複雑・ファジー小説

Re: 【短編集】移ろう花は、徒然に。 ( No.32 )
日時: 2019/03/07 23:36
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: Ufl5elTc)

 辺りには、夜明けの音色が満ちていた。ひとつ、また一つと、微睡みの中からすうっと抜け出すものが現れ始めた。

——彼らは、なにを夢に見たのだろう。一晩経てば忘れてしまうものを、一晩過ごす間に忘れてしまうものを、儚いというらしい。極彩色の世界は、人魚姫の吐いたあぶくのように、ぽわっと弾けて消えてしまった。

 夜明けが過ぎさり、朝が訪れるまでは数時間。ほんの僅かな時だけれども、私はまだ夢を見ようと足掻いて、もがいている。
 けれども、気がついてしまった。
 窓から射し込む柔らかな光、カチャカチャと控えめに話す食器の音、ふつふつと煮える食事の匂い。

 目覚めは、ほんのすぐ先にあると。

 夢は醒める。永遠に続けばいいのにと願うほど、冷酷に。そして残酷に。
 だから、私は夢に綴る。さようなら、という言の葉を、忘れるために。


「おはよう」



*
 消えた夢は、またいつの日か見ることができるでしょう。夢の続きは、夢の中で。
 随分と幕を閉じるのが遅くなり、今更となってしまいましたが、
 お付き合い頂き、ありがとうございました。