複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.10 )
日時: 2016/07/09 18:42
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

「御名答。」

佐久間は軽く拍手を交えて白石へ賞賛の言葉を述べる。黒野は聞いた事のない武術に頭が混乱しているようだった。

「忍術は何となくわかるけどよぉ……ルチャ?タイドー?そりゃ一体なんだ?」
「そりゃ俺っちが説明したげるよ。先ずはルチャさ!」

その言葉を紡いだ後、菊丸は黒野の目の前で回転しながら跳躍すると、黒野の顔面目掛けて華麗なローリングソバット(跳び回し蹴り)を放つ。それを受け、大きく仰け反る黒野に対して菊丸は黒野に飛び掛り、ヘッドロックを決めると同時に後ろに倒れこむように体重をかけ、黒野の頭を地面に叩きつける。

「俺っちのDDTの味はどうだい?」
「イテテ……ピョンピョン飛び跳ねやがって。」
「それがルチャリブレ。アンタもプロレスは見たことあるだろ?その中でも初代タイガーマスクとかドラゴンキッドみたいな華麗な跳び技の使い手がいてね……それを想像すると解かりやすいぜ。空中殺法こそがルチャリブレの真髄さ。」
「飛んでばかりじゃすぐに土俵割っちまうぜ……おらぁ!」

菊丸目掛けて体当たりを繰り出す黒野だが、やはりそれも人間離れした跳躍力により、軽く回避されてしまう。

「次は躰道を教えてやるよ。アンタがさっき空手と勘違いしてたけど間違っては無いな。躰道は空手をベースにした武術だ。違うところというと……。」

聞いているのかいないのか、黒野は語り部口調の菊丸に対して投げ技を狙いに腰のベルトを狙う。対して菊丸は腕刀でそれを払いのけ、回転を利用して黒野の懐に潜り込み、鳩尾に拳を叩き込む。

「うぐっ!」
「てな感じにね……跳躍、捻りの動作、地上や空中での回転動作……まぁ、要するに前転や宙返り、バック転の動作を取り入れたのが躰道さ。」
「そりゃもう体操競技じゃねぇか!テメェ将棋や応援団よりも体操部入ったらどうなんだよ!」
「悪いけど、将棋や応援団の旗持ちの方が性にあってるんでね。お断り。」

鳩尾に拳を入れられ、怯む黒野は驚嘆と冗談を交えた言葉を菊丸に放つ。菊丸もまた冗談を交えた答えを放つと同時に黒野に近づき、正拳突きを放つ。黒野は菊丸の拳を掌で受け止め、そのまま腰のベルトを掴みにかかるが、菊丸は掴もうとした腕を蹴り上げ、さらに黒野の膝関節を足の裏で押した。人体の仕組みによって黒野は簡単に体勢を崩し、その隙を突いて菊丸は黒野の膝を踏み台にして黒野の顔面目掛けて膝蹴りを放つ。シャイニングウィザードだ。
その攻撃を喰らい、黒野はダウン。倒れた黒野に対し、菊丸は跳躍し、空中で一回転。そのままボディプレスを決めて黒野に追撃をかける。

「野郎!」

黒野はシャイニングウィザード、ムーンサルトプレスと2つの技を喰らいながらも立ち上がり、菊丸に突っ張りを繰り出す。だが菊丸はそれを自らの体を地面に倒すように回避し、黒野の顎目掛けて蹴りを喰らわせた。

「変体卍蹴り。」

顎に蹴りを喰らった黒野はまだ倒れることをしない。投げは無理と見てあくまで打撃で菊丸を仕留める魂胆であり、突っ張りを用いて菊丸を攻め立てる。黒野の豪腕から繰り出される突っ張りが一撃必殺の威力である事は菊丸も理解している。黒野の打撃戦には付き合わず、投げも封じて菊丸はペースを掌握していく。

「はっ!」

黒野の膝関節にローキックを叩き込み、立て続けにミドルキック、ハイキック、そしてローリングソバットを叩き込む。怯んだ黒野に向けて菊丸は跳躍。黒野に肩車される形で腰掛けた。

「さて、黒ちゃんよ。ここいらでフィニッシュとさせてもらうぜ!フィニッシュホールドを飾るのは……躰道とルチャの共通技であるこれだ!」

菊丸は肩車の体勢から向きを反転して黒野の頭を足ではさみ、バック転の要領で回転。黒野の頭部を地面に叩きつける。これこそが菊丸の必殺技。躰道で言う所の捻体首絡み、そしてルチャで言う所のフランケンシュタイナーである。

「駄目だ、今までのチンピラと格が違う……ダンナが負けるなんて……。」

白石は菊丸の強さに戦慄。黒野の負けを確信していた。そんな白石に対し、菊丸は倒れた黒野に背を向けて歩み寄っていく。

「あんたはどうする?ウチの大将、もとい番長に頼まれた以上、あんたも見過ごすわけには行かないけどさ。」
「そうかい……なら。」
「待ちな!!」

白石は菊丸を相手にする為、懐から特殊警棒を取り出して構えた。しかし、それは大声によって止められる。
声のするほうを見ると、黒野が立ち上がっていた。黒野の意識はまだまだはっきりしていたのである。

「しぶといねぇ。」
「これしきで沈むほど半端な稽古は積んでないんでね……!」

四股を踏み、顔をパシンと叩き、気合を入れ直して黒野は向かっていく。
何をするかと言うと、相手の腰布やベルトを取るわけでも飛ぶこともなく、ひたすらに突き押しを繰り出した。

「おっ?焼けになっちまったの?」

華麗な跳躍とフットワークで黒野から距離を離し、突きを回避する。しかし、黒野は前へ前へと突き進み、菊丸にプレッシャーをかけていく。
次第に追いつめられるように後退していく菊丸。その時、彼の背に何かが当たる。校舎の壁だ。

「やべっ……。」
「喰らいなっ!!」

菊丸の顔面目掛けて強烈な突っ張りを繰り出す。それに対し、菊丸は回転して受け流しにかかる。

「旋体鉄肘」
「甘いんだよ!」

黒野は回転中の菊丸の足元に強烈な蹴り、相撲四八手の一つである蹴返しを見舞う。菊丸から見ても『相撲に足技がない』と思っていたのだろう。
強烈な衝撃により、菊丸の回転は見事に止まる。

「いっ!?」

さらに菊丸は壁に叩きつけられ、顔面や上半身に強烈な突っ張りが繰り出される。黒野の剛腕による突っ張りは軽量級の菊丸にはかなり響くだろう。
そして黒野は菊丸を横向きに肩に担ぎ上げるようにして持ち上げ、軽く跳躍。そして空中で後ろに反りかえった。

「喰らいやがれっ!撞木反りぃ!!」

そのまま菊丸の胴体を自分ごと地面に叩きつけた。そのまま菊丸の意識は飛び、それを感じた黒野は菊丸を離し、起き上がった。

「俺様の勝ちだな。」
「見事な反り技だったよダンナ。」

一人軽く拍手を打ち、黒野の勝利をたたえる白石。黒野は菊丸を抱え、校舎の方へと向かっていく。

「何処行くのさ。」
「何処って保健室に運ぶしかねぇだろ。このままにしておくのも癪だからよ。」
「そうかい。」

白石はそのまま黒野についていった。

「これからどうするのさ。何か番長に怒られてるんでしょ?」
「恨まれることなんて何一つした覚えねぇよ!」
「だけどこの通り、舎弟君を送ってくるんだから何かあったのは確実だね。」
「……ぬぅ……まぁ、大丈夫だろ。何とかなるベ。」

余裕そうに黒野は語り、保健室に菊丸を送ると今日はそのまま下校をした。
翌日の放課後。

「ゴメンよ大将……しくじっちまったよ。」
「そうか……。」

包帯や絆創膏がつけられた状態の菊丸は、屋上で重蔵達に頭を下げていた。

「頭上げろや菊丸。それだけの仕事はしとったで……。」
「本当に悪いね、大将。」
「(しかし、菊丸を負かすたぁ、黒野の奴相当な実力もっとるちゅうこったな……)」

重蔵も菊丸が負けるとは夢にも思わなかったのか、その顔には一筋の冷や汗が流れていた。重蔵は翼の方を向き、口を開いた。

「翼。」
「はいっ。」
「黒野の調べはついたか?」
「はい、少々お待ち下さい。」

翼はメモ帳を開き、黒野の事が描かれたページを開き、重蔵に調査した結果を伝えた。

「黒野卓志さんと白石泪さん。どちらも2年で転校生の人ですね。此処に来る前はアメリカの学校にいたらしいです。」
「何じゃい、アメリカ帰りか。」
「何でもそこのストリートファイトで相当な勝率を上げていたとか……勿論、相撲スタイルです。そして帰国後にこの学校に転校し、相撲部を創立した人です。もう片方は練習メニューを考えたりと主にサポートに徹しているみたいです。最も、それなりの実力はあるみたいですが。」
「それで、何か如何わしい事した記録は?」
「何一つ無いです。」

重蔵はそれを聞き、目を強張らせる。

「そりゃどういう事じゃ……。」
「実は……耳をお貸しください。」

重蔵は翼に耳を貸す。翼は重蔵に小さな声で重大な『何か』を伝えた。
『何か』聞いた大道寺はやれやれと言わんばかりにため息をつき、翼に向けて口を開いた。

「聞くまでもないが、本当の話なんじゃな?」
「はい。確かな情報です。」
「そうか……なら、明後日ワシは黒野の所にカチコミ仕掛けるで。」
「えっ?ですけど」
「何、ちょっと面白くなりそうでのぉ……菊丸、二日で治るか?」
「大丈夫。傷の程度は軽いもんでさぁ。」
「解かった。明後日、頼んだで。」
「お安い御用。」

その会話を終えるとともにチャイムが響き、重蔵達はそれぞれ帰路についた。

=第3話 完=