複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護【お知らせ更新!】 ( No.129 )
日時: 2014/02/15 15:22
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

〜学園生活編〜


—異端者は焔に負ける—


「オイ、何やってんだ?」

 シグナはたまたま通りかかった校舎裏で、女子二人を鉄パイプを持った男子三人が壁際で囲んでいた。
その女子は見知らぬ人物だったが、男子のうちの二人は彼は知っている。というより、知らない人物の方が少ない。
その知っている男子のうちの一人は、生徒会の副会長。一人はシャインブレザーを着た生徒。

 因みにシャインブレザーとは、学園長から一目置かれるほどに優秀な生徒だけが着用を許されるブレザーの事。
周囲から認められ、特定の条件を満たしたなら、学園長が直々にその生徒に贈呈するという。
それはキラキラ輝く糸で繊維が編みこまれており、着用していれば周囲から浮いてしまうほど目立つ。
シグナやマルタもシャインブレザーを持っているが、あまり目立つのは控えたいということで着用していない。
だが集会など、公式の行事が執り行われる場合には必ず着用しなければならなくなる。

 そんなシャインブレザーを着た生徒と副会長が、こんな場所で何をしているのか。
シグナは不審に思えて仕方がなかった。この光景や場の空気はあからさまに危ないとしか言いようがない。
ましてや対象は優秀な生徒。もう一人の男子生徒も、議員のバッジをつけていることからそれなりに優秀なはず。

「不良崩れがこんな場所に何か用か?」

 そう低い声を発したのは副会長だった。いつもシグナが聞いているものとは違う。

「いいや、たまたま通りかかっただけだが」

 因みにシグナは制服を着崩している。
面倒、動き辛いという様々な理由を本人は述べているが、この副会長だけは納得がいっていないらしい。
故の不良崩れ呼ばわりだ。

「それよりも、俺の質問に答えてもらおうか?」

 そんな呼ばれ方をされたシグナは、どこか挑戦するような笑みを浮かべる。

「お前には関係ないだろ」
「いいや、それは違うね」

 副会長の言葉を否定したシグナは、懐から赤いカバーの学生手帳を取り出す。
そして一番最初のページを開くと、そのページを彼らに見せ付けた。
途端、見せ付けられた彼らの背筋が凍りつく。
そのページには、シャインブレザーを入手した証とその経緯を称える勲章が並んでいる。

「同じシャインブレザーの所有者として、同じ生徒会のメンバーとして、この空気は見過ごせないぜ?」

 その笑みはそのままに、シグナは学生手帳をしまった。

「仕方ねぇ」

 すると、副会長が改めてシグナに向かい合った。
喧嘩でも売るかような目線が彼に向けられ、次いで男子二名が続いて向かい合う。
その隙に怯えてた女子たちは、逃げたのか隠れたのか、その場から姿を消した。

「真面目な生徒会長さんに目をつけられちゃあオーバーだ。三対一でも文句言うなよ?」
「へぇ、喧嘩か。面白い」

 走ってきた男子三人を相手に、シグナはのんびりそう呟きながらあくびを一つした。
この三人は魔法を使えない。彼がそれを知っているからこその対応である。
魔法は先天的な才能が求められるため、誰しもが必ず使えるとは限らない。

「な、なんだぁ?」

 その間にシグナは、静かに小さく呪文を唱えた。
それは対象三人にきわめて小規模な重力魔法がかかるものだった。
だからだろうか。走ってきた彼らが急に足を縺れさせて動きが遅くなったのは。
彼らは何か思い荷物を背負ったかのような動きをはじめている。
そんな動きではいくら殴られようが、痛くもない上に軽く避けることができる。

「オイオイどうした?」

 ヘラヘラしだすシグナ。怒りを募らすその男子三人。
そして、それに比例するように強くなってゆく重力魔法。何もせずとも、このままではシグナの勝ちとなる。
だが、何時までもこのままでいるわけにはいかない。このままでは共犯だ。

 やがてシグナは重力魔法で彼らの動きを拘束し、ディに報告をしにいくのだった。

 因みにその日を境に、副会長は生徒会にこなくなった———いや来れなくなったという。
あまりにもあっけないその幕切れは、翌日の臨時集会で皆に笑われたそうだ。
匿名ではあったものの、やはり気分は良くなかったとか。