複雑・ファジー小説

Re: アビリティワールド-Abilityworld- ( No.5 )
日時: 2013/12/21 14:54
名前: 遊太 (ID: 8fZYMRgY)

第5話
‾‾‾‾‾

すでに外は夜だった。
寮を出て、ジョンの後ろを歩く優太は、木々の隙間から見える夜空と星につい見とれてしまう。
「綺麗な夜空ですね。俺、こんな景色初めて見ました」
「クリスフォードのある島周辺の天候は、世界政府の天候管理総務部が常に快晴に調整している。月に一度、乾燥や地割れ防止のために雨が降る以外は、昼も夜も雲一つない空だ」
「超能力者は、天候も操るんですね」
「そうだ」
ジョンとそんなことを話しながら歩くこと約30分、森を抜けた直後、優太の目の前に不気味な建物が現れた。
円形のその建物には窓が一切なく、壁には草の蔓が広がり放題である。
ジョンはそのまま建物の扉へと向かうが、優太はついその場で足を止め、ジョンに尋ねる。
「ここは…何なんですか……」
「クリスフォードに万一侵入者が入った場合、その侵入者を隔離する建物だ。校舎よりもはるかに強度はある。だけど、一回も使われたことはない」
「ここで一体、何をするつもりですか?」
「言っただろう。お前の超能力を確かめる」
ジョンはそういうと、扉を開けて建物の中に入っていく。
優太も慌ててジョンの後を追う。
扉は動かすたびに「ギギギッ」と不気味な音を立て、優太の恐怖心を駆り立てる。
建物に入ってすぐ、優太の目に飛び込んだのは巨大なホールだった。
しかし、ホテルなどのホールではない。壁も床も天井も、全てが鉄のように冷たく固いもので出来ており、壁には規則的に蝋燭台と蝋燭が置かれ、ホールを照らしている。
見ると、その暗いホールの中央に誰かが立っていた。
「紹介しよう。クリスフォードの職員で1年生の第7班を受け持つ、エーベルハルド・ホールリンズだ」
ジョンが紹介すると、暗闇の中から紫色の髪に、眼鏡をかけた男性が優太に歩み寄ってきた。
よくみると、知的でとても頼もしそうな男性だった。
「初めまして、神宮優太君。私はエーベルハルド・ホールリンズだ」
「は、初めまして……」
「じゃあ、エーベルハルド。さっそくお願いしたい」
「分かった。優太君、こっちに来てくれ」
エーベルハルドにそう言われ、優太はホールの中央にやってくる。
ジョンは扉近くの壁に寄りかかり、腕を組んで2人の姿を見ている。
優太はエーベルハルドに指示され、ホールの中央に直立で立つ。
「まず初めに、私の超能力は“精神介入メンタル・インターベンションといって、目を見た相手の精神の中に入り込むことができる」
「精神の…中……」
「別に痛くもないし怖くもないよ。ただ、君のプライベートな部分を見ることになってしまう。精神介入は、いわば脳の中に、記憶の中に入り込む能力だからね」
エーベルハルドは説明を続けながら、優太の目の前に立つ。
「では本題に入ろう。どうやって君の超能力を確かめるか。超能力者なのに超能力が使えない者は稀にいる。どうして使えないのか、その原因は一つ。恐怖だ。自分が自覚していなくても、どこかで恐怖を感じ、超能力を意図的に封じ込めてしまっているんだ。もし自分の超能力で誰かを傷つけてしまったら。もし自分の超能力で誰かを死なせてしまったら。でも、そんなことはない。必ず、超能力は自分の意志で扱えることができる。でも、そうしない。恐怖がどこかにあるから。そこで、私の超能力の登場だ。私は優太君の精神に入り込み、恐怖の根源を見つける。君はそれを知ることで恐怖を知り、理解し、そして初めて超能力を手に入れるだろう」
エーベルハルドは説明を終えると、優太の両肩を掴む。
「準備はいいかい?始めるよ」
「は、はい。でも、1つ質問いいですか?」
「なんだい?」
「どうして、わざわざこんな不気味な場所でやるんですか?」
優太は質問しながら、周囲を見渡す。
その質問に、エーベルハルドは笑顔で答えた。
「万が一、君が恐怖に打ち勝つことができず、さらに超能力に支配されて暴走されたらクリスフォードの皆が危ないでしょ?」
「つまり…万が一暴走した俺を閉じ込めるための……」
「そういうこと。でも、そんなことにはならないよ。自分を信じて」
「はい!!」
エーベルハルドはそういうと、優太の目を見つめる。優太も、エーベルハルドの目を見つめる。
そして次の瞬間、優太の目の前が真っ暗となった。



***** ***** *****



「俺の分も持てよな!!」
「早く歩けよ!!塾に遅れちゃうだろ!!」
「う、うっせぇな……」
「なんだよ!!じゃんけん負けたお前が悪いんだろ!!」


優太が目を開けると、そこには夕日に染まった見覚えのある風景が広がった。
一会小学校の正門を出てすぐ右側にある神社の中、古そうな大木の前で、大量のランドセルを持った男の子が数人の男の子たちに囲まれていた。
優太は、その光景に見覚えがあった。

「いたっ!!」

囲んでいる男の子たちの内一人が、ランドセルを持った男の子の足を蹴る。
男の子はバランスを崩し、ランドセルが地面に散らばった。
「なにしてんだよ!!汚れちゃうだろ!!」
「やめろ!!」
優太は思わず、声をあげて男の子たちに駆け寄る。
突然の声に驚いた男の子たちは、振り向いて優太を見ると血相を変えて「逃げろ!!」と大声をあげ、自分たちのランドセルを拾って神社から走り去って行く。
優太は急いで、地面に倒れている男の子に駆け寄る。
「大丈夫?元太?」
その男の子は、優太の親友である元太だった。
しかし、優太が何度声をかけても元太は顔をあげない。
「元太?どこか怪我でもしたのか?」
「どうして…」
「え?」
突然、元太が顔をあげ、優太を睨み付ける。
よくみると、元太の両目に白目の部分はなく、全てが黒くなっていた。
「う、うわぁぁぁぁ!!!!」
優太は驚き、急いで後ろに下がる。
「どうして、いきなり俺らの前からいなくなったんだ?」
「げ、元太……」
「俺たち、小学校からの付き合いだったろ?どうして?どうしてだ!!!!」
元太が叫んだ次の瞬間だった。
先ほどまで神社にいたはずの優太は、なぜか都立一会高校の1年4組の教室の自分の席についていた。
「え?は?」
優太はすぐに立ち上がり、窓の外を見る。
夕日に照らされていた神社とは違い、外は真っ暗である。
優太は状況が飲み込めず、呆然と立ち尽くす。その時だった。

「優太…」

突然背後から聞こえた声に驚き、優太は慌てて振り向く。
そこには、竜が立っていた。竜の目は、先ほどの元太の目と違い普通である。
「竜…」
「最後に俺と元太と有紀と、4人で遊んだ日、覚えているか?」
「え…」
優太は竜に言われ、必死に思い出そうとするが、何も思い出せない。
ふと見ると、竜の手には金属バットが握られていた。
竜はそのバットを高く振り上げると、優太の脳天めがけ、何の躊躇いもなく振りおろした。
「わぁ!!」
優太は横に飛び、間一髪交わす。
バットは窓に直撃し、窓の割れる音が響き渡った。
「俺たちとの思い出なんて、結局そんなもんだろ。時間が経てば消えるような、そんな安っぽいもんなんだろ」
「違う…そんなわけない……」
「じゃあ、4人で最後に遊んだ日を覚えているか?俺と元太が宿題かけてやったマリパの勝敗知ってるか?俺が中学3年の頃、地区大会の決勝でホームラン打って、その祝いに4人で俺の家で集まってどんちゃん騒いだ日を覚えているか?」
優太は竜に問われるが、頭が混乱して何も思い出すことができない。
優太が竜の顔を見ると、いつの間にか、竜の両目も真っ黒になり、不気味な姿に変わっていた。
「もう、終わりだな」

「終わらせてたまるか…絶対に……絶対に卒業して、皆のもとに帰るんだ……」

「本当に、本気でそう思ってる?」

優太が後ろを振り向くと、そこには有紀が悲しげな表情で、冷たく生気のない目で優太を見つめていた。
「有紀……」
「あの日、公園で言ったよね?また明日って、でも、次の日、あなたは学校に来なかった」
有紀はゆっくりと、優太に歩み寄る。
「あなたは、度重なる出来事についていけず、最後は超能力者たちの言う通りに、クリスフォードへ行ってしまった」
「違う。それは違う。自分の意志で来た。俺は、皆と早く会うために……」
「本当にそうなの?今もそうなの?自分のためだけじゃないの?」
気が付けば、優太の周囲には元太、竜、そして母の美保と妹の可南子も立っていた。
全員の目が黒く染まり、静かに優太を見つめている。
「あなたは、ただ自分の不運な境遇から抜け出すために、クリスフォードにやってきたんじゃないの?」
「違う…そんなことは……」
「自信がないの?どうして否定しないのか教えてあげようか?」


 「あなたにとって、私たちの存在はただの存在にすぎない。
  いつも見る空、通り過ぎ行く人々、目に見えない風、道を這う虫───当然の存在。そんな存在の中に
  私たちは分類されている、そんな存在だから、あなたは自分を優先し、自分が助かる術を選択した」


「違う…」
優太は涙を零し、その場に両膝を付ける。
「違くないよお兄ちゃん。お兄ちゃんは自分のためだけに、その選択をした」
「妹を、母親を、家族を見捨てて、クリスフォードへと行くことを決めた」
「自分が助かる為だけに」
有紀、元太、竜、美保、可南子が、真っ黒に染まった目で優太を見つめる。
優太は何も言い返すことができず、泣きながら、その場にうずくまる。
「俺は…俺は……───」