複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.121 )
- 日時: 2014/02/14 19:24
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「しかし、どうしたものか。これじゃあ学園の皆に怪しまれる」
シグナは少しの沈黙の後、心配するような目で自分の右腕のあった場所を見た。
血さえも流れることなく、肩から捥げたようになくなっている。まるで最初から存在しなかったかのように。
「その心配はありませんよ」
「えっ」
不意に響いた、聞き覚えのある声。
シグナたちが目線を彷徨わせ、引っ掛かった場所はこの部屋の出入り口だった。
そこには、心配無用と言わんばかりの言葉を掛けた声の持ち主が立っていた。
その人物が誰か。葬送丸はわからなかったが、シグナとマルタはその人物をよく知っていた。
「え、トゥールス先生!?」
「……と、ターシャとクレスか?」
そこには生徒会顧問のディ・トゥールスが、両手を腰にあてがって立っていた。
あと二人———アナスターシャとクレファバースが、そんな彼の後ろに控えている。
ディはシグナたちの前まで歩み寄ってきた。
「全く、最近貴方達の行動が不審だから追ってきてみれば……」
「す、すみません」
「いえ、謝る必要はありませんよ。アルカナのためなのはいいことですが、学校側の責任もあるので、あまり危ないことに首を突っ込まないようにしなさい。二人ともいいですね?
「ハイ」
シグナとマルタは声をそろえて返事した。
ディはそれを見て満足そうに頷くと、さて……と呟きながら踵を返す。
向いた視線は葬送丸と同じ、ジェームスのほうだ。
そして指を三本立て、腰を抜かしている彼の目の前に突き出す。
「今から言う条件を満たすことが出来れば、今回の件は不問に帰しましょう」
口調はいつも通りなのに、どこかその言葉は恨んでいるような気さえある。
「一つ、いますぐシグナ君の義手を用意すること」
一本目の指が改めて立てられた。
「二つ、貴方が奪ったアルカナやゼノヴィスとやらをすぐに持ち主に返すこと」
二本目の指が立てられる。
「三つ、万が一の慰謝料を500万G(ゴールド)支払うこと」
そして、三つ目の指も立てられる。
因みに500万Gあれば、土地の入手と共に家を一件立てることが可能。
シグナたちにはまだ想像できない金額であった。
「尚、慰謝料は要求されなかった場合の金額を返金するとお約束いたします。貴方達もそれでいいですね?」
マルタは頷いた。葬送丸も、頷く立場なのか分からなかったが、ディが目線を合わせてきたので一応頷いた。
だがシグナだけは、その首を縦に振らない。代わりにフラフラと立ち上がった。
いいや、もう一つ———そう呟きながら。
シグナは残った左手でエクスカリバーを握り、その剣腹でジェームスのアゴを持ち上げる。
「自分の研究に没頭するのは結構だ。だがなぁ……いいか?耳の穴かっ穿ってよく聞きやがれ」
ジェームスは沈黙を以って返事をする。
シグナもそれを肯定と受け取り、あのなぁ、と言い掛けて続けた。
「そのためだと銘打って気安く人から物を奪ったり、罪のない人を気安く殺したりするな。お前のためにも俺からこの条件を追加させてもらうぞ」
やっぱり、シグナは優しいなぁ。この言葉を聞いたこの時、そう思うマルタがいた。
「わ、分かった……だから、い、命だけは!」
説教を受けたジェームスは部屋の奥へと走っていった。
何をする気だ。警戒した一同だが、ジェームスが手をつけたのは、奥のほうで黒光りする金庫。
数字をあわせ、諮問チェックや電子操作をいくつか終える。やっと扉が開き、彼は中から何かを取り出す。
そして再び戻ってきたかと思えば、ディにその何かを差し出した。
その何か。それは丈夫な繊維で編みこまれた袋で、中身はこれでもかという量のゴールドが。
「その中に500万ゴールドが入っている!そしてシグナ君といったか。君はこっちに来てくれ!」
不問要求のひとつの条件を満たした。
今度はシグナを招き、彼は研究室の奥へと消える。
それに葬送丸が慌ててついていった。また何かあると困るからだ。
彼がついたころには、シグナは何かハイテクそうな装置に囲まれて寝ていた。
「いまから急速に義手をつける。私の研究の、ひとつの集大成だ」
+ + + +
普通、義手や義足はつけるのにかなりの時間を要する。
だがシグナは、ものの数分で義手をつけられた。可動にも何の問題もない。
これならば集大成と言っても過言ではないだろう。これが最先端の技術か……葬送丸と彼は素直に、そう思って感心。
戻ってきたときも、その素早さに一同も驚くばかりだったとか。
「さて、最後だ。アルカナとゼノヴィスを返そう」
ジェームスは今度は、何か大仰なレバーを引いた。
すると近くの箱のようなものから、蒸気と共にアルカナとゼノヴィスが姿を現す。
赤い輝きと漆黒の輝き。間違いない。
「よし、これで———」
シグナがそう呟きかけたときだった。
「えっ」
突然、マルタの胸が輝きだす。
その輝きの色は、アルカナと全く同じだ。