複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.119 )
- 日時: 2014/02/11 18:41
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「う、ん……ここは……」
身体の自由を取り戻し、目が覚めたシグナ。
彼は牢獄のような場所にいた。というより、牢獄そのものだった。
無骨で冷たい、灰色のコンクリートの壁と床。目の前には鉄格子。これを牢獄といわずに何と言う。
「目、覚めたか?」
そして聞き覚えのある憎たらしい声が響く。
「げ、葬送丸!」
予想はしていたが、まさか本当に葬送丸がいるとは思わなかった彼。
そう、そのシグナの目線の先には、腕を組んで壁にもたれかかっていた葬送丸がいたのだ。
「葬送丸、お前だけはマジ許さねぇ。殺してやる!」
そして彼の存在をしっかりと把握したシグナは、エクスカリバーを抜いてアルカナの力をその身に宿した。
———はずだったが、何故か力が入らない。
「どういうことだ?アルカナがない?くそっ!」
「落ち着けって、シグナ!」
強い語調でそう諭した葬送丸。
シグナには、彼の目がどこか焦っているように見えた。
「俺はゼノヴィスを、あのジェームスとかいうヤツに奪われた。お前もあいつにアルカナを奪われたんじゃないのか?」
「あっ」
そういわれて、シグナはハッとした。
彼は覚えている。電流を流されていたとき、自分の中から何かが抜き取られたような感覚を。
もしかしたら、そのときにアルカナを奪われたのかもしれない。
ようやく落ち着きを取り戻したシグナは一言詫びた。が、葬送丸は特に何も応えなかった。
かわりに壁から背中をはがし、両手の握った拳に力を入れる。
「それよりも、はやく状況を打破しないとまずい」
「あいつが何時ゼノヴィスとアルカナを暴走させるか分かったものじゃない。そうだろ?葬送丸」
「フンッ、分かってるじゃないか」
流れるようなこの空気で、二人は見事に意気投合。
秩序と混沌。二つの怒りの矛先はこの研究所にむく。
葬送丸とシグナはそれぞれ得物を手に取り、目の前の鉄格子に手を翳す。
「「はぁっ!!」」
気合の声が重なったのとほぼ同時刻、目の前の鉄格子は木っ端微塵に打ち砕かれた。
そしてさらに、何らかの警報音がけたたましく鳴りだし、照明も赤色に変わった。
「ははっ、雰囲気出てきたじゃねぇか」
「ククッ、確かになァ」
二人はあのときのように、邪悪な笑みを浮かべていた。
+ + + +
一方その頃———
「ちっ、シグナとやらのほうは抽出できてもマルタのほうはそうはいかなかったか」
研究所の一室にて。両手両足の自由を奪われ、口を布でふさがれたマルタを尻目に、ジェームスは一人でブツブツと何かを呟いていた。眉間にシワがよっているのを見ると、相当不機嫌らしい。
マルタは気絶していた。
アルカナをシグナから奪ったジェームスだが、彼はシグナたちは愚か、マルタでさえ気付いていないという、彼女に宿る一つのアルカナを取り出せずにいたのだ。
そこで、アルカナやゼノヴィスを手放すようなほど強力な電流を何度もマルタに流し続けたものの、結局は失敗。
気絶したそんなマルタを尻目に、故にジェームスはイライラしていたのだ。
「くそっ!」
次いで響く警報音。
ジェームスの機嫌はさらに悪くなった。
ゼノヴィス八つとアルカナ七つ。ここにきてアルカナ一つが手に入らない。
さらに邪魔も入る。今までの苦労を無駄にしてなるものか。
+ + + +
暫くして、マルタが目を覚ました。
だが声をあげる元気は彼女になく、ただ力なく涙を流すだけである。
同時にジェームスは、いっそ殺せばいいんじゃないかと思いついたところだった。
早速ジェームスは研究用のチェーンソーをその手に取り、スイッチを入れて轟音を響かせる。
マルタはそれを見ているだけだ。明らかに自分に向けられているものだと分かっていながら。
正確に言えば、全身は恐怖が支配していてもどうしても感情が表に出ない、といったところだろう。
涙は既に枯れた。
「わるいが、その命を散らしてもらおう。良き死出の旅を」
そのチェーンソーが振り上げられた。
マルタは目を閉じることしか出来なかった———