複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護【お知らせ更新!】 ( No.131 )
- 日時: 2014/02/15 19:26
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「な、な、な、なんだこりゃあ?」
覚悟を胸にいざ出発!
と思っていたシグナだが、その不規則な重力に拍子抜けを食らっていた。
ある一定距離黒い物体に近付けば、今いるその場所から近付いた黒い物体に、まるで落ちるかのように移動してしまう。
どっちが上でどっちが下か、葬送丸の言っていたとおり全く分からない。
そんな不規則な移動を繰り返していくと、一際大きな黒い床に着いた。
「うん?」
その大きな床には、見知った人物が四人いた。
「く、くそっ……」
目前には、鎧がほぼ全壊のゼルフが。
そして数メートル先には、リリーとリンとエレナが。
どれも何らかの理由で、シグナは顔を知っている。
「あら、シグナ……よね?」
反応したのはリリーだった。
変わり果てたその姿に、一瞬認識が遅れたようだ。
シグナはその固い表情を崩さないまま、ゼルフの隣に立つ。
「ゼルフが何をした?」
理由も無しにここまでボロボロにするのは見過ごせない。
そういいつつ、シグナはエクスカリバーを抜いてリリーたちに向けた。
その刃は未だ、煌びやかに光っている。
するとそのシグナの行動に反応したのはエレナだった。
「私のこの足はゼルフに切り落とされたの。だから復讐をしにきたのよ」
「三人がかりでか?」
「悪い?」
「悪いな。復讐は一人でするものだ」
シグナはエクスカリバーを鞘に収めた。
その代わりに彼はエレナに近付き、彼女の足元に跪く。
「な、何を……」
義足となっているその足に触れ、白い光でそれを包む。
やがてその義足は、シグナの右手と同じように元に戻った。
そんな光景に、その場にいた全員はボーッとするしかなかった。
「星の力二つにとって、人の一部なんて些細なものだ」
「は?あんたまさか……」
リンが"星の力二つ"に反応する。
シグナはジェネシスを八つ、一同の頭上に出現させた。
「アルカナとゼノヴィス……混沌と秩序は、こうして調和されてひとつとなった。今、世界は無へ帰ろうとしている。俺はこれから、世界を無へ返そうとする不純を無へ返す。そして、ルミナシアとジルディアを調和して、二つの世界に生きる全ての命を救うんだ」
その姿は、宛ら創世神ではないか。
そんなシグナはジェネシスを再び手中に戻すと、ゼルフを振り返った。
「お前も、もう無駄な争いはやめるんだ」
そんなシグナの言葉に、ゼルフは無理矢理に立ち上がる。
かと思えば、神気を衝撃波にした魔法を唱えて彼に放った。
シグナは呪文を唱えることもせず、目の前に魔法障壁を作り出す。
それは何の抵抗もなく、ゼルフの放ったその魔法を無力化する。
その刹那の動作の間に、ゼルフは得物を片手にシグナに踊りかかった。
だが———
———ガギィン!
一瞬響いた、非常に耳障りな金属音。
シグナはゼルフの攻撃をエクスカリバーで止めていた。
「お前がエレナにどんな感情を抱いているのか知らんが、最初から素直にその敵意を引っ込めておけば、彼女も認めてくれるんじゃなかったのか?リリーに非難されることも、妹との関係で苦しむ今の姿のリンもなかったんじゃないのか?」
ゼルフは、そんなひどく冷静なシグナが気にくわなかった。
だが彼はやがて得物を引き、何かを吐き出すように一つ一つ言葉を紡ぎ始めた。
「俺は……一時の感情を抑えきれずに、エレナの足を切り落としてしまった」
その場には沈黙が流れ始める。
「それは取り返しがつかない。俺にも、お前のように身体の一部を再生してやれる力があったとしても。もしそれでエレナの足が元に戻ったとしても、彼女が俺を許してくれるはずないって、思ってた」
「ゼルフ……」
血の気を失ったエレナの両手が胸の前で組まれる。
「リリーに非難され始めたときはもう遅いと気づいて、そしたらもう、いっその事自棄になろうと盗みを始めた」
リリーの怒ったような表情が曇る。
「結果人殺しも多々あったはずが、リンだけが味方にいてくれた。妹との関係で悩むと分かっていながら……そうだろ?」
ゼルフの面(おもて)が上がる。
その目つきは今までと変わっていないが、どこか弱くなったような感じが醸し出されている。
リンは溜息をつき、腕を組んだまま気が強そうな、それでいてどこか切なそうな目をゼルフに向けた。
「これでも、ゼルフのこと好きだったのよ。だから味方についた」
「やはりな」
ゼルフの面が再び下がる。
「俺は……俺は!!」
そして彼はやがて、自責の念が募り自刃に走ろうとした。
その漆黒の剣が、彼の自分の腹に突きたてられる。
リリーたちが一瞬慌てたが、ゼルフの腹にできた魔方陣が彼の剣を防いでいた。
シグナが作り出した魔方陣である。
「馬鹿野郎、本当に自分が悪いと思うのなら生きて償え!くたばっていいのは、今までお前がしてきたことの重さが骨身に沁みるように分かった後だ。だからこんなところで死んで逃げようとするんじゃねぇ」
シグナが放ったその言葉一つ一つが、ゼルフに深く突き刺さる。
「俺には時間がないからもう行くが……精々ゼルフが死なないように、よーく見張っておけ」
シグナはそれだけ言い残し、その場から去ってゆく。
その後のその場には、ゼルフの傷を癒すリリー、彼を優しく抱きしめるリン、私もあの時は言いすぎたと反省しているエレナ、何年ぶりかに穏やかな笑みを浮かべる彼の姿があった———