複雑・ファジー小説

Re: 【短編集】移ろう花は、徒然に。【第二部へ】 ( No.17 )
日時: 2016/08/19 10:02
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: jwhubU7D)

 そうね、綺麗でしょう?
 花は誰かに愛でられなければ、美しく咲くことができないの。

 ほら、いらっしゃい。

 生命の定義なんて、誰が決めたの?
 例え、あなたが「生きて」いないものでも、咲くことはできるでしょう。輝きたいなら貴方が水をやればいい。輝かせたいなら貴方が摘み取ればいい。

 花畑の奥深く、この霧の先までたどり着いた迷い人。何を求める——?

 迷える霧。いつしか暗闇となった世界の中。

 いつからだろう、あの場所が霧で覆われるようになったのは。
 美しい花々が咲いている花畑。私が生まれるずっと前は、家の二階から眺めると、色とりどりの絨毯が地平線まで見渡せたらしい。それが今や濃い霧に覆われて、花が咲いているのかも分からない。歩いて側まで近づいて、ようやく花畑が続いていることが悟れる程度だ。

 初めは朝もや。昼間は霞。夜は闇。日に日に影は濃くなり、人々が気がついたときは無くなった。手入れする人はいなくなったが、草木は育ち艶やかに花は咲き誇る。

「荒野の主が帰ってきた」
「あそこは魔女の庭だったのだろう」

 さぁ、欲深き罪人よ。迷える子羊よ。心に闇を抱えたものは惹き寄せられる。
 魔女の庭へ——いざ。