複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護【お知らせ更新!】 ( No.133 )
日時: 2014/02/15 20:47
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

 アナスターシャとクレファバースは、真っ直ぐな瞳でシグナを見つめている。

「うおっ!」

 そして突然、爆発魔法を放ってきた。
シグナは咄嗟に横へ飛び、何とかそれを回避する。

「早く私達を倒さないと、貴方が死にますよ?」
「ボクたちは無を司る不純。本当は争いたくないんだけど、本能でシグナを襲っちゃう!」
「だから、はやく……私達が貴方を殺してしまう前に」

 戦意のないものと戦うのは非常に不本意である。
だが、やらないわけにはいかない。アナスターシャたちが敵として現れそうなことは覚悟していたのだから。
シグナはエクスカリバーを抜いた。その刃は今までにない輝きを放っている。

「ごめん、二人とも。いくぞ!」

 今シグナは、無を無へと帰すという最大の無茶をやってのけようとしていた。


  + + + +


 重力法則が捻じ曲がっているこの空間で、彼は重力の魔法を使うことが出来ない。

「くそっ!」
「シグナさん、はやく……!」

 ましてや相手に戦意がないのでやりづらいったらない。
それでもシグナは何とか善戦した。相手を傷つけるのではなく、相手を披露させるという形で。
四方八方から迫る爆発魔法を避け、秩序と混沌の魔法をジェネシスの力で相殺。
それ以外の魔法はエクスカリバーで切断した。現在のエクスカリバーは空気以外全てを斬ることができる。

「はぁ、はぁ……」

 そうして、アナスターシャとクレファバースは魔力の枯渇で倒れた。
シグナも極度の疲労でそのばに片膝をつく。仲間を連れてこなかったのは正解だったかもしれない。

 やがてシグナは立ち上がると、刻印の力を最大限に引き出した。
その光は宇宙のように暗いこの空間を、一瞬で真っ白な天国のような世界へと変貌させる。
今までの様子が嘘のように。

「シグナさん、ありがとうございました。……そしてさようなら……」
「僕たち、出会わないほうが良かったのかもね」

 もの寂しげにそう呟く二人。
そんな倒れている二人の言葉に対し、シグナは首を横にふった。

「出会えてよかったんだよ。俺たちは出会えたんだから、安心して世界の調和に望める」

 彼は倒れた二人に歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべた。

「調和された世界で会おう。俺は全ての命を救うんだ。それまで暫くのお別れ。それだけだ。だから……」

 シグナの両手の光が強くなる。

「さよならなんて言うなよな」

 その強くなった光が、アナスターシャとクレファバースを飲み込む。
無へと返される前のその二人の目からは、大粒の涙が溢れていた———


  + + + +


 タルタロスは、ルミナシアとジルディアを繋ぐ通り道のようなもの。
なのでルミナシアとジルディアが調和された今、この迷宮は無用の長物となった。
タルタロスからはシグナ以外の人物が追い出され、入り口であった魔方陣が消える。
一方でシグナは零の世界にて、ジェネシスが描く光の螺旋を見つめていた。
世界中のあらゆる情報が書き込まれ、書き換えられて消されてゆく。
いつしか世界は、ルミナシアともジルディアとも取れない全く違った世界に変わる。

 永遠と続く白い空間の中、シグナは調停者として、世界再創世の神として、世界の様子を此処で見守っていた。

 その表情はとても穏やかで、全人類が望んだ平和だけの星が誕生したことを歓喜していた———