複雑・ファジー小説
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.14 )
- 日時: 2016/05/27 22:36
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
「「(さて、こっからどうするか……。)」」
両者、構えを取った状態のまま一歩も動かない。一回目の攻防の時に相手の戦い方を把握していたのである。
互いに防御を取らず、前に前に進んでいくラフファイター。故にいかにして攻めていくか、どのような手を使うのが一番かを選んでいる。
読みを誤れば次の突撃で敗れる。慎重に選んでいくのが最善である……はずであったが。
「(まぁ、最善の策は一つ。真っ向から攻めて潰す!それだけだ!)」
脳みそまで筋肉で出来ているような根っからの武闘派である黒野は、後先も考えずに一気に重蔵に向かって走り出す。
重蔵もあまり深く考えようとはしない。相手が向かってくるのならば、此方も真っ向から攻めて潰す。黒野と同じ様な考えを持っていた。
結果、間合いを詰めた両者の拳と掌がそのノーガードの顔面に炸裂していく。
「……まっ、単純すぎるけどこれがダンナの持ち味って奴さ。」
「ラフで大将に挑むのは無謀だと思うけど。」
見物に回っていた白石と菊丸、2人の策士は特にアドバイスを出そうとしない。互いのパートナーが似た者同士である以上、互いの持ち味で攻めるのが一番という考えである。無暗に長所を崩すことがあれば、それこそ敗北に繋がりかねない。
「(此処からは直観と根気だけの対決……)」
「(黒ちゃんが勝つか、大将が勝つか……)」
白石と菊丸、そしてその脇にいる翼はその勝負を真剣そのものの表情で見物を続ける。
しばらくノーガードの殴り合いを続けていた両者。戦局は一気に変化する。
見ての通り重蔵には使用する武術など無い。所謂『喧嘩殺法』の類のものである。ルール無用の喧嘩で磨かれたその戦い方は実にダーティな技まで含まれる。その一例がたった今繰り出された蹴り上げである。殴り合いでいきなり繰り出されたその蹴り技は、確実に黒野の急所、睾丸に命中させていた。
「〜〜〜〜っ!!!」
声にならない悲鳴と共にその腕を止める。
それを好機に重蔵は黒野から、いとも簡単にテイクダウンを奪い、さらに馬乗りとなる。
黒野は多少は抵抗するものの、やはりどうにもならず重蔵の馬乗り状態で、次々と繰り出されていくパンチをガードしないまま受けていく。
「これで……終わりじゃい!」
思いっきり拳を振り上げ、全体重を乗せた右拳を黒野の顔面ど真ん中に繰り出した。
『グシャ』っと言う音が周囲に響く。しかし、それは黒野の顔面が潰れた音ではない。
顔面ど真ん中を狙っていた大道寺に対して黒野は的を少しずらし、額で受けたのである。
ぶちかましの修練で鍛え続けた黒野の首と額は非常に強く、非常に硬い。カウンターとばかりに首の力だけで繰り出した頭突きは重蔵の拳を砕く。
急激に拳に襲いかかる激痛に重蔵は怯む。その隙に黒野は重蔵の服を掴み、力任せに横へと投げ飛ばし、マウントポジションから脱出した。
投げ飛ばされた重蔵はすぐさま起き上がり、そのまま負傷した右拳を振り上げて黒野に向かう。黒野もまた掌を振り上げて重蔵に走り寄っていった。
互いの拳と掌が顎を捉える。その一撃で両者は崩れ落ちる。脳に直結する機関に強烈な一撃をもらえば当然であろう。
しかし、崩れて尚も立ち上がる。確実に2人は脳震盪を起こしている。立つのもギリギリの段階であろう。それでも彼らは地にしっかりと足をつき、よろける足で近づいていき、そして組み合った。
「「だらぁっ!!!」」
首を引き、強烈な頭突きが額にぶつかり合う。コンクリートとコンクリートがぶつかり合うような、鈍い音が響き渡る。
再び首を引き、もう一発放たれる。ぶつかり合った直後、彼らは遂に完璧に意識を失い、その場に倒れ伏した。
「これは……。」
「紛うことなく相討ちだな……まさか大将がねぇ……。」
角の3人も結果に驚きを見せる。彼らは黒野と大道寺の元へと歩み寄る。すると翼は何かを取り出した。水の入ったペットボトルである。
「そんなの取り出してどうするの?」
「はい、起こすんです。重蔵さん、黒野さん、起きてください。」
キャップを外し、中の冷水を黒野と重蔵の顔面に容赦なくかけていく。
「冷てっ。」
冷たさで黒野と重蔵は起き上がる。意識が急激に戻った影響か、混乱しつつも、彼らは互いの相方の方を向く。
「相棒!」
「菊丸!」
「「どっちが勝った!?」」
白石、菊丸共に首を横に振った。勝利していない事を示唆しているのである。
「ちぃっ!どっちも首振ってるって事は……!」
「引き分けじゃのぉ……!」
悔しさと疲労感、そして充実感を胸に、大の字に地面へと仰向けに寝転がった。
「しゃーないのぉ……今回は引き分けで終わらせたらぁ!」
「へっ、まぁ次は俺様が勝つけどな。」
「何言うとんじゃいダボが。」
起き上がりつつ大きな口を叩く黒野に対し、重蔵は笑顔でそれに答えを返す。
重蔵に肩を貸す翼と菊丸。その際、翼は重蔵の耳元で囁くかのように告げる。
「(重蔵さん……あいつらが動き始めました……)」
「(そうか……)」
翼の報告に重蔵は黒野に再び顔を向けた。
「黒野……もう一暴れ出来るんか?」
「三下相手なら余裕っすけど、どうすんだ?」
「詳しくは廊下でな……。」
「はぁ……。」