複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.92 )
日時: 2014/01/31 16:03
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

「……おい、葬送丸」
「……何だ」

 酷く冷ややかな声が、カタコンベの最深部である巨大な空間で響く。
 未だ片膝を屈したままの目黒と葬送丸の声だった。その体にはまだ、シグナの手によってつけられた傷が残っている。

「お前の言っていたゼノヴィスとやら……果たしてこの状態、ちゃんと機能できているのか?」
「……ははっ、面目ねぇ」

 ふらふらと立ち上がった葬送丸は、あまりの情けなさに自嘲しながら手放してしまった鎌を拾う。
 目黒もほぼ同時刻に立ち上がった。同じくふらついた状態ではあるが。

「アルカナの力……ちょいとばかし甘く見ていたようだ。所詮はゼノヴィスと同じだけの力のはず」

 葬送丸は傷だらけの両手を見る。闇の刻印を浮かべたが、両手を握り締めて潰すように消した。
 目黒の目に映ったその拳の震え方は、どこか憎悪と悔しさが滲んでいるようにも見える。

「なのに何故?こちら側にいる所為か?くそっ、混沌の気配が一つシグナに近いし、どうなってやがるんだ?」
「落ち着きなよ、シグナ」

 ふと聞こえた、若い青年の声。それは目黒のものではない。
 声のしたほうを振り向いた二人が見たのは、いつもとちょっと違う目つきをした黎明だった。

「お互いはお互いの正義に従って戦ってる。最も、シグナの場合は分からないけどね」
「恨めしい……」

 ボソッと怨嗟の声を発したのは目黒だ。
 それを聞いた葬送丸が、まあまあと苦笑しながら落ち着くように諭す。
 黎明も、目黒の右手にロケットランチャーが握られたのを見て、少し困ったような笑みを浮かべるのだった。
 暴走した目黒ほど手のかかる犬はいない。それは葬送丸が一番わかっていたのだから。

「とにかく、僕らには時間が必要だ。ゼルフ辺りが時間稼ぎしてくれると思うけど、それでも足りない」
「分かってる」

 黎明の言葉を遮った葬送丸。
 彼が肩に担いだ鎌を握る右手が、僅かに震えだした。

「俺の覚醒率は今、ヤツと同等だ。それくらい、周知の事実だっつーの」