複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.97 )
- 日時: 2014/02/08 18:46
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「何事ですか!?」
マルタの行方不明事件が落ち着いて二日後、ディ・トゥールスは慌てた様子で調理室へやってきた。
そうして景気よくバタンと扉を開けるや否や、目に飛び込んできた光景に絶句することとなる。
「あ、あはは……」
消火器を持ち、それをコンロへ噴射しているシグナ。
その消火活動を手伝っているリリー。
怯えた様子でシグナに抱きついている、男装していないアルバーン。
ディの訪問に気付いて苦笑するマルタ。
床に倒れ伏したまま動かない飛沫。
ケラケラと笑っているフェル・ターナー。
非常事態だというのにクールなままのリュイ・ローウェル。
それと対照的に顔を顰めているカイザー=ブレッド。
以上八名が、ディの目に映った。
そして、リリーとシグナが消火作業している当のコンロからは、何故か緑色の炎が舞っている。
飛沫に至っては泡を吹き、白目をむいたままでうつ伏せに倒れている。
ディは頭を抱えた。
「ふぅ、料理にでも失敗したのですか」
「それ以外、考えられません」
渋面のカイザーが重々しく口を開く。
「しかし、何故失敗したのですか?ここには料理のスペシャリストが多いでしょう」
確かにこの場には、料理の達者が数多くいる。
なんでもシェフ並に作り上げてしまうシグナをはじめ、お菓子作りのプロであるマルタ。
その名"ブレッド"の通り、パン作りに長けるカイザー。一応嗜む程度には出来る飛沫。
リリーも決して出来ないわけでもないし、リュイも何かと料理に詳しい。
因みにアルバーンは、シグナに負けない料理の腕前を持つ。
「むっ、それは……」
今度はリュイが重々しく口を開いた。
と同時に、倒れている飛沫以外の目線がフェルに向けられる。
まさに、料理下手にも程があると言わんばかりの真っ白な目線で。
彼らに何が起きたのか。それは謎の爆発音が響く、ほんの数秒前の事である。
+ + + +
それは、本当に些細な切欠だった。
たまたま知ってる面子が揃っていたので、料理対決でもしようか、というリュイの案だ。
だがこの時の一同は、このような惨事に至るとは思いもよっていなかったのだった。
「あ、おいしそうに出来てるねカイザー」
「うむ。これでもパン作りには自信があるほうだからな」
色や形様々なクッキーがのった皿を持ったマルタが、カイザーの焼きたてのパンに目を奪われる。
「すげぇ、テールスープだ……」
「シグナも、鱶鰭なんて凄いの作ってるじゃん!」
鱶鰭を机に置いたシグナが、簡素なテールスープを作ったアルバーンと会話を弾ませる。
ああいう会話に入れるようになりたい。野菜炒めの出来たリリーがそう思っている。
「馬鹿者、近付くな!」
「な、何でよ!」
出来上がったカレーと煮物そっちのけで、飛沫とリュイが争っている。
そうして皆が料理を作り始め、作り終わる、あるいは完成間近ばかりとなったころであった。
「おーい、フェル?」
一人浮いていたフェルが、なにやら怪しげな雰囲気を漂わせて鍋と相対している。
心なしかその湯気は、うっすらとだが紫や青、緑に染まっている。
「うわ!?何ですかこの現代アートは!?」
そっと鍋の中を覗いた飛沫が顔を真っ青にする。
釣られて、飛沫に続いて鍋を覗いてみたシグナも顔を顰めた。
その中身は宛ら、魔女が作る魔法の鍋であった。そして何故か、周囲の魔力が全て鍋の中へ引き込まれている。
「よーし、こいつを入れれば完成だーー!」
楽しそうに笑うフェルは、食材とも調味料とも言い難い何かを鍋に投入。
した瞬間、鍋の中にいままで引き込まれていた魔力が膨張。そして強く白い光を放った。
「飛沫避けろ!!」
危機を刻印で察知したシグナは、自分も後ろへ飛びながら飛沫にそう警告。
したのだが、飛沫は「えっ?えっ?」と目線と両手を彷徨わせるだけでその場から動かない。
刹那、飛沫はその光に飲み込まれ———
+ + + +
「……なるほど、そういうことでしたか」
シグナから説明を受けていたディは、またしても溜息をついて頭を抱えたのだった。