複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.102 )
日時: 2014/02/09 09:40
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

 枯れた。そういう表現しか出来なかった。
一瞬だけ世界樹が黒く染まったかと思えば、今度は秋口の桜の木のように葉が茶色になる。
そうして枯れたという認識をシグナが受け取るや否や、世界樹の葉は次々と風に乗って散ってゆく。

「……どいつもコイツも、アルカナの消失が原因なのか?」
「だろうな。おい、行くぞ」
「は?」
「学園に戻るんだよ!学生に残された時間はタダでさえ少ない。僕も今回は冒険についていってやる」
「助かる」


  + + + +


 そうして次の休日となったときには、世界樹が枯れたという問題は世界中で取り上げられていた。
流石世間は噂が早い。人工衛星からの映像で、実際に枯れた様子の世界樹がニュースで映し出されている。

「いいか?」

 そんな世界情勢下、シグナは目の前の仲間達に目配せをした。
今回ついてくる仲間はシュラー、マルタ、リュイ、飛沫ともう一人見知らぬ少女だった。
その少女はジュリ・ローウェル、リュイの妹だと名乗っている。
性格が違いすぎて少し肝をつぶしかけたシグナだが、とりあえず平静を装うことに成功。

「今回の旅は過酷過ぎる。もしかしたら途中で切り上げるかもしれないくらいだ。無理はするな」

 今回は何処とも全く見当がつかない場所が目的地。
一応刻印のテレポートで切り上げた場所から再開できるが、それでも長い旅路となるのは必至。
腹を括った皆は、シグナに頷いて同行を求める。
そして、シグナは踵を返していざ出発———しようとした。

「む、如何したシグナ?」

 踵を返し、数十歩歩いたところでシグナは歩みを止めたのだ。
すると後ろをついてくる仲間たちに、彼は若干苦笑しながら校門を親指で指した。
その指先には、無数の野次馬が———もとい、マスコミなどのメディアが———門を占領している。

「あれじゃ出れねぇな」
「えー、どういうことなの?お兄ちゃん知ってる?」
「いや、知らないから」

 ずいっ、とジュリはリュイに近付き、リュイはその分身を引く。
一方でシュラーは何かに勘付いたらしく、静かにシグナの隣へ歩み寄って耳打ちをし始めた。
頷きながら聞くシグナ。会話が終わった頃、二人の表情は渋面そのものとなっていた。

「ど、どうしたの二人とも?」

 マルタが首を傾げる。シグナは伝えていいものなのかとシュラーを見たが、どうやら別に良いそうだ。

「あのな———」


  + + + +


 世界樹が枯れた頃、シグナとシュラーは丁度ワールドツリーフォートにいた。
もしかしたらそのとき、人工衛星の映像に彼らが映りこんでいたのかもしれない。
もしかしたら人相と住所が発覚して、肉眼で世界樹が枯れる様子を見た二人にマスコミが取材に来たのかもしれない。
シグナはそんなシュラーの見解を皆に話した。

「まさか、そんなことって……」
「あるかもしれないよ」

 そんなことあるものなのか。そう疑ったマルタの発言を飛沫が遮った。

「だってアレ。よーく叫び声に耳傾けてみてよ」

 飛沫がその手に持った赤い日本刀二本のうち、右手の刀で門のほうを指す。
言われたとおり皆は、ディや他の先生達が帰れと閉められた大きな門越しに叫んでいる光景に耳を傾ける。

「シグナ君とシュラー君はどこですか!?」
「帰ってください!一切の取材をお断りします!」

 すると、そんな声が聞こえてきた。

「さて、こうなったら最終手段だな」

 シグナのその呟きに、皆が彼に視線を集中させた。