複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.1 )
- 日時: 2014/01/04 09:52
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
——サディスティー王国立流星高等学園——
+ + + +
「よし、終わったか」
シグナ・ディヴァイアサンは『流星学園』という高等学校の生徒。
生徒会に関する執務の後、彼は伸びをしながら寮に帰るところだった。
立秋のこの頃、桜並木の枯れ葉が舞い落ちる。そんな落ち葉の中の一枚が、彼の白い頬を撫でて飛び去ってゆく。
相変わらずの風景だ。
夕焼けも溜息が出るほど美しく、この調子ならば明日も晴れるだろう。
そんなことを考えながら道中、シグナは聞き覚えのある、自分を呼ぶ声を聞き取った。
その声は人々の話し声で小さかったが、彼はしっかりとその鼓膜が震えるのを確認し、聞き取ることが出来た。
振り向けば、長い髪を風に靡かせながら走ってくる女子生徒が一人、手を振りながら元気よく走ってくるのが見える。
「シグナく……きゃ!」
(あっ)
だが地面に落ちていた小石を踏みつけ、勢いよく走ってきているその女子生徒は見事に転びかけた。
まずい。と思ったシグナはテレポートを利用して彼女の前に瞬間移動し、転びかけているところを支えてあげた。
「大丈夫か?マルタ」
「あ、ありがとう……」
しっかりとした腕の中で彼を見上げるのは、シグナが所属する生徒会の書記の『マルタ・ヴァラナーダ』
シグナと同年代で、クラスが一緒というわけではないが結構親しい仲にあった。
マルタはシグナから離れ、眼鏡の位置を整えて改めてお礼を言った。
「ありがと、シグナ。でもテレポートって便利だね。いつも使えばいいのに」
「いや、そんなしょっちゅう使っていたら流石に疲れるんだが」
「へー、そーなんだ」
シグナはテレポート———瞬間移動とも言う———が使える。
この学園に入学するのとほぼ同期、彼は世界樹の声を聞いて焔を刻まれた。
それ以来、彼には少しずつ何かに目覚めている感覚があり、その証左に現在テレポートが使えるのである。
(滅せられしアルカナを混沌の手より奪い去り、一刻も早く我の下へ集めるのだ。頼んだぞ、焔よ)
その世界樹の言葉が、シグナはずっと忘れられずにいる。ある日の夜、突然告げられたその言葉が。
混沌や『滅せられた』など、イマイチ———というより全く分からない———意味合いもあったが、彼は『アルカナを元に戻す』力を焔として授けられたと、そのことだけは理解していた。
シグナは両手を見、焔の刻印を浮かせたり消したり繰り返す。
その刻印は彼の内に宿ったもので、揺らめく炎で簡単な紋章が象られている。
「シグナ君?」
「あぁ、何でもない」
他人にその紋章は見えないらしい。
ましてやテレポートがそれのお陰で出来るとも知らないだろう。
この世界には魔法という便利なものが存在するので、出来ても別段おかしくはなかった。
(本当にアルカナって、どうにかなるのか?)