複雑・ファジー小説
- Re: Lost colors ( No.10 )
- 日時: 2014/04/26 09:37
- 名前: サカズキ (ID: gOBbXtG8)
一体何故、この磁石に限ってちゃんとした色が見えるのだろうか。
ジンジャーエール片手にソファーへ乱暴に倒れこんだ俺は、そんなことばかりを考えていた。
が、答えはいつまで経っても分からない。否、分かるはずもない。俺が何故あらゆる色を覚えているのかと同じで。
考える事をやめて、俺はジンジャーエールを飲もうとペットボトルの口を持ち上げた。
再びその手が固まる。
(またか?)
ソファの丁度正面にある小さな観葉植物が、先ほどの磁石と同じように色を取り戻していた。
それは嘗ての色と同じではあったが、所々に付着した汚れで醜くなっており、とても凝視できたものではない。
鉢植えも、真っ白だったはずが変な汚れ方をしていて目立っている。
俺は立ち上がって背後を振り向き、キッチンの冷蔵庫に目線を向けた。
先ほどの磁石は相変わらず、鮮やかな色をしている。観葉植物に目線を戻したが、やはり変わらず色が見える。
気付けば、このリビングにある家具などの色が殆ど見えていた。
ウッド調で温かな彩(いろどり)の家具に壁紙。それに合ったビビッドな照明。
どれも、昔見たものと同じ色だ。
相変わらず白黒なのはテレビ画面と、窓から見える外の風景だけ。
俺は暫くの間、懐かしい彩の部屋を楽しみながら考え事に耽っていた。
◇ ◇ ◇
「ただいまー」
「お帰り」
どれ位の時が経っただろうか。
気付けば時計は18時を指していた。部活を終えたらしい妹「美由紀」が、玄関から入ってくる。
肩から提げた鞄や水筒が鬱陶しいのか邪魔なのか、妹は玄関へと続く扉から無理矢理にリビングに入ってきた。
「えへへっ」
そうして荷物を下ろした美由紀は、いつも俺に飛びついてくる。
俺は軽く受け止めながら、コイツの様子を観察した。
この様子では、美由紀にはこの部屋の色が見えていないらしい。
すると見えているのは俺だけなのだろうか。そう思ったとき、ポケットの中の携帯が震えるのを感じた。
俺は咄嗟にそれを取り出す。鮮やかな青色だ。
かかってきたのは、意外にも草薙からだった。