複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.88 )
日時: 2014/01/26 15:52
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

 周囲は驚くほど静かだった。
 遺跡の庭園には花や草が生い茂っており、近くを水が流れている。遺跡内を循環しているのだろうか。
 実質聞こえてくる音は先ほどと似たような感じで、その水の流れる音と風の音だけが響いている。

 時折一行の目の前に現れる彫刻や絵。それらも何も物語ることなく、ただひっそりと佇んでいる。
 そんないくつかの要素が、この美しい遺跡に不気味ささえ感じる。

 そして魔物が一切いないのも、また不気味さを感じる要因の一つだった。
 下界には魔物など、鬱陶しいとさえ思えるほど存在する。それこそ掃いて捨てるほどいる。ここがかなりの上空なので魔物がいたら逆におかしいのだろうが、何故か納得できない一行だった。

「見つけた」

 そんな静寂が暫く続いた後、声を発したのはシグナ。
 石碑を見つけたようだ。

 ———秩序とは、この世界ルミナシアそのもの。
 アルカナによる加護を得た世界樹をなくして、その存続は不可能な非常に脆いもの。
 混沌とは、ルミナシアの平行世界———異次元の同一点上に存在する世界『ジルディア』
 秩序とは決して相容れない、正反対の世界。
 無とは、秩序と混沌が相打ちとなった仮定の慣れ果て。
 事を大きく見るのならば、この宇宙は異次元の宇宙と同じ場所に同じものが存在する。
 この宇宙を秩序、あの宇宙を混沌。我々はそう称す。

 二つ目の石碑に書かれていることはこんなことだった。
 まだ謎は深まるばかり。シグナたちは、さらに奥へと進んでゆく。

 ———この宇宙に浮かぶ小さな星。あの宇宙に浮かぶ、同じ位置にある同じ星。
 それらは互いに蝕みあい、互いが消滅し無へと帰す。これは全次元にて抗うことの出来ない、絶対の摂理。
 秩序が手を加えれば、秩序が残る。混沌が手を加えれば、混沌が残る。何もなければ、無へと帰す。
 世界は秩序と混沌で重なり、いずれ消滅する。我々はこれを、世界同一化現象と称す。

 三つ目の石碑に書かれていることはこんなことだった。
 何かを掴んだような顔をしたシグナだが、念には念を入れてさらに奥へ、新たな石碑を探して進んでゆく。
 そうして探し出した四つ目の石碑にて———

 ———秩序の手段はアルカナに。混沌の手段はゼノヴィスに。
 互いが手段を尽くして生き残りをかけるとき、無という理は、その身に混沌と秩序を宿す二つの命を産み落とす。

(二つの命……もしや、ターシャとクレスの事か?)

 シグナはその文を読んだとき、眉根を寄せ、記憶を辿り始めた。そうしてたどり着いた、一つの問いと答え。

(俺がアルカナを手にした人型有人兵器と対峙した時、ターシャは何と言って何をした?)

 秩序という言葉を漏らし、自分をアルカナを越える何か———仮定として秩序———で自分を守護した。ならば少なくとも彼女は、この世界に産み落とされた二つの命のうちのひとつと言ってもおかしくはないはずだ。
 だが、そうした場合クレスはどうだ。仮定とするならば、彼は混沌をその身に宿す。
 ならばあの宇宙とやらに産み落とされるのが道理ではないのか。

 謎は深まった。

「シグナ?」
「あぁ、いや」

 心配そうに顔を覗きこんできたアルバーン。
 シグナは何とか平静を保てたが、内心では動揺しかけている。


  + + + +


 シグナは一度、得た情報を整理してみることに。

 まずこの世界『ルミナシア』が存在するこの宇宙は、秩序と呼ばれている。
 そして異次元の同一空間上に存在するあの宇宙は、混沌と呼ばれている。
 そしてルミナシアは、混沌———あの宇宙に浮かぶ星『ジルディア』と重なっている。

 混沌と秩序は決して相容れない存在であり、それらは互いに世界を侵食しようとする。
 そして侵食しあった挙句には、世界同一化現象と呼ばれる現象により無へと帰す。
 無に存在する理こそが、真の意味での絶対の摂理。まるで国に存在する憲法のように。

 そして仮定でも、この世界ルミナシアはあの世界ジルディアと侵食競走を始めている。
 証左に、秩序と混沌を宿したアナスターシャとクレファバースがこの世界に存在している。混沌を宿しているはずのクレファバースが何故こっちにいるのか、それはまだ謎だが。

 この世界には対抗手段となるアルカナが存在しない。先にあの世界に攻められたとでも言うのだろうか。
 ならばこの世界はやがて、混沌に負けることになる。

(だからか。世界樹が俺にアルカナを探させようとしたのは……)

 シグナはようやく、得た情報を理解することが出来た。

(さっさとアルカナを探さないと)

 とりあえず、そんな思考を抱く程度には。