複雑・ファジー小説
- Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.1 )
- 日時: 2014/01/01 23:07
- 名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: aAxL6dTk)
まるで笛の音のような。
それはフルートによるハイトーンの音色によく似ていた。
細く、緩く、たゆたう不透明な音色。正体は判然としない。隙間風か、刃が切る音か、誰かの喉笛か、本当に楽隊でも近くに居るのか。冷たい音色が不規則に頬をなぜる。繰返し繰返し、ゆるゆると緩慢に、けれど不確かな冷気を伴って。音に質量も温度も有る筈がない。これは本当に音なのか。真偽を確かめる術はなかった。彼はすでに全てを切り捨ててしまったから。
頭をもたげる意志すらもはや無い。黙視できない外郭に包まれた彼は、血の通わぬ手足を人形のように整えただ横たわっている。実際のところ、考えも感じもせず生きているだけのそれは、人形と相違無いのだ。
始まりを期しない。終わりも乞わない。ただ続く。ひたすら続く。ぬるま湯のような時の中、果てなく無意味を紡ぎ続ける。時間がすり減り、肉が露出し、骨が灰塵と化そうとも。何一つ変わらないのだ。何一つ進まないのだ。
何一つ、元には戻らないのだ。
静寂。それすらも認識することを許さない。許されない。そこには全てがあるのに、その一片にすら触れることはできなかった。美しき凍結のモニュメントも、観劇者が居ないのならば価値はない。
高く澄んだ音色はどれだけ澄んでいても、その透明なガラス細工に罅を入れてしまう。招かれざる侵入者。単なる異物だ。何一つ壊していないくせに、その空間がバラバラに砕けてしまう。
バラバラに。散らばる、散らかる。
音もなく宙へ浮かび上がった韻律は、だから規格も位置もチグハグだった。そもそも読む者が居ない。必要とする者も困る者も。
『——Alice,』
溶けていく。全ての韻律は溶けていく。
形成された側から文字は銀色の靄となり、空気に溶けて消えてしまう。まるでその存在を、この空間が許していないように。浮かび上がった側から側から、掻き消され、ひび割れ、空気に溶けていく。
『Alice?』
意思の形が溶ける。誰にも看取られることなく。
『Alice!』
銀の色彩が溶ける。その耀きを虚空へ投げ捨て。
『Alice...get up soon.Alice?』
明滅する文字。そして、壊れて。
『——、アリス』
銀糸が躍り狂う。ほどける事も絡み合うことも無く。
『ねぇ……アリス。早くおいで』
音もなく確固たる形もなく。しかしただ言葉の質量だけが溜まっていく。しっとりと空気をたわませる、清廉なる吐露。
『おいで、アリス。此方へ。君の居場所はないけれど、さ』
滴る笑みを蟠る銀の字に託して、さぁ。誰も望まぬ始まりを。
『——最高のゲームを、提供しよう』
誰にも止められぬ終わりと共に————
Long time no see. Having hope to see again,
We are glad from the bottom of my heart____
Welcome to the Unknown World!