複雑・ファジー小説

Re: アビリティワールド-Abilityworld- ( No.6 )
日時: 2013/12/21 22:12
名前: 遊太 (ID: 8fZYMRgY)

第6話
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泣き崩れ、うずくまっていた優太は、急に周囲が静まり返ったことに気が付く。
恐る恐る顔を上げると、そこは教室ではなく、上も下も、右も左も、前も後ろも白い謎の空間だった。
「なんだ…ここ……」
何もなく、ただ果てしない白い景色が広がっている。足場がなければ、方向感覚が狂ってもおかしくはない。

「ようこそ。神宮優太」

優太が後ろを振り向くと、そこには黒いローブを覆った人物が立っていた。
その人物はフードを深く被り、顔をわざと隠しているようだった。
そして優太は、なぜかその人物と初めて出会うような感じがしなかった。
「お前…お前もしかして………」
「気が付いたか?」
「アダム……ベル………」
優太がその名前を言うと、その人物はフードに手をかけ、一気に後ろへと下げた。
フードの下には、ウェーブの黒髪に不気味な笑みを浮かべた顔があった。
優太は一度も見たことのない顔だったが、その人物がなぜかアダム・ベル本人だと確信した。
「疑問を感じているだろう。どうして、お前の精神の中に私がいるのか」
「……意味が分からない……どう…なってる……」
「お前の首に打った注射はDTMという、世間では現在開発途中の人間を超能力者に変えてしまう新薬だ。そう、世間では…実際は完成している。そして、お前に打ったDTMには少しばかり私の血液が混ざっている。もちろん、DTMに影響がない程度だが」
アダム・ベルはその場に座り込み、あぐらをかいて顎を手の平の上に置く。
優太はアダムに近づき、怒りでも悲しみでもない目つきで、アダムを見下ろした。
「何か言いたいそうだな」
「当たり前だ。でも、まず聞きたいことは、どうしてそんな注射を俺に打ったんだ?」
優太の質問に、アダムは微笑みながら答えた。

「運命だよ」

「ふざけんなっ!!」

優太は怒声を上げ、アダムの胸ぐらをつかもうとする。
しかし、そんな優太の怒りの手は、アダムの体を通り抜けてしまった。
驚く優太に、アダムは淡々と答える。
「今お前に見えている俺は、お前の脳裏に強制的に焼き付けた記憶の断片に過ぎない。次にお前が精神の中に入ってくれば、その時には俺は消えてるだろう」
「ふざけんなよ……ふざけんなよ!!お前のせいで全部失ったんだ!!!お前のせいで俺は人として生活を捨てることになったんだぞ!!!」
優太は涙を流しながらアダムに訴える。
優太は、目の前に自身を超能力者にした張本人がいるのに、触れることさえできないことに悔しさを感じていた。
アダムは顔色一つ変えず優太の言葉を聞き流すと、立ち上がり、背伸びをする。
「で、自分の超能力が何かわかったか?」
「……あ?」
「エーベルハルドに言われただろう。自分の恐怖を理解して、超能力を確かめろって」
「お前、エーベルハルド先生を知ってんのか?」
「知ってるも何も、彼は元々世界政府の人間だ。昔から顔は知っている。それよりも、自分の恐怖の根源が何か、分かったのか?」
アダムは面倒くさそうに聞く。
優太はやや不満そうに、アダムの質問に答えた。
「一応は…なんとなく……」
「言ってみろ」
「はぁ?なんでお前に言わなきゃならないんだよ!!エーベルハルド先生に言う」
「この空間はエーベルハルドの精神介入でも入ってこられない。さっきも言ったように、今の俺はお前の脳裏に強制的に焼き付けた記憶の断片だ。それはこの空間も含まれる。そしてその空間に入れるのは、脳の持ち主であるお前と、俺だけだ」
アダムは優太に近づき、再び尋ねる。
「で、恐怖の根源は何だ?」
「言わない。絶対に言うもんか」
「……じゃあ俺が言おう」


「お前の恐怖の根源は、家族と友人だ」


アダムの言葉に、優太は目をカッと開けて驚く。
アダムは大きなため息を吐き、頭をボリボリと掻く。
「これ3度目ね。俺は、お前の脳裏に強制的に焼き付けた記憶の断片だ。つまり、今はお前と全てを共有している状態だ。だから、お前が何を考えているかも全て分かる」
「……なら、さっさとそうすればよかっただろうが」
「お前の口から直接聞きたかったんだよ」
アダムは優太の頭を激しく撫でる。
優太はアダムの手を払いのけ、不満たっぷりの顔でアダムを睨み付ける。
アダムはそんな優太を見て微笑み、説明を始める。
「お前は、突然消えた自分に家族や友人が恨みを抱いていないか怯えているようだな。家族、友人、特に八槙元太、酒井有紀、佐藤竜はお前の人生にとってかけがいのない存在。それはお互いが理解していること。そんな大切な家族や友人たちに、別れの言葉も告げずに消えたことに恐怖を感じている。お前はクリスフォードを卒業して彼らとの再会を望むが、果たしてその時、彼らは自分を快く迎い入れてくれるのだろうか、昔のような感懐を築けることができるか、そのことにも恐怖を感じている。お前は、ジョン・シルファーと似ているな」
突然出てきたジョンの名前に、優太は首を傾げる。
「どうして、ジョン先生が?」
「今から17年前に起きた西暦最後の事件で、あいつは自身の弟を亡くした。そのことをあいつは自分のせいだと今も思っているだろう。お前もジョンも、家族や友人に人並み以上の感情移入をしている。ただでさえ、感性が豊かな者は恐怖を感じやすいのに、お前やジョンみたいなやつは尚更だ。ま、恐怖の根源は家族や友人。それは正解だな」
アダムは心がこもっていない拍手をする。
虚しい拍手の音が、白い空間に響く。
優太はアダムを見て、質問する。
「で、それで俺の超能力は何だ?どうすれば分かる?」


「もともとお前の超能力は決まっている。お前の超能力は“共感エンパシー”だ」


「共感……」
優太が復唱する。
「これは、簡単に説明するとコピーだが、コピーするには条件がある」
「条件?」

「相手と感情を同調しなければならない」

アダムのその言葉の意味が、優太はいまいち理解できなかった。
アダムは理解できていない優太の表情を見て、また大きなため息を吐く。
「馬鹿が!!馬鹿でもわかるように説明すると、相手が悲しいと思っているときにお前も悲しいと思う。相手が怒っているときにお前も怒る。そんな感じだ」
「なんか…簡単そうだな」
「もちろん、真似事じゃダメだ。感情を真似で騙せると思うなよ」
アダムの顔が、突然真面目な顔つきとなる。
「この超能力は、使い方次第では最強の超能力といえるだろう。ストックが無制限のコピー能力なんだからな。だがしかし、その扱いは保有者であるお前で決まる」
「……どうして、あんたはそんなに俺の超能力に詳しいんだ?」
優太のその質問に、アダムは今まで見せなかった、優しい微笑みを浮かべて答えた。

「神宮優太。どうして俺がお前にDTMを打ったのか、どうしてお前の超能力を知っているのか。それは、近い未来で知るだろう。そして、その意味を理解したとき、お前は人類と超能力者、両者の一縷の光となるだろう」

アダムの謎めいた言葉に呆然とする優太。
その時、アダムの足元が透け始めた。
「おっと…時間かな」
「ま、待ってくれ!!まだ質問したいことが山ほどある!!」
「それは、現実世界の俺に質問してくれ。ま、そのとき、その俺がどうなってるかは知らんがな。あと、ここで俺と出会ったことは伏せといてくれ。頼むよ」
アダムの頼みに、優太は自然と頷く。
さきほどまで嫌っていた相手だったのに、今では許し、別れに淋しさを感じていた。
やがて、アダムの体上半身も消え始める。
「優太。お前を俺たちの勝手に巻き込んで、本当にすまないと思っている」
「あ、あんた…さっきから何を言ってるんだ………」



「それじゃあな……未来の………英雄よ……………────横」







………─────








***** ***** *****



優太が目を開けると、そこは薄暗いホールの中央だった。
目の前にはエーベルハルドとジョンが立ち、優太を見ていた。
「大丈夫か、優太」
「はい……」
「いやぁすまない。普段はこんなことないんだが、まさか精神の中で君を見失うなんて……」
エーベルハルドの言葉に、優太は真実を言うべきは悩んだが、結果、アダムの頼みを優先した。
「恐怖を理解して、自分の超能力が何かが分かりました」
優太のその言葉に、2人は表情を変えた。
「……なんだ?」

「俺の超能力は共感エンパシー。相手と感情を同調することで、その相手の持つ超能力をコピーする超能力です」

優太の言葉を聞き、ジョンは優しく微笑む。
「よくなったな。優太」
「はい」
ジョンは優太に手を差し出す。
2人は固い握手をし、その姿をエーベルハルドは見つめる。
しかし、エーベルハルドが見つめていたのは2人の握手ではなく、優太だった。
『何かが引っ掛かる……おそらく、優太君は何かを隠している。報告すべきか……』
エーベルハルドが悩んでいると、2人はいつの間にか、建物を出ようとしていた。
「エーベルハルド、何してんだ?早く出るぞ」
「あ、あぁ!!これからどうするんだ?」
「俺は優太を連れて1年生寮に戻る。お前は?」
「私は…学校に戻って残った仕事をするよ」
「分かった。じゃあまた明日な」
「ありがとうございました!!」
去りゆくジョンと優太の後ろ姿を、エーベルハルドは静かに見つめ続けた。