複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.90 )
- 日時: 2014/01/26 18:36
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「マルタは見つかったか!?」
「いや、こっちにはいなかった!」
翌朝、マルタが行方不明になったことで事件になっていた。
シグナはそれを知るや否や、慌てて寮から飛び出て行ったという。
現在ディを中心に、学園中の人がマルタを探している。授業は中止らしい。
(くそっ、俺があんなことを言わなければ!)
そんなてんてこ舞いの学園を尻目に、シグナは『ワールドツリーフォート』に来ていた。
経緯を言うなれば、彼はマルタの刻印の気配を辿ったという。
マルタ本人はまだ刻印の存在に気付いていなかったようだが、シグナは一度、その目でしかとそれを目撃している。
ワールドツリーフォートに来れたのはそのためだ。
(?)
探し回った挙句に息を切らせかけた頃、シグナの目に不思議な穴が現れた。
地面にポッカリ空くそれは、階段を伴って下へと続いている。
(!)
この先にマルタがいる。刻印がそう告げた。
シグナは迷うことなく、その階段を高速で駆け下りる。
+ + + +
「うわっ……」
階段の終点まで来たとき、シグナは思わずそう漏らした。
目に映った最初の光景は、これでもかという量の墓石。
そして周囲を明るく照らし出す、青白く燃える炎。
そこは、地下墓所(カタコンベ)だった。
慎重に、それでいて素早く歩みを進める。ただ只管奥へ、マルタを探して。
+ + + +
「うぅっ!ぁあ……!」
十字架に貼り付けられたマルタ。彼女の目の前には、二人の男が立っている。
一人は右手から強力な魔力を放ちマルタを苦しめ、一人は鞭を以ってマルタを傷つけている。
「さっさと吐け。アルカナは何処だ?」
「し、知らない———うあぁ!」
「おい、殺すなよ目黒」
鞭でマルタを痛めつけていたのは、目黒怨だった。
そして魔力で痛めつけているのが———
「葬送丸、俺は殺し屋だ」
「まて、せめてコイツからアルカナの情報を聞き出すぞ」
「た、助けて……シグナ……」
+ + + +
「マルタ!……っ!?」
シグナはカタコンベの最深部にたどり着くなり、絶句した。
「ようシグナ、久し振りだな。この子がずっとお前の名前呼んでて、イライラしてたところだ」
からからと笑う葬送丸。シグナはマルタと目黒、葬送丸を交互に見て目をぱちくりさせている。
「ははっ、状況が飲み込めないか。なら、これならどうだ?」
「———っ!」
突如、シグナは吹き飛ばされた。岩に激突し、肋骨が何本か折れる。
余りの突然の出来事に、シグナは声を発することさえ出来なかった。
「シ……グナ……」
とても小さな声で心配するマルタ。
その瞬間シグナは自分の中の何かが、ブチッ、と切れたのを感じた。
「ははっ、よぉーく状況が理解できたぜ……」
よろよろと立ち上がるシグナは、黙ってエクスカリバーを抜刀する。
その刀身は、純白の輝きを発していた。どんな暗闇の中でも光るかのように、その場を明るく照らし出している。
そしてシグナの体からは、マルタの見覚えのある赤いオーラが発せられる。
「シグナ……!ダメ……」
「黙ってろ」
「っ!」
最早声を発することも難しくなったマルタに、目黒は無慈悲に鞭を振るう。
その光景を見たシグナ。瞬間、心臓が一つ大きくはねた。
ユグドラシル遺跡の時よりも、跳ね方は大きい。同時に、オーラはこれ以上ないほどに強力に放たれる。
「コロス」
そう、一つ呟いて。
「お前達にも、その苦しみを分かち合わせてやるよ」
シグナは右手を、黙って目黒と葬送丸に翳した。
一体何をしているんだ。首を傾げた二人。
刹那———
「っ!!」
「っ!?」
ゆっくり振られた剣から襲い来る大量の鎌鼬。それらが葬送丸たちの体を切り刻んだ。
その激痛に二人は片膝をつき、意識を落としかけたが、それは叶わなかった。
「意識があれば、痛みを感じていれる。そうだろう?」
これはシグナの算段だった。
刻印の力によって相手の意識を活性化させることで、痛みによって相手を苦しめるというもの。
シグナはやがて、あふれ出る力を無理矢理封印した。
「全く、こっちが心配性になるだろうが」
マルタへ歩み寄ったシグナは、彼女を拘束から解放した。
残ったアルカナの加護が、マルタの傷を一瞬で癒す。
+ + + +
「一応お礼言う。ありがとう……でも、昨日あんな言い方したシグナを許す気はないから」
その後二人は突然すぎる出来事に驚きつつ、何とかカタコンベから脱出。
そして、マルタはシグナの腕の中で泣いていた。
昨日の言い草を許さない。そういいながら。
「許してもらえないって分かってる。許してくれなくていいぜ?俺が悪いわけだし」
「えっ」
だが返ってきた返事は、この上なく予想外だった。
まるで今まで自分が考えてきたことが全て否定されるような。
「その代わり、俺の質問に答えてくれるか?」
「あ、うん」
二言目も予想外。とりあえず、質問の許可を出す。
「何で、お前はそこまで俺に拘る?」
「えっ」
シグナの真っ直ぐな瞳が、マルタの瞳を貫く。
質問内容も予想外だったが、彼女の中では明確な答えが出ていた。一夜考えればたどり着けた、とても単純な答えが。
だから、マルタは自信を持って答えた。長い沈黙の後に。
「ずっと、シグナの事好きだったからねっ」