複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.100 )
日時: 2014/02/08 22:22
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

 シグナたちはそれからというもの、ありとあらゆる場所を探し回ってアルカナを入手していった。
それに比例するように彼らも強くなっていき、最早向かうところ敵なしと思われている。
だがここまできて、シグナをはじめとする仲間たちは大きな壁に激突していた。
なぜなら全部で八つあるアルカナのうち、二つだけ何故か行方不明となっているのだから。

「世界樹、起きてるか?」

 そこでシグナは、冬の初めのころにワールドツリーフォートに来ていた。
ここにある世界樹と彼は、ここ暫くの間コンタクトがとれずにいる。
もう刻印の力ではどうにもならないので、いっその事直接訪問に行こうと思ったらしい。

(……はぁ、予想はしていたが……)

 世界樹からの応答はなかった。代わりに虚しく、風が枝葉を揺らしていく音だけが木霊する。
シグナは途方に暮れた。これからどうすればいいのだろうか。そんな頭を抱える彼の前に、一つの人影が現れた。

「シグナ・ディヴァイアサンだな」
「そ、そうだけど……お前は何だよ?」

 葬送丸の時のパターンを考えると、目の前のこの男も敵であるという可能性は否定できない。
エクスカリバーに手を掛けて警戒したシグナだが、どうやらその必要はなかったようだ。

「僕はシュラー・クルファ。お前を助けに来た」
「はぁ?」
「僕はティアや星野たちと関わりを持っている。だからお前の事情も知っている」
「は、はぁ……」

 そんなことを唐突に言われても信じれるわけがないだろう。
そう言いたかったシグナだが、とりあえずこの場はその言葉を控えた。
藁にも縋るような思いの今、このシュラーと名乗る男以外にアテはない。
出来る事なら、面倒事はなるべく控えたかった。

「なら、教えてくれ。頼む」
「いいだろう。まずはこの紙を見ろ」

 そんな頭を下げるシグナに、シュラーは懐から三枚の紙切れを取り出す。
渡されたそれらにはそれぞれに、研究手記、監視手記、参謀手記と書いてあった。シグナはコレを見るなり、訳わからないといった風に首を傾げる。それを見たシュラーは、喉の奥でクックと笑う。

「これは僕が潜入したとある組織から入手したものだ。見れば分かるだろうが、そこにはアルカナや、対の存在となるゼノヴィスについて書かれている。怪しいとは思わないか?」

 確かに、露骨に怪しかった。
今この時期このタイミングでそのようなメモ書きが出てきたのだ。逆におかしくないとそれこそおかしい。

 そして、シグナはゼノヴィスについても知っていた。
秩序と混沌、アルカナとゼノヴィスは"こちらの世界"と"あちらの世界"との対のもの。
それは天空遺跡から得られた情報だ。

「この組織、何処にあるんだ?」
「遥か東の国———確か、出雲神州といったか。そこにある機関のようだ」
「すると、まず到着までかなり骨が折れるな」
「そうなるな」

 出雲神州に行くまで骨が折れる理由。それはかなり長い道のりにあった。
まずここから東に行き、ジョウト地方という広大な荒野と砂漠を越えなければならない。
そして一息つくのも束の間、今度は巨大な湖を迂回するために北か南へ歩みを進めることになる。
そのいずれに進もうが、結局は東に行くのでグレムリン地方のジャングルを越えなければならない。

 他には山を登って降りる、大きく迂回して海沿いを行くという方法もあるが、いずれもかなり時間がかかる。
特に山に関しては、そう気軽には登れない。何故なら、少なくとも標高が5000メートルを上回るからだ。
さらに高いところだと成層圏に近付くため、実際問題非常に危険である。
シグナの刻印の力さえあればどうということはないのだが、流石に体力が削られると効果も薄まるというものだ。
かといって海沿いの平和な道を通るとなると一ヶ月はかかる。

 おまけに、シグナのテレポートは知っている場所にしか行くことができない。

(くそ、世界樹がせめて答えてくれたら……)

 どうしたものか。シグナが悩んでいたときだった。

「えっ」
「むっ」

 何かの気配の変化に二人は気付く。
一体何があった。そう思いつつ周囲をキョロキョロしだした彼ら。
すると、シグナの視界に妙なものが引っ掛かる。

「なっ!!」
「っ!!」

 そしてその光景を凝視するなり、これほど取り乱したのは人生で初めてだと二人は思った。
普段クールな二人が取り乱した理由。それは、シグナとシュラー二人の背後に佇む世界樹にあった。



「世界樹が、枯れた———のか?」