複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.107 )
日時: 2014/02/09 18:31
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

 その後シグナたちは、黎明の案内で無事砂漠を抜けることが出来た。
が、ヘソを曲げたらしい飛沫のお陰で、その場の空気は今まで最悪の状態であった。
魔獣と戦うにしろ休むにしろ、いつだって飛沫は黎明を見ようとしない。
そんな彼に相談を持ち込まれたシグナも、どうすればいいものなのか分からないとのこと。

 そんなこんなで、彼らは現在小さな町に来ていた。
ここはジョウト地方とグレムリン地方の間にある町で、人はかなり少ない。
建物も低く、どれもこれも年季が入っていて今にも壊れそうだ。

「とりあえず、宿とるか」

 明日も幸い休日。
出来るだけ早く先へ進みたいというシグナの考えと、魔獣の落とした金の具合が見事にマッチし、宿を取ることに。
この町の唯一の見物といえば、その宿が経営する温泉だった。


  + + + +


「ふー、いい湯だぜ」

 そうして早速、皆はその露天風呂を満喫し始めた。
ここの温泉は仕切り一枚で男湯と女湯が分かれており、源泉はひとつで繋がっている。
とは、この時の皆はまだ知らなかった。

「中々よい筋肉をしているな、シグナ」
「リュイこそ良い方なんじゃないか?柔らかい筋肉が一番いいって言われてるし」

 筋肉は鍛えると硬く凛々しくなっていくのだが、さらに鍛えるとその筋肉は柔らかくなるという。
そう太っていなくとも体の重い人は、大方それが原因で重いといわれている。
だが、勿論例外はある。元々太っていた人は体内脂肪がたまっているケースがあるからだ。

 そんな感じで皆は、身体の鍛え方の話題について花を咲かせ始めた。
 その一方で———

「ジュリって結構"ある"ほうなんだね」
「えー、マルタのが一番だと思うけどな〜……ってか、結構ってなによ!」
「うぅ〜、あんな会話に入れるようになりたい……」

 女風呂のほうから聞こえる、何やら怪しげな会話。

「な、なぁ。何だってお前ら静聴してるんだ?」
「あーいや、僕は……」

 そんな謎の会話が"向こう"から聞こえてくるなり、シグナたちはいきなり静かになり始めた。
その微妙な空気に、シグナが黎明に問うた。すると彼は両手を振って何かを否定するように呟く。

「静かになり始めた切欠はリュイだと僕は思うがな」
「むっ、な、何故だ?」

 その状況で、シュラーが見事に地雷を設置し始める。

「シグナに問いかけられておきながら、お前口聞かなかっただろ」
「それがどう繋がると?」
「確か、お前が黙り始めたのと同時だったか?"あっち"から"ああいう"会話が聞こえてき始めたのは」
「な、何を言うシュラー!俺はあくまで女性恐怖症だ。俺は決してそのようなことに興味がないと誓えるぞ!」
「おいおい、誰も興味がどうのって話してないだろ?」
「っ!」

 やれやれと首を振って苦笑するシュラーに、リュイはカチンと来たようだ。

「あぁ、おい!!」
「ちょっと落ち着きなよ!」

 シグナと黎明が慌てて静止を利かせたが、もう遅かった。
油断しているシュラーを、リュイはその細っこい腕を掴んで一本背負い。
したのはいいが、何故か投げる威力が強大でシュラーはそのまま飛ばされていった。

 男湯と女湯を仕切る、如何にも脆そうな竹製の仕切りへと。

「黎明、逃げるぞ」
「うん」

 シュラーが飛んでいったのとほぼ同時刻、シグナと黎明は息ピッタリのタッグで更衣室へと逃げてゆく。
だがリュイは我を失っていて、シュラーは飛んでいる———否、飛ばされている。
シグナたちの逃亡に、彼らは気付けなかった———