複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.94 )
- 日時: 2014/02/02 18:47
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「……」
「シグナ?」
唐突にマルタの口から発された言葉は、シグナの"考える"という神経を一時的に麻痺させた。
何を言っているんだコイツは。という思いの後、マルタに再び呼びかけられるまで脳内がぐちゃぐちゃになっていた。
「あ、あぁ」
ピクッと体を震わせて反応するシグナ。
とりあえず、今脳裏に浮かんでいる質問をマルタにぶつけてみることに。
「いきなり何だ」
本当に何を言っているんだ。そう訴えているシグナの目を見たマルタは、にっこりと笑って彼の胸に顔をうずめる。
「幼馴染って、みんなこうなっちゃうんだよね。友達だってそうだし」
「?」
シグナが首を傾げる中、マルタはそれに気付かずに続けた。
「昔からお母さん同士の仲がいいご近所さん。幼かった私達も、必然と仲良しになったよね。それから片時も離れないで、頑張って同じ高校を受験して、合格して……そんなんで好意を抱かない方が無理だよ」
途端、シグナは脳裏に様々な映像が流れた。
全て過去の、マルタとの思い出である。
彼は暫く、マルタの語るような思い出話と共に、その映像を鮮明に思い出す———
+ + + + 視点:シグナ
「ねーねー、お山つくろう?」
「いいよ!スコップ持って来るね!」
あれは何時の頃だったか。確か幼稚園の頃、マルタと始めて遊んだときだったか。
懐かしいな。砂場で山を作っては地下通のようなトンネルを掘り、そこに水を入れて泥団子を作る。
一生懸命磨いて、友達と競ったこともあったな。あの時は、マルタのが一番上手だったっけか。
「ね、ここ分かる?」
「うーんとね……2×3だから2+2+2って考えればいいんだヨ」
小学校の時分、マルタが俺に掛け算の事について聞いてきたときだったか。
「うるせぇ、お前も悪いんだろうが」
「むー、シグナも失敗しかけたじゃん!」
小学校の野外学習で、カレー作りをしくじってマルタと喧嘩したときか。
「あ、あっち!あれだよ!」
「ふぅっ、やっとついたか」
修学旅行で班とはぐれ、指定された迷ったときの集合場所へ行くのに苦労したときか。
「同じクラスだね。よろしくね!」
「あぁ」
中学に進学して、一年の頃に同じクラスになれたときか。
「ふぅ〜、あっついねー」
「……」
「だ、大丈夫!?」
真夏の部活動で俺が熱中症になったときか。
「えいっ!」
「いきなり何すんだよ!」
友達数人連れてやってきた海で、マルタにいきなり海水をかけられたときか。
「はい、これ。義理だけど我慢してね〜」
「サンキュ」
バレンタインで、義理チョコをもらったときか。
「わ〜、すごい!これシグナがつくったの?」
「ま、まあな」
で、ホワイトデーにそのお返しをしたときか。
あの時は手作りのクッキーを渡したが、何時から俺は料理が得意になったんだろうか。
まあ、気にしない。
「え〜っと、背骨のあるのが脊椎動物で、無いのが無脊椎動物で……」
三年になって受験を意識し始め、一緒に勉強を始めたときか。
「合格したよ!」
「よかったな」
んで、必死こいたマルタと共に流星学園に受かったときか。
確か、あの時はじめて俺に抱きついてきたな。
+ + + +
よくも覚えてるものだ。回想が終わったときのシグナの第一感想だった。
「何で覚えてるんだ?って顔だね」
気付けば、マルタが涙目でシグナを見上げていた。
頷くシグナ。マルタはそれに「やっぱり」と言いながら、シグナの背中に回した腕の力を強くする。
少し苦しくなったシグナ。だが、振り払うようなことはしなかった。
「最初に出会った頃から、多分君に惹かれてたんだと思う。覚えてないかもだけど、小さい頃さ……冗談半分で結婚しようって話したんだよ。あれ、実は本気だったのかもって思う。シグナと一緒にいられた時間は、本当に幸せだったから」
「……すまねぇ。お前の気持ちにも気付けないで、昨日あんなこと言って……」
そこまで聞かされたシグナは、ちょっとした沈黙の後に無意識のうちにそう言っていた。
居た堪れなくなってしまった彼は、マルタをきつく抱き返す。
「……もう怒ってないよ」
+ + + +
「……」
そんな彼らの光景を遠目で見ていた人物がいた。
よく此処"ワールドツリーフォート"に来ている『シュラー・クルファ』だ。
「貴方も人が悪い」
そんな彼の元へ、風の魔法で飛んできたティアがやってくる。
「どういうことだ」
「盗み聞きなんて、よくないよ」
「たまたまだ。僕はたまたま近くにいただけだ」
「ふうん。そう」
(信じてないな、コイツ)