難事件が発生した。犯人は世界政府本部内に設置されてある監視カメラと局員による目撃証言により、局長であるアダム・ベルとすぐに判明した。
アダム・ベルが盗んだのは現在開発途中の新薬DTM(DNA Transformation Medicine)。要約するとDNA変換薬。これは、DNAの配列を強制的に変えて、人間が約1時間で超能力者になれる優れ物だ。この新薬の原液となるものは、局の最奥部の保管庫に厳重に管理されていた。しかし、それをアダム・ベルが盗んだ。
ここまでで疑問はあると思うが説明を続けさせてもらう。
発覚後、世界政府はすぐにアメリカ合衆国のありとあらゆるライフラインを封鎖。街のあちこちに世界政府の超能力者や地元警察が配備された。しかし、その時にはすでにアダム・ベルはアメリカ合衆国にはいなかった。世界政府は近隣国の政府に注意と協力を呼びかけ、捜査範囲を拡大したが、それでも見つからなかった。
しかし、アダム・ベル失踪から24時間以上が経過した時だった。日本で一人の青年が超能力者に突然変異したという一報を世界政府がキャッチし、すぐさま世界政府関係者が派遣された。
派遣されたのは、世界政府幹部で10人の元帥の1人であり第12代アメリカ合衆国教育長官、超能力者教育員会委員長であるカーラ・エインズワース。
お前が病院で見た金髪の女性は、その人だ。
世界政府は君を保護した後、会議の結果、君を超能力者専門学校クリスフォードで保護することを決定した。
「で、今そのクリスフォードのある島に向かってる途中」
一通り説明が終わり、ライリーは優太を見る。
優太はしばらくライリーを見つめると、徐々にその表情は怒りに変わっていく。
「待ってよ、待ってくれよ。なんだよそれ。意味わかんないから、どうして保護されるわけ……」
優太の質問に、ジョンが答えた。
「能力が分からない以上、未成年のお前を民間の地域に置いておくことは危険だ。お前にとっても、お前の家族や友人にとってもな」
「ふざけんな!!家に帰らせろよ!!勝手すぎんだろ!!!」
「それはしょうがない。今の状況、君はいくつもの法律を破っていることになるからな」
「は?」
「君はもう“人類”ではなく“超能力者”だ。超能力者に対する法律が反映される。未来暦17年以降、未成年超能力者は世界政府が指定している超能力者専門学校に入学しなければならない。そして第四級以上の階級を取得しなければ、民間の生活には戻ってはいけない」
「し、知るかよ……知ったことか!!」
優太はそういうと、船内に駆け込み、階段を駆け上がって、2階の船長室へと向かう。
優太が2階に駆け上がり、2階の廊下に出ると、そこには先ほどまで甲板にいたはずのジョンが立っていた。
優太は驚き、その場に尻餅をつく。
「な、なんで!?さっきまで甲板で座ってたのに……」
「俺も超能力者だからな。ところで、船を奪って、東京に引き返すつもりか?」
「当たり前だ!!法律が何だ!!世界政府が何だ!!何で、あんたらの揉め事に巻き込まれてクリスなんとかってとこに行かなきゃ行けないんだよ!!」
優太はジョンの両肩を掴もうとする。
だが次の瞬間、目の前にいたジョンは一瞬で水に変わり、廊下に水が広がる。
そして、優太の後ろに本物のジョンが現れた。
「こればかりは、神宮優太。運命としか、言いようがない」
「ふ、ふざけんな……」
優太の脳裏に、家族と友人たちの顔が思い浮かぶ。
「これぐらいは知っているだろう。超能力者に対する法律は厳しく、未成年でも容赦はない。もし、君がまた家族や友人と会いたいのなら、俺たちについてこい」
「……どれくらい、会えないんですか」
「クリスフォードは4年制だ」
「4年間も、会えないんですか?」
「そうなるな」
ジョンの言葉を聞き、優太は涙を浮かべる。
「道は、これしかないんですか?」
「そうだな。君がもとの生活を逸早く取り戻したいのなら、これが最短ルートだ」
優太は崩れ落ち、壁に寄りかかる。
ジョンはそんな優太を何も言わずにジッと見つめる。
***** ***** *****
都立一会高等学校 1年4組
有紀は不安な表情を浮かべていた。その両端で元太と竜はいつものように話をしている。
「なんで優太来てないんだよ?」
「俺は知らねぇ。てか元太、俺の数学の宿題ちゃんとやってきたんだろうな」
「くそっ!!ほらよ!!」
元太は自分の鞄から竜の数学ノートを取り出し、竜に投げ渡す。
「毎度〜」
「今度は勝つからな!!」
2人がいつものようにしている中、有紀だけは異様な不安感に襲われていた。
─また、明日─
そう言ったはずだった。
朝のチャイムが鳴り、担任の先生が入ってくる。
学級委員長の号令で挨拶が終わると、先生はなぜか、いつものように朝のホームルームを始めず、思いつめた顔でしばらく無言のまま立ち尽くしていた。
生徒たちは先生の態度にザワつきはじめ、元太、竜、有紀も顔を合わせて首を傾げる。
数分後、ようやく先生は口を開いた。
「え〜…本当に残念なお知らせだが、神宮優太は、昨日をもって一会高校を退学となった」
その言葉で、騒がしかったクラスがシンとなる。
元太、竜、有紀はポカンと口を開いたまま、動かない。
「事情はいえないが、べつに悪いことをしたわけではないから安心してくれ。短い間だったが、神宮はとても思いやりのある生徒で頼もしい存在だったと先生は思う」
「な、なんだよそれ……」
「ウソだろ……」
元太と竜が呆然としている中、有紀は突然席を立ちあがり、教室を飛び出す。
後ろで先生の声が聞こえるが、無視した。
校舎を飛び出し、正門めがけて走る有紀だったが、途中で派手にこけてしまい、膝を擦りむく。
しかし、そんな些細な痛みなど気にせず、再び立ち上がって走り始める。
有紀が目指しているのは、優太の自宅だった。
有紀はただ、優太に会いたくてがむしゃらに走る。
道行く人にぶつかりながらも、ただ前に向かって走る。
そして、そのままの勢いで車道に飛び出す。
大きなクラクションと共に、有紀の目の前は真っ暗となった。
