複雑・ファジー小説

Re: 【短編集】移ろう花は、徒然に。【紫陽花の陰】 ( No.15 )
日時: 2014/07/12 19:36
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: 5T4lUgOl)

【怖がりな彼女】

 遠い昔、小さな少女は夢を見ていました。
 いつか私は、大きくなったら幸せな人生を歩めるのだと。でもそれは、幻想にすぎなかったのです。
 少し大きくなった彼女は、自分が周りから嫌われていることに気がつきました。

「どうして?」

 みんなと同じように毎日を過ごしているはずなのに、なぜ自分だけ笑い者にされ、除け者にされたのか。
 いくら考えても、少女に答えは出せませんでした。
 風当たりはますます強くなり、とうとう少女の心に闇が生まれました。心はどんどん蝕まれ、彼女はついに、心を閉ざしたのです。
 暗闇の中、人を信じることを恐れた少女は恋をしました。でも、それもほんの束の間。

「生きられるんだから、今は死んじゃだめだよ」

 そう言い残して、初恋の相手は逝ってしまいました。
 また、少女は独りぼっち。彼女の心は引き裂かれて、傷だらけのまま成長し続けました。
 いつの間にか少女は、心から笑えなくなっていました。どんなに辛いときも、泣きそうなときも、笑顔が彼女を守ってくれたのです。
 笑ったら、友達ができました。でも、信頼することは絶対にできませんでした。
 思っていることは伝えられるわけもない。周りとの壁は、あまりにも厚すぎました。
 心を開く、という選択肢だけは、どうしても選ぶことができなかったのです。上辺だけの関係でも、誰かを失うことが、少女はとても怖かった。

「私のこと、好き? 私のことを、安心させられる?」

 こう聞いてしまえば、全てが崩れてしまいそうで、恐ろしかった。

「自分が、存在する理由が解らない」

 少女は、痛みと引き換えに存在意義を見出すようになりました。
 ズキズキする痛みと、流れ出る血液を見るたびに、心が落ち着く。口に広がる鉄錆の味と、緋の赤。
 少女が、生きていると感じられる唯一の時間でした。
 何年経っても、記憶は消えない。
 少女は自分を肯定してくれる人を、いつまでも探し続けます。

「どうして? 胸が痛いよ」

 いつまでも、叶うことのない夢だけを見続ける。彼女はそれを知っていても、どうしても、諦めることはできません。

「私を理解できる? 私が生きている意味を教えて」

 少女の声は、誰にも届くことなく、消えてしまいました。


*

Image Collar:柘榴色ざくろいろ

お題【xenophobia】