複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.85 )
- 日時: 2014/01/25 21:16
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「……」
「……」
「……」
「……」
光る床の続く一本道を進む一行。彼らの間に現在、会話は無かった。
それどころか声を発しようという気すらも起きておらず、聞こえてくる音と言えば小鳥の囀りと風の吹く音だけである。
「……」
高所恐怖症でなくとも、その光る床が存在する高度はかなり高い。
アルバーン辺りが「高い」だの「怖い」だの言い出すかと思いきや、誰も一切そんな事は思っていなかった。
シグナから発せられる刻印の魔力のお陰で、気圧、酸素の程度は調節されている。
もしかしたらその所為で、自分たちが今高所にいるということに気付いていないのかもしれない。
「……」
だが、彼らの間に会話が無い理由。それだけではなかったようだ。
何かに耐え切れなくなった様子のシグナが突然、吐き捨てるように怒鳴った。
「……長いっ!!」
その怒声が、イノセント遺跡付近の山々から木霊する。
そう、この光の床。実は先ほどから終点が見えないのだ。
「そうですね。僕も少しうんざりしてきました」
「はぁ、長いなぁ〜。ボクもう歩くの辛くなってきたよ……」
珍しく星野が愚痴を零す中、アルバーンは膝から崩れるように座り込んでしまった。
放ってはおけない。その考えが脳裏を過ぎったらしいシグナは、アルバーンの前で背を向けてしゃがむ。
「ほら、負ぶってやるよ」
「…………っ!」
+ + + +
「んで、本当に終点が見えないんだが。どうしようか」
「テレポートは使わないのですか?」
星野が問いたくなるのも最もだ。シグナはテレポートという、とっても便利な能力を持っている。
だが———
「知らねぇ場所にテレポートできるほど万能じゃないからな……」
苦い顔で答えるシグナ。
シグナのテレポートは、世界樹、あるいはシグナ本人の記憶を元に実行される。
世界樹とコンタクトが取れない今、全く知らない場所へのテレポートは不可能だった。
「そうですか」
「あぁ、すまん」
星野は少し残念そうに肩を竦め、同時にクレファバースも視線を下へと落とした。
少し申し訳ない気持ちになりながらも、シグナは背中のアルバーンを落とさないように気をつけながら歩みを進める。
因みにアルバーンは、シグナの背中で淡く頬を染めている。同時に、鼓動も若干速くなっていた。
だがそれは周囲は愚か、シグナも気付く様子は無い。それが彼女にとって幸か不幸かは、また別の話なのだろう。