複雑・ファジー小説
- Re: アビリティワールド-Abilityworld- ( No.13 )
- 日時: 2013/12/29 03:42
- 名前: 遊太 (ID: 8fZYMRgY)
第11話
‾‾‾‾‾
信頼、信用していた人物に裏切られる気持ちが分かる者は、それを経験した者のみである。
例にあげると、家族。
休日は公園で遊んでくれた。仕事から帰ってきて疲れているのに、わがままを聞いて遊んでくれた。
息子のために、娘のために、妻のために人生をささげた筈のその男は、ある日、家族を裏切り、多額の借金を残して消えた。
あの日以来、俺は幸せを失った。
正しく言えば、幸せがどういうものだったのかを忘れた。
父親だった男から与えられた幸せとは、一体何だったのだろうか。あれは偽りの幸せだったのだろうか。
幸せを忘れた俺は、周囲が感じる幸せさえも理解できなくなっていた。
みんなが面白いと思っても、俺には面白いとは思えなかった。
心の底から、笑うことができなかった。だって、面白くない、その中に幸せを感じないから。
そんな幸せを忘れた俺を助けてくれたのは、元太や竜や有紀という、今ではかけがえのない存在であり友人たちだった。
彼らは俺の気持ちを理解しようと努力し、常に励ましてくれた。
学校の帰り、校則違反と分かっていながらも地元にあるゲームセンターで遊んでは、見回りに来ていた先生に見つかり追いかけっことなる。
元太の家で宿題をかけたテレビゲーム。有紀は絶対に参加しなかったが、横でいつも笑いながら見ていた。
野球部の竜が初めて大会に出ると知った時には、3人でわざわざ遠い球場まで応援しに行った。
彼らとの時間を過ごす中で、俺は徐々に幸せを思い出した。
父に裏切られた母親、そして妹と助け合いながら、やがて俺は、幸せを思い出した。
だがしかし、悠は、おそらくまだ思い出しきれていない。
彼女の場合は、優太とは少し違う境遇にあるからだ。
幼い頃から父親に虐待を受け、母親に助けを求めても、それは叶うことはなく……────。
幼馴染である照と篤彦から励まされても、それだけでは足りなかった。
優太は父に裏切られたが、まだ母と妹という家族が存在した。
しかし、悠には、悠の心の中には家族は存在していなかった。
自身に暴力を振るう父、それを助けてくれず見て見ぬふりをする母。
悠は、幸せを忘れた───いや、悠の中から、幸せが消えた。
そして幼かった悠は、こう認識した。
『人と付き合うことで、何かを失う』
だから、極力他者との接触を避けた。
もう、何も失いたくないから。
何を失うかさえ分からない恐怖に襲われる。
もしかしたら、唯一信頼している篤彦と照を失うかもしれない。
悠は、いつの間にか、人と接することをしなくなっていた。
***** ***** *****
リンカーンの火炎系超能力講義が終わり、優太、篤彦、照、鈴花は教室を出るや否や、悠を探す。
すると、廊下に榛名と並んで歩く悠を見つけた。
篤彦と照は優太と鈴花を見ると、強く頷き、悠のもとへと向かう。
「悠!!」
篤彦が声をかけると、悠は振り向き、鬱陶しそうな表情を浮かべて篤彦を見た。
「なに?」
「今から飯でも食おうぜ!!」
「なんで筋肉ダルマと2人で昼飯食べないといけないんだよ、気色悪い」
「バカ!!照も一緒だ!!」
篤彦は後からきた照の背中を叩きながら言う。
悠は照の顔を見つめる。
照は悠と視線が合う度に視線を外すが、自然と悠の目を見てしまう。そして、顔が熱くなるのが分かった。
すると、悠は「ふっ」と微かに笑い、「いいよ」と答えた。
意外な返答に、篤彦は驚く。
「おぉ!!本当か!?」
「べつにいいよ。でも、榛名も一緒でいい?」
「はーるなちゃん!!」
篤彦と照の後ろから、鈴花がひょこっと現れる。
榛名は首を傾げ、鈴花を見る。
「どうしたの、鈴花」
「一緒にご飯食べよ。ちょっとお話ししたいことがあるんだ」
そういうと、鈴花は榛名の腕をつかみ、強引に引っ張っていく。
「え?なによ!?ちょっと!?」
「まぁまぁ」
その後ろを優太がついていき、優太は後ろを振り向いて照と篤彦を見る。
2人は悠に気づかれないように小さく頷いた。
「それじゃあ、食堂に行こう!!」
篤彦は大きな声で言うと、悠と照の先頭を歩き始める。
そんな篤彦の後ろ姿を見て、悠が言う。
「暑苦しいところは、昔から変わんないね」
「そうだね。てかさ、さっきのリンカーン先生の授業での篤彦のギャグ、どうだった?」
「寒すぎ」
2人は顔を見合わせ、そして笑う。
今日の昼食は、様々な菓子パンや惣菜パンを自由に選べるバイキング形式であり、飲み物は紙パックのジュースだった。
篤彦は焼きそばパン、カツサンド、お茶。
照はカレーパン、チョコクリームが挟まれたパン、お茶。
そして悠は、イチゴクリームが挟まれたパンといちごミルクを選んだ。
3人はパンと飲み物を片手に、校舎中央の噴水前のベンチに3人並んで座る。
中央には照が座り、挟むようにして篤彦と悠が座った。
篤彦は座るとすぐに、悠の選んだ昼食を見て発言する。
「お前、そんな甘ったるいものばかりで腹一杯になるのか?」
「……ダイエット中なんだよ」
「ダイエット?お前、太ってないだろ?」
「あんた、女の子に体重のこと聞くなんてデリカシーがないんだね」
悠はそういうと、小さな口でパンをかじる。
続けて照、篤彦もパンを頬張る。
照がチラリと篤彦を見ると、篤彦も照を見ていた。
昼食の間に、なんとしても悠のヌイグルミの趣向、どうしてクラゲが好きなのかを聞きださなければならない。
先陣をきったのは、篤彦だった。
「しかし、こんな狭い島だとやることもないな。たまにはパァーッとどこかに遊びに行きたいよな!!」
「そうだね」
照と篤彦はチラリと悠を見る。
しかし、悠は有無を言わず、パンとジュースを交互に黙々と食べていた。
次は、照が仕掛ける。
「昔はよく水族館に行ったね。そういえば、悠はよくクラゲを見てたね」
「そうだね」
「クラゲ、好きなの?」
照がついに、その質問を悠に投げかける。
篤彦と照は、その返答を待つ。
「好きだね。あの自由気ままに水の中を飛び舞うのが」
悠は、何の気もなしに発言した。
しかし、篤彦と照はその言葉を聞いて、なぜか悠の孤独感を感じる。
辛い過去を、悠はまだ引きずっている。それは忘れられないことであることは篤彦と照は知っていたが、未だに生活の中でも悠が、そのことを引きずっていることを知ったのは、今が初めてだった。
「……悠、さっきの授業の時、俺、お前に辛い過去を思い出させてしまったよな。すまん」
篤彦が頭を下げて謝る姿を見て、悠は目を丸くし、苦笑いを浮かべる。
「なんだよ。あんたらしくないね、頭下げるなんて」
「お前、まだ昔のことを引きずってるのか?」
篤彦のその問いに、悠の昼食の手が止まる。
そして、小さく頷いた。
「当たり前じゃないか。死ぬまで、引きずると思うよ」
「俺たちやみんながいる。だから安心しろ。厳しい言い方かもしれないが、いつまでも過去を引きずるな」
「そんなのあんたに言われなくても分かってるよ!!!!」
突然、悠は怒鳴り声をあげて立ち上がる。
その声は小柄な体の女の子から発せられた声とは思えず、校舎全体に響き渡ったような気がした。
照と篤彦は呆然と、悠を見つめる。
悠が怒鳴り声を上げた姿を、2人は生まれて初めて目撃したのだ。
「そんな分かってる。でも、怖いんだよ。信頼できないんだよ。信用できないんだよ。たとえあんたたちでも、私の気持ちは分からないよ。親に裏切られることが、どれほど苦しくて、どれほど残酷なものか、あんたたちに分かるわけがない!!!」
篤彦が立ち上がり、悠に言い返す。
「お前はそのことを理由に周りと接することを拒んでるだけだろうが!!苦しいだの残酷だの、確かにそうかもしれないが、お前は過去を理由に現実から逃げてるだけだろ!!」
「分かってるって言ってるだろ!!」
悠は篤彦を押し、昼食を置いたまま、寮の方へと走り去って行く。
篤彦はしばらく悠の走り去る姿を見つめた後、大きなため息を吐いてベンチに座った。
「やっちまった……」
「僕…追いかけてくるよ」
照がそう言って立ち上がろうとした、その時だった。
「やめときな」
2人の目の前に、優太、鈴花、智花、そして奈織が立っていた。
奈織は篤彦を睨みながら言う。
「あんたたち身内の事情は知らないけど、告白は止めといた方がいいと思うよ」
奈織のその言葉に、篤彦は奈織の顔を見る。
照はベンチに座り直し、俯く。
「今、照君が悠ちゃんに告白しても、状況を悪くするだけのような気がする」
鈴花の言葉に、篤彦が反論する。
「でも今のあいつには、支えが必要だ」
「本当にそうなのかな?」
智花が篤彦に言う。
「照が悠に告白しようとしているっていうのは奈織から聞いた。篤彦、今の悠に必要なのは、本当に支えだと思う?」
「どういう意味だ?」
「その意味が分からないんなら、今回の告白大作戦は止めよう」
奈織はそう言うと、鈴花、智花と共にその場を去っていく。
残った優太は、篤彦と照を見る。
2人は意気消沈し、頭を抱えている状態だった。
「篤彦、照、僕の部屋に来て」
優太はそういうと、沈む篤彦と照を連れ、寮へと向かった。
