複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護【お知らせ更新!】 ( No.126 )
日時: 2014/02/15 13:05
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

 シグナたちはその後葬送丸と別れ、研究所内で拉致されていた黎明たちを救出して学園に戻っていた。
ここまで冒険をしてきた中で、彼は相当強くなっている。それは共に冒険をしてきた仲間にも同じことが言えるだろう。
だが彼はここにきて、寮の自室にて一つ思い悩んでいた。

 それは、このまま皆を危険に晒し続けていいのだろうか、ということ。

 何故か。それは件の研究所にある。
彼はそこでマルタが殺されかけて以来、仲間が危険に去らされることに抵抗を感じ始めたのだ。
もちろん皆は頑なについてくるのだろうが、それで死んでしまっては元も子もない。
それがシグナを守ったからという理由だったなら尚更だ。

『———とのことです。この急激な環境変化により、世界中の動植物は———』

 何となくついていたテレビのニュースでは、出雲神州で始めて見た気象などの変化について話題になっている。
どうやらそれは世界中で変化が観測されているらしく、先ほどから各国々の中継映像が変わりばんこで映されている。
葬送丸は、ジルディアとルミナシアが一緒になったようだと後に語っていた。
これが調和されずに無へと帰るか、見事調和されて混沌と秩序が平和として共存できるか———

「……ハッ!」

 ———今になって思えば、今後タルタロスで自分がどう動くか。
それは世界の命運がかかっている行動ではないか。生きとし生けるものの命が、全てこの身にかかっているのではないか。
今更いきなりそれに気がついたシグナは、胸がざわつき始めて仕方がなくなった。

(外の空気でも吸ってこようか)


  + + + +


 同じ寮に住んでいたラルスの静止も聞かず、シグナは酔っ払ってもいないのに若干の千鳥足で寮を後にした。
そうして外の空気を吸うだけのつもりだったはずが、気付けばいつの間にか、王国の高台まで来てしまっていた。
城下町を眼下に見渡せるこの場所は、ワールドツリーフォートのように草原が広がっている。
涼やかな風が吹く夜空には星が輝いており、夜景もとても美しい。
シグナはそんな夜景を、何か眩しいものでも見るかのように目を細めてみている。
その表情からは、何かの悟りの境地に至ったかのごとく、あらゆる感情が消えていた。

「シグナっ!」

 途端に響いた、儚くも元気のある声。
そんな声に呼びかけられたシグナはハッとして、声がしたほうの背後を振り返った。
そしてある程度は予測していた人物が、手を振りながら走ってきているのが見えた。

「マルタか……」

 近頃良く二人きりで出会うな。
何時だったか。確か、エクスカリバーを世界樹から受け取った日の夕方だったか。
あの日もこんな風に駆け寄ってきたな。また転んだりしないだろうな。
彼はそう思いながら薄く笑みを浮かべ、飛びついてきたマルタの温もりを抱きとめながら、いつかあの日の光景と目の前のこの光景を重ねてみていた———