複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.15 )
日時: 2017/12/10 16:59
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

屋上から特に何事もない様に進んでいった一行。黒野は重蔵の言った事の意味を考えながら、下駄箱に差し掛かった。
その時、黒野の頭部に強い衝撃が走る。重蔵も同じくだ。

「あだっ!」
「ダンナ!番長!」
「ほれ黒野……お出でなすったでぇ……」

頭から流れる血を拭い、片足を突きながら黒野は顔を上げて前を向く。
そこには鉄パイプなどで武装した集団が出入り口をふさいでる状況であった。

「マズイ、このままじゃ……」

白石は別の出口へと向かうために、その場から離れようとするが既に後ろにも数人の不良達が回っていた。つまり黒野達は囲まれたのである。

「まずい……」
「見事に包囲されちまったねぇ」

白石と菊丸は前方後方から迫る不良達を見て、その身を無意識に構えさせる。
その時不良達の中から、一歩前に出てくる者が一人現れる。その人物とは……。

「久しぶりだな黒野よぉ……」

それはソフトモヒカンとカラスマスク、不自然に発達した上半身にブラスナックル(メリケンサック)を装着した男である。

「テメェ確か……ブラスのゴミ」
「ダンナ、ブラスの鬼だよ」
「やっぱリのぉ……高山ぁ、騙しよったな」

そう、またもやブラスの鬼こと高山である。

「んっ?騙した?番長、そりゃどういう事ッスか?」
「黒野……お前、暴力と拉致を使うて強制的に入部させとると聞いたが」
「何だそりゃ。俺はただひたすらビラ配ってただけだぜ」
「やっぱりのぉ。何か引っかかったんでな」

その発言と共に重蔵は高山へと睨みつける。チンピラなら蛇に睨まれた蛙の如く、動かなくなるその眼力も今のボロボロの姿からか、高山には一向に効果を示さない。

「そう言う割には結構素直に黒野と戦ってたなぁ?」
「言われれば……番長」
「悪いのぉ。以前の件もあって、お前とちょいと喧嘩してみたかったんでな。あえて騙された」
「なるほどねぇ。まぁ、俺様も殴り合ってみたかったから、都合良かったってわけか」

重蔵のその言葉に笑みをこぼしながら、再び顔に流れる血を拭い、そして立ち上がる。

「はっ、バカな奴だなぁ!大道寺よぉ!」
「雑魚がイキがるなや……」
「テメェら!こいつら全員潰せ!俺が番長になり変ってやるぜ!」

鉄パイプを持った、高山の部下は黒野達へと向かっていった。しかし、それを振り下ろす前に大道寺の鉄拳が、そして黒野の額が、不良の顔をとらえた。

「ダボが……三下相手に遅れをとると思っちょるんかい!」
「かかってきやがれ! 格の違い見せてやろうじゃねぇか!」
「テメェら一斉にかかれ!」

その命令と共に雪崩のように高山の部下達は向かっていった。黒野達だけではなく、菊丸達にもその武器を向ける。

「よっと」

圧倒的な身軽さで男を飛び越し、背後へ回る菊丸。振り向きざまに跳躍し、その勢いのまま正拳を叩きこむ。

「運体え字突き!」

鼻っ柱にその拳を受け、その一撃のもと一人倒れる。それを見た数人の男たちは菊丸を囲み、一斉に襲い掛かる。

「旋体回状蹴り!」

さらに流れるように連続で繰り出される回転蹴りで囲んだ男数人を纏めて一掃。あまりの強さに男たちは菊丸への攻撃を躊躇った。

「怪我は完治したみたいだね」
「お陰様で……ついでにそっちも来てるよ白ちゃん」

菊丸には敵わないと見た男たちは、今度は白石に襲いかかる。しかし、それも間違った判断であった。

「悪いね……転校初日以来、一本は必ず携帯するように心がけてるのさ!」

白石は懐を探り、何かを取り出す。それは特殊警棒であった。それを伸ばし、白石は構える。
そして鉄パイプを振りかぶる男の脇腹めがけて振り払うように打つ。

「ど————うっ!!」

脇腹を強打された男は鉄パイプを落とし、脇腹を押えてうずくまる。
その次に続く、ナイフを手にした男は突き刺さんとばかりに胸部目がけてナイフを突き立てる。

「こて———っ!!」

ナイフを持った腕を警棒で思い切り打つ。ナイフを落とすと同時に男は手首を見た。関節を外され、ありえない方向に手首が曲がっている。
それを見て錯乱している間に白石の警棒が男の頭に振り下ろされ、男は一瞬にして意識を失った。

「へぇ、剣道か。いい腕してるじゃん」
「僕は剣道二段。そして剣道三倍段。空手や柔道で換算すると六段。そこらのチンピラに負ける気はないよ」

手にした特殊警棒を男たちに向ける。白石の強さも身にしみたようでやはり白石にも襲いかかろうとしない。その中で一人、白石にも菊丸にも目を向けずに走る男がいた。狙いは翼である。翼の見た目から格闘技経験者ではないことを見て、襲いかかる。
しかし、翼もまた懐を探り、取り出したものを向ける。それには思わず男も動きを止める。

「これ以上近づくなら撃ちます」
「えっ? はっ!?」

白石は驚愕の声を上げる。翼が持ち出したものはヤクザ御用達のアイテム、拳銃であったのだ。

「けっ、そんな玩具で止まるかってんだよ!」

一瞬足を止めたが再び男は走る。それに対して翼は躊躇しなかった。
『パンッ』と言う高い音とともに、それと当時に男は倒れ、腹部から血が垂れていた。

「う、撃った……」
「急所は外しましたので命に別条はありません。そしてこれも改造ガスガン。威力もそんなにありませんよ。痛いですけど」
「野郎……!」

痛みはあったが怪我の程度は軽く、男はすぐさま立ち上がろうとする。
その男に翼は走り寄ると、ポケットから小さな機械を取り出し、それを男の首元に当てる。男から壮絶な悲鳴が発せられ、直後に意識を失った。その機械はスタンガンであったのだ。

「……えげつないねキミ」
「情けない話ですが、ボクの様にあまり喧嘩に秀でていない者はこうやって身を守るほかはありません。こうやって」

翼は手にしたガスガンの銃口を男たちへ向ける。男たちは鉄パイプを地面に置き、膝をついて手を上げ、降伏した。

「此方はこれで完了です。重蔵さんもそろそろ終わるでしょう」

翼達は重蔵と黒野の方を向く。
此方も高山の子分たちを全て蹴散らし、後は高山だけと言う状況となっていた。

「おぅコラ……よう騙しよったのぉ」
「覚悟できてんだろうなぁ……相撲部の名を汚した罪は重いぜ?」
「ぐっ……満身創痍のボケどもが、俺一人で片づけたらぁ!」

手に装着したブラスナックルを用いて重蔵と黒野の頬を思い切り、そして連続で殴る。が、重蔵にも黒野にも対した効果を見せない。

「軽いのぉ。欠伸が出るわい」
「こんなモン着けるなら鍛えろってんだ」
「なっ!」

自慢のブラスナックルも効果が無ければ最早成す術無し。高山は振り向いて逃走を図る。

「何処行くんだい?」

しかし、背後には菊丸と白石、そして翼の3人が行く手を阻んでいた。絶対絶命。万事休す。
黒野と重蔵はゆっくりと、しかし確実に高山へと歩み寄り、大きく体を捩る。

「だらぁっ!!!」

黒野の掌が、重蔵の拳が、高山の顔面を同時に捉えた。哀れ高山は車輪の如く回転しながら壁まで吹っ飛んでいき、そしてその壁が砕けるほどの勢いで激突した。

「ば……化け物……」

その一言と共に高山は意識を失った。

「終わったのぉ……」
「ったく……とんだ手間だったぜ」

既に先ほどの戦いと今の乱闘での疲労からか、地面に座り込む黒野と重蔵。
白石達は近づき、その肩を貸す。

「大丈夫かいダンナ」
「おいおい、俺のウリはパワーとタフネスだぜ。あんなヘナチョコのパンチじゃダメージにもならねぇよ。番長はどうすか?」
「こんなもん根性じゃい」
「流石。さて、帰ろうぜ」
「帰って治療だよ。全く」

白石達の肩を借り、校門を出る黒野と重蔵。
彼らはお互いに顔を合わせ、口を開いた。

「じゃあの黒野。今日はええ喧嘩じゃったで」
「また機会あったらやろうぜ。番長」
「次は決着つけてやるわい」

お互いに再戦を誓い合い、それぞれの帰路へと別れた。
後日、怪我の為に3日間黒野達は勧誘に精を尽くしていたという。

=第4話 完=