複雑・ファジー小説
- Re: アビリティワールド-Abilityworld- ( No.12 )
- 日時: 2013/12/29 01:58
- 名前: 遊太 (ID: 8fZYMRgY)
第10話
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優太、篤彦、照、鈴花の4人は、1時限目の火炎系超能力講義の教室に着くと、一番後ろの席に座った。
教室には約40ほどの席があるが、前列約20席はすでに埋まっていた。
その中に、悠の姿があった。
「悠いたぞ」
篤彦が悠に指をさす。
悠の横には、優太たちと同じ1年であり第6班の神崎榛名が座っていた。
悠と榛名は話しており、会話の中で微かに悠が微笑む様子を優太は見た。
ふと、優太が照を見ると、すでに照の顔は赤く染まっていた。
「照、なんでもう顔が赤いの?」
「悠がたまに見せる笑顔は、素直に言って…その……キュンとする」
「俺には分からんがな」
照は前の席に座る悠を見つめる。
そんな照の視線に気が付いたのか、悠が後ろを振り向く。
4人は一瞬動きが止まり、不自然さを紛らわすために鈴花が手を振り、声をかけた。
「おはよう、悠ちゃん」
「おはよう。珍しい面子だね」
悠は篤彦、照、優太、鈴花の顔をそれぞれ見ながら言う。
「なんか怪しい。とくに、照」
「ふぁい!?」
悠に突然名前を呼ばれた照は、変な声を出して席を勢いよく立ち上がる。
その奇行に、ほかの生徒たちが怪訝な表情を浮かべながら照の立っている方向を見る。
篤彦は照の両腕をつかんで無理やり座らせると、悠の隣に座っていた榛名に尋ねる。
「そっちこそ珍しい組み合わせだな。榛名は、悠と仲が良いのか?」
篤彦の質問に対し、榛名がチラリと悠を見る。
優太はその時、悠が榛名にアイコンタクトをしているかのように見えた。
榛名は再び篤彦を見ると、笑顔で答える。
「当たり前じゃん」
「へぇ。悠、女子と仲良くするなら、同学年の男子だけでも同じように接すれば……」
篤彦の言葉を遮るように、悠はギロリと篤彦を睨み付けながら言い放つ。
「黙れ、筋肉ダルマ」
いつもは冗談半分面白半分で発言するその言葉には、少しばかり、怒りが込められていた。
「す、すまんな」
珍しく篤彦は頭を下げ、悠は何も言わずに前を向き直った。
優太、鈴花は顔を見合わせ、篤彦と照に言う。
「両親から受けてた虐待ってさ……」
「暴力はほとんど父親の方だ。母親は見て見ぬふり。対人恐怖症だが、女性に対しては信用している相手となら普通に接することができるが、男性に対しては俺と照以外の男性ほとんどを受け付けていない」
篤彦は頭を掻きながら、大きなため息を吐く。
そして、照が答えた。
「だから、信頼、信用されている僕らだけでも、どんなときでも悠の味方でいないといけない。じゃないと、悠は簡単に崩れてしまう」
照は呟くように言う。
「守りたいんだ。命に代えても」
その言葉に、優太と鈴花は何も言えず、ただ照と悠を見つめることしかできない。
「おはようございます!!」
教室の扉が開き、火炎系超能力講義の担当講師であり1年生第3班の班長を担当している職員、リンカーン・カリブンクルスが入ってきた。
リンカーンは手に持っていた教科書類を教室前の教卓に置き、生徒たちに出席カードを配り始める。
出席カードとは、毎時間の授業で配られるものであり、授業の最後にその紙に学年と名前を書いて提出すると、単位をもらえる。
後ろの列まで配り終えたのを確認すると、リンカーンは授業を始める。
「今日の内容は、火炎系超能力を持つ超能力者との戦闘の仕方だ」
リンカーンが授業をする中、4人はヒソヒソ話しで今後の計画について話し合う。
「で、どのタイミングで悠に聞くんだ?」
「聞くのは篤彦君と照君。授業の終わりに昼食に誘って、昼食の間に何気なく聞くの。私と優太君は遠くで見てるから」
「分かった」
篤彦と照は頷く。
優太は鈴花に言う。
「それで悠のヌイグルミの趣向が分かったとして、どうやってヌイグルミについて調べる?」
「図書室のパソコンしかないよね。図書の先生に事情を話せば、大丈夫かな?」
「そんなに鬼でもないだろ?ちゃんとした理由があれば、使わしてくれるはずだ」
篤彦はそういうと、照の方を向いて小さな声で話しかける。
「ところでよ、なんであいつはクラゲが好きなんだ?」
「え?」
「あいつが小さい頃、水族館に行ったときにクラゲの水槽をずっと見ていたことは知ってる。でも、悠はクラゲの何が好きなんだ?」
篤彦の質問に、照は口を紡ぐ。
しばらくして、照は口を開いた。
「多分だけど……あくまで僕の予想だけど………」
照がその先の言葉を言おうとした、その時だった。
「篤彦〜ぉ、お前はさっきからずーっと、余所見をしてるよな?」
リンカーンは後ろの席に座る篤彦を見つめながら、指パッチンをする。
すると、リンカーンの指の先に小さな炎の球が現れた。
「な、なんで俺なんだ……」
「お前は体がでかいから目立つんだよ。じゃあ篤彦、火炎系超能力者との戦闘で大事なことは何だ?」
「え……あぁ!!分かったぜ!!寒いギャグを言って炎を冷ます!!」
教室が静まり返り、リンカーンは不気味に微笑み首を傾けながら、篤彦に問う。
「寒いギャグか。たとえば、なんだ?」
リンカーンが篤彦に尋ねると、篤彦は立ち上がり、自信満々に言う。
「ライトが、暗いと」
「………」
「………」
「………」
隣に座る照、優太、鈴花は他人のふりをして、それぞれが違う方向を見る。
教室は完全に静まり返り、教卓の前に立つリンカーンはニッコリと微笑む。
「篤彦、本気で言ってるのか?」
「先生、俺にギャグのセンスないって気づきまセンスか?」
その言葉を発した瞬間、リンカーンの目つきが変わる。
と思った次の瞬間だった。
いつの間にか、リンカーンは篤彦の前に立っていた。
教室の中にいた生徒たちは驚きの声をあげ、一斉にリンカーンの方を見る。
近くに座る照、優太、鈴花もリンカーンの動きは一切見えなかった。
リンカーンの動きは速すぎ、生徒たちは誰一人としてその動きをとらえることができなかった。
リンカーンは篤彦のこめかみに拳をあて、グリグリと回す。
「いてててっ!?」
「正解は間を空けることだ。火炎系超能力者は、遠距離攻撃を主とする。だから相手との間を空けて戦えば、攻撃を見切ることができ、こちらが攻撃できるチャンスを伺うことができる。容易に近づいたり、今みたいにつまらないギャグをぶっ放せば、あっという間に死ぬからな!!」
リンカーンは篤彦のこめかみから拳を離す。
「いってぇぇぇ!!!!!」
教室が笑いに包まれ、篤彦は頭を押さえて痛みに耐える。
照も鈴花も笑う中、優太はふと悠の方を見る。
教室にいる生徒みんなが笑う中、悠は篤彦のいる後方に振り向きもせず、前の方を見ていた。
しかし、悠の隣に座る榛名は後ろを振り向き、笑っていた。
優太は、さきほど榛名と会話する中で微笑んだ悠の顔を思い出す。
どうして、悠は笑わないのだろうか?───優太はふと、昨日のことを思い出す。
奈織に馬鹿にされ、それに対して真面目に受け答えする篤彦を周囲にいたみんなが爆笑する中、悠だけが笑っていなかった。
今も、昨日とほぼ同じ状況である。
しかし、さきほど榛名と会話していた時は普通に笑顔を見せていた。
優太はこのとき、悠に親近感を覚えた。
もしかしたら、悠は自分と同じ気持ちを背負っているのかもしれない。
優太には、父親がいなかった。
優太が幼い頃に、借金を残して家族の前から消えた父親に、優太は怒りと裏切りの存在を認識した。
それは幼い優太にとって強い衝撃であり、それは長い間、優太からある存在を奪った。
それは、幸せだった────
