複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.18 )
日時: 2016/05/18 21:37
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

=第5話 "消える左"の天才ボクサー=

日直で遅れる白石の代わりに弥生を連れ、ビラを片手に校門へと向かう黒野。校門に着くと、そこには人だかりが出来ており、黒野はその人だかりに気を取られていた。
人だかりは殆ど女子であり、その中心には人だかりの原因であろう数人の男が集まっている状況である。

「なぁ、弥生。あれって何だ?」
「ボクシング部の人達。とても人気がある人なの。」
「へぇ、あれだけ華がありゃこっちも人が来るんだけどな。正直うらやましいねぇ。」

その後はボクシング部の集まりから目を離し、ビラ配りに専念し始める黒野達。いつも通りに無視され続けるのだが、ボクシング部の部員が黒野達に気づいていた。黒野達の元へと近づくと、囲むように並んだ。

「んっ?ボクシング部が何の用でぇ。」
「ははっ、ちょっと目にとまってしまってね…可愛い子を連れて勧誘でもしてるのかい?」

ボクシング部の中心人物であろう男は弥生に目を向ける。どう見ても弥生への下心で接しているのが一目瞭然である。弥生もそれを察したのか、黒野の後ろに隠れるように身を寄せていた。しかし、当の黒野はあんまり気がついていない様子である。

「おいおい、見りゃわかるだろ?俺達は相撲部だ。まさかお前ら入部希望者か?うちは兼部OKだぜ。」

何であろうとも自分らの行いに興味を示した事に上機嫌なのか、何の警戒も無くビラを男に渡した。それを受け取り暫く見つめていた男は黒野の手にしていたビラを全てその手に取った。

「おろ?何だ?お前ら、何か知り合いに紹介してくれるのか?そいつは助かる」

次の瞬間、そのビラを徐に掴み、一気に破り捨ててしまった。彼らのそのパフォーマンスを見て周りにいた女子生徒達は歓声を上げる。しかし、当の黒野はそれに驚愕の声を上げ、地面に捨てられたビラの残骸を集めていた。

「て、テメェ何しやがんだ!紙代もタダじゃねぇんだぞ!」
「こんなデブのお遊びに興味持つ奴はいねぇよ。そんな事より…。」

男は弥生の手を取り、自らの元へ引きよせ、その眼を見つめる。哀れ弥生は不安と恐怖でその身を硬直させた。

「豚の隣に置いておくには惜しい女だ…我らがボクシング部マネージャーに相応しいね……。」
「ひっ……。」
「おいコラ!コイツは相撲部のマネージャーだ!余所様にくれてたまるかってんだ!」

地面のビラを集める黒野。その声を聞いて男は黒野の元へと近づくと、黒野の腕ごとビラを踏みつぶした。

「いてっ!」
「豚如きが天下のボクシング部に舐めた口聞いてんじゃねぇよ…お前らは丸い柵の中でじゃれあってな!」

黒野の顔面を蹴り飛ばし、体勢を崩させた後に無理矢理立ち上がらせ、他の部員たちが黒野を囲む。

「これが俺達ボクシング部秘伝……人間サンドバックよ!」

四方八方から黒野を殴り飛ばし、文字通りサンドバック状態にする。女子生徒達は黒野がボコボコにされているのを見ても何も思わないどころか、ボクシング部部員達の華麗なパンチに心を奪われていた。何ともクレイジーな光景であろうか。
数分後、殴りつかれた男たちはその手を止めた。崩れるように黒野は倒れ伏した。それを見た後、男たちは弥生の手を掴み、引っ張っていく。

「きゃっ……は、離してください!」
「暴れるなって。今日から君は我らがボクシング部のマネージャーになるんだ。しっかり働いてもらうよ。」

そのまま弥生を引きずるように去って行った。


数分後、黒野はその身を起こした。

「イテテ、派手にぶん殴りやがって……。」

殴られて痛む場所を押さえ、黒野は立ち上がる。その顔には青筋が立っており、如何にも怒っているのが目に見えて分かる。

「野郎、せっかく作ったビラが……そして弥生も……マジ許さねぇ。」
「おぅ、どないした黒野。」

怒りを見せる黒野の前に現れたのは番長こと重蔵であった。

「あぁ、番長。ちょっと聞いていいっすか?」
「おぅ、なんじゃ?」
「ボクシング部の事ご存じっすか?」
「ボクシング部か……。」

重蔵はその単語を聞き、顔をしかめさせた。その表情を見て黒野は何かを察したのか、さらにその口を開く。

「……何かヤバい系?」
「ヤバい系じゃな。この学校の格闘部でも上位に分類されるで。」
「(あんなのが上位ねぇ)」

先ほどの光景を思い出して黒野は思った。その時受けたパンチは確かに速く、重かったと言う記憶がある。しかし、重いと言っても大道寺程強いわけではない。先ほどの攻撃も偶然、顎にいいものを喰らったために脳震盪で倒れただけである。タイマンを張れば速さに苦戦はすれど倒すことは出来る。さらに言うならリングに立たせずに一気に倒せばいい話だ。

「で、そのボクシング部がどうしたんじゃい。」
「あぁ、今からカチコミに行くんで。」
「おいおい真昼間からカチコミかいな。何なら手ぇ貸すで。」
「番長の手を煩わせる必要無いっすよ。」
「そうか……ほな、気張ってけや。」

重蔵はその一言を言うと去っていこうとする。去っていく直前に、彼は黒野の方を向き、言った。

「お前さん……"消える左"には気をつけとけ。」
「何すかそれ?」
「詳しくは知らん。只、最近ボクシング部で名を轟かせとる奴じゃ。お前さんの相方なら詳しく知っとるそうじゃから、そいつに聞いた方が早いで。」
「OK。ご丁寧にありがとうございまっす。」
「そんじゃの。」

そして今度こそ、重蔵は去っていった。

「さ〜てと・・・気合入れていくか!」