複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.89 )
- 日時: 2014/01/26 17:20
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「……で、私を差し置いて天空遺跡まで行ったの?」
「あぁ、す、すまない———ぐはっ!」
「何がすまない、よ!私に手伝って欲しいなんて、恰好つけたこと言っといて!」
時間ももう夕方だったので、早めに切り上げた一行は寮に戻って来ていた。
その後星野と別れを告げたシグナはアルバーン、クレファバースと共に寮へと入っていったのだが、現在こうして完全に目を覚ましたらしいマルタに腹を殴られている。
「その、助けてくれたことは嬉しかったよ。ティアちゃんもターシャちゃんも無事に済んだんだし……」
マルタがシグナの腹に拳骨を一発入れた理由。曰く、心配だった、である。
「お、俺はもう餓鬼じゃねぇ!んな危ないことに自ら進んで首を突っ込もうなんてこと———」
「———前あったでしょ!?」
「ぐはっ!」
「今回だって、天空遺跡がどんな所かも知らないで!」
抗議するシグナの発言を遮ったマルタ。同時にもう一発、彼の腹に拳骨が入った。
見た目とは裏腹に、その拳骨の威力は中々強力。つくづく女性は侮れないと、シグナは改めて痛感するのであった。
因みにマルタの言うその、前回危ないことに自ら進んで首を突っ込もうとしたこと。それは、シグナが人型有人兵器相手にアルカナの力を使用したことである。
アルカナは神格化され世界樹とともに崇められている存在なので、その力の膨大さと言えば小学生でも知っている。
「ねぇお願い。私の知らないところで、もう変な事に関わらないで」
お前は俺の保護者か。マルタの心情など欠片も察することのないシグナは、心の中で珍しく本気になって突っ込んだ。
何故口に出さなかったのか、答えは至極単純。
襟元を掴まれた状態では拳骨の回避は出来ないので、なるべく次は避けたいと思ったからである。
だが事此処に至り、シグナは一つの疑問を感じていた。
「はぁ……なんでお前はそこまで俺に拘るんだよ」
他人の気持ちを察することの出来ない朴念仁ならではの愚問。
「一々鬱陶しいっつーの。そんなに心配性だったなら元から関わらなきゃよかったな」
「っ!」
そしてそんな朴念仁ならではの気の持ちようで、マルタは言葉を失った。
「じゃあな。もう俺の前に来るんじゃねぇよ」
シグナは自分の部屋を目的地に、さっさと去ってゆく。
その当時その場に誰もいなかったのは、まるでシグナを優位に立たせているかのようだった。
+ + + +
「……ひどいよ、シグナ……」
その後一人、マルタは寮の裏手で泣いていた。
何故こんなにもシグナに関して心配性になってしまうのか。
それは自分の中でも、明確な答えは見出せていない。
「でも、でも……あんな言い方って……」
彼の性格を考えれば仕方がないことなのかもしれない。
面倒くさがるお人よし。それは裏を読めば、面倒くさがりという根本的な人格がある。
それでも、あのような言い草を言われる必要性はあっただろうか。
「あっ……」
そこまで考えたマルタの脳裏に、一つの考えが過ぎった。
(もしかして……)
シグナは、自分に関して最初から無関心だったのではないだろうか。
だからこそ、あのような言い方が出来たのではないのだろうか。
(……)
どこまでも朴念仁。いや、もしかしたらただの分からず屋なのかもしれない。
どっちにせよ、酷な人物であるのに違いはない。特に自分に関しては。
それでも、彼女の内に秘められた好意は消えることがない。
「シグナ……」
いっそ嫌いになろうと思ったマルタ。だが、彼への———シグナへの想いは消えることはない。
嫌われたくない。そんな本能が彼女の全てを支配しているのだから。
ぽつりぽつりと一粒ずつ、涙がその頬を濡らす。
マルタの内の、刻印の輝きが増す。
一つの見知らぬ影が、マルタに近寄る。