複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.103 )
- 日時: 2014/02/09 13:39
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「ジョウト地方の横断……これは不可能の代名詞だったか」
実はジョウト地方の一番近い国境なら知ってると言い出したシグナにより、一行はテレポートで砂漠の前まで来ていた。
「あぁ。死亡確率は83%で、しかもその大半がベテランの冒険者という話だったな」
そんな砂漠の前で、リュイとシグナは不穏な会話を交わしていた。
その際ジュリがリュイの頬を、マルタがシグナの頬をビンタしたので二人の会話は収まったという。
因みに、実際気候くらい、刻印の力でどうとでもなる。それを知っていたシグナはリュイの発言に冗談交じりに乗ったのだが、当のリュイは何の気もなしに不可能の代名詞———否、死ぬ可能性が高い発言を口にしていた。
それを知ってか知らないでか。少なくともマルタは気付けなかったようだが、彼女らは彼らをビンタした。
「お兄ちゃん、そんなこと言わないでよ!」
「わ、わ、わ、わかったわかったわかったわかったから近付くでない!」
「シグナもしれっと死亡確率なんて口にしないで!」
「冗談だっつーの。実際気候は俺がどうにかできるから安心しやがれ」
マルタがシグナを睨むように見上げている傍ら、女性恐怖症のリュイはジュリから逃げている。
一方でその光景を見ていた飛沫と、シュラーは溜息をついてそれを傍観している。
そしてようやく一段落ついたころ、シグナが気を取り直して苦笑した。
「まあまあ、俺が何とか死亡率下げてくから安心しろっての」
+ + + +
「きゃっ」
砂漠の中心まで来たかと思えた頃、マルタは急に歩みを止めたシグナにぶつかった。
「ちょ、ちょっとシグナ。急に止まらないでよ」
「……」
膨れっ面で文句を言うマルタだが、シグナは何かに集中しきったように反応を示さない。
やがてマルタだけでなく、その場にいた一同が首を傾げはじめた頃だった。
「アンチグラビティ!」
一瞬でシグナが呪文を唱えた。
わ、びっくりした。そう飛沫が呟いた刹那、その場にいた全員が急速に上空へと浮かび上がる。
「ちょ、な、何よ!」
急にかかったGに一同はビックリ。
「ゼログラビティ!」
そして1秒もしないうちに30メートルほど上空に浮かび上がった頃、再度シグナが呪文を唱える。
すると先ほどまでかかっていたGが抜け、一同は溜息をつく。同時に、謎の脱力感にも襲われた。
「何事だ?」
シュラーが問う。
シグナはその問いに応え、先ほどまで自分たちがいた地面を見るように促す。
そこにはいつの間にか、穿たれた大きな穴から巨大なモグラのような魔獣が顔を覗かせていた。
その頭の大きさからして、体長約7メートルと言ったところである。
「な、何よアイツ。砂漠に……モグラ?」
「サンドグラモールだ。差し詰め、ここの死亡確率の九割はこいつが原因かもしれないな」
サンドグラモール。
それは砂漠の覇者という異名を持つ、その名の通りジョウト地方最強の魔獣である。
行き交う人々やこのあたりの集落を襲っては喰らい尽くすという、非常に厄介な生態系を取っている。
そしてシグナの予想通り、ジョウト地方の死亡確率が高い理由はこの魔獣にある。
「しかしどうしたものか。まだ沢山いるみたいだ」
「はぁ、面倒なことに……」
目下の大地には、いつの間にかそのサンドグラモールがわんさかやってきていた。
そんな光景を見たシュラーは思わず溜息をつく。思わず溜息が出るのも無理はない。
単体でもかなりの戦闘能力を誇るサンドグラモール。それが束となったときはもう誰だろうが手も足も出ないのだ。
重力魔法で無理矢理潰すか。そう考えたシグナだが、その必要はなかったようだ。
「あれ?」
皆が地面から目を逸らした刹那のうち、音も立てないままにサンドグラモールが屍となっていた。
あらゆる箇所を鋭い刃物で切り裂かれているそれらは、砂の大地に赤い液体をぶちまけている。
そしてその数ある屍の中心に、フードをかぶって返り血に塗れた太刀を持った男が立っている。
「えっ」
その男を見るなり、反応したのは飛沫だった。
「お、お兄ちゃん?」