複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.21 )
日時: 2016/07/09 15:58
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

「これにはボクシング部の中でも要注意の人物だけを乗せてるんだ。此処にダンナが戦った面子はいるかい?」
「いねぇな。」
「なら此処で覚えて。まずはこの人。」

白石が指を差した写真には、スキンヘッドで凄まじい体格の男が映っていた。

「ボクシング部副部長、『10tトラック』こと乃木 伸二。ボクシング界注目のヘビー級ボクサーさ。」
「ほ〜、こんなのいたのかよ。」
「持ち味は体格を生かしたインファイト。ダンナと同じく凄い威力の打撃を持つハードパンチャー。」

その言葉の後に、次の写真に指を動かす。こんどはやや長い髪をした二枚目で長身の男が映っている。

「ボクシング部部長、『イーグル・アイ』こと滝川 三郎。ライト級ボクサー。」
「また女子に受けそうな顔した野郎だな。こんなのがいれば」
「無駄話は後。アウトボクサーで相手を間合いに入れさせず、一方的に打ちのめす戦いを得意としてる人さ。2人ともその戦術はウチの喧嘩でも通用していてね……周りからも警戒される人さ。」
「まっ、大したことはなさそうだな。どっちも耐えてぶちのめせば簡単だ。」
「一人を除いてね。」

そう言うと次に指を差したのは文字だけの部分である。
それもそこには名前も書いておらず、名前の欄には『消える左』とだけ書かれていた。

「そしてそれが今言った一人、もっとも注意しなければいけない人。」
「消える左……。」

黒野は先日の事を思い出していた。襲撃する前に重蔵に言われた『消える左には気をつけろ』。その台詞が浮かんだ。

「番長も言ってたような……写真は?」
「残念なことに、写真は無いよ。僕も調べ始めたばかりだし。」
「ちっ……で、そいつはいったい何者だ?」
「一年の人さ。」

それを聞いて黒野は驚きを見せた。部長、副部長が強いのは解かる。しかし、白石が注視しているのは一年。それも最重要要注意人物としての扱いである。

「一年って……一年坊がそんなに危険な相手なのか?」
「今年ボクシング部に入部した超大型新人らしいんだ。体格は全17階級中、最も軽いストロー級(ミニマム級)。いくら重く見積もっても精々フライ級が限度って話さ。」
「そんな軽いのかよ。本当に警戒すべき相手か怪しいこった。」
「すぐに考えが変わるよ。と言うのも今しがた紹介した滝川部長とガチンコで試合した結果……1R52秒でマットに沈めたんだ。さらに副部長も体格のハンデをものともせず、たったの4RでKO勝ちしたんだよ。」
「ヘビー級相手にストロー級がKO勝ちだと!?そりゃ何かの間違いじゃねぇのか!?」

白石は無言で首を横に振った。それを見て黒野はやっちまったなと言わんばかりに天井を見上げる。

「これで分かったでしょ?自分が何をしたのかが。」

冷酷な言葉を黒野にぶつけた。しかし、黒野は笑みを浮かべ、白石へと目を向ける。

「……まぁ、どの道俺様がぶっ飛ばせばいい話じゃねぇか。」
「アレだけ忠告して結局そういう結論なるのね。」
「やっちまったもんは仕方ねぇ。俺様の実力を見せてやるチャンスでぇ。」

気持ちいいくらいスッキリと開き直った黒野に呆れる白石。そしてその声の直後、部室入口からさらに声が響いた。

「ほぉ……なら見せてもらうぞ。」

その声と共に黒野と白石が振り向いた先にいたのは、昨日倒された男であった。

「あぁ、こいつだ。昨日ぶっ飛ばした奴。」
「2年、山口 博明……なんて事の無い小物の為にボクシング部を相手にするなんて、本当にダンナも無謀だね。」
「俺を小物だと……!?」

今にも食ってかかってきそうな表情で山口と呼ばれた男は黒野達へと向かう。しかし、服を背後にいた人物に引かれ、止められてしまう。

「まぁまぁ、落ち着いてよ。先輩。」
「んっ、お前昨日の……確か立花だったな。」

後ろからひょこっと現れた小柄な男、昨日黒野にボクシング部部室を教えた一年こと立花 誠である。

「あれ?おいらの名前知ってるの?」
「ジャージにデカく書いてあったから嫌でも覚えられたわ。ついでにお前もボクシング部だったとはな。」
「へへっ、まぁね。それなのにシカトされるなんて、おいら結構ショックだったよ?」

その発言と共に軽く笑顔を浮かべながら、立花は構えを取る。そして彼はシャドーを軽く行い、ボクシング部である事をアピールした。

「そいつは一年とはいえ悪い事をしちまったな。今からでもやってみるか?」
「うんっ、そのつもりだし。」

その笑顔のまま黒野に向かって、そのバンテージを巻いた拳を突き出して宣戦布告。黒野も黒野でやる気満々であり、腕を鳴らして近づいていく。

「待ってダンナ!」
「あぁ?どうしたんでぇ?」

白石は間に入って黒野を止めた。中空に疑問符を浮かべる黒野を余所に白石は立花をまじまじと見つめていた。

「(ボクシング部1年、階級はストロー級、それに2年の人がわざわざ連れてくる……間違いない)」
「マネージャーさん?」
「君が……君が噂のボクシング部超大型新人…"消える左"だね?」

白石の発言に流石の黒野も多少驚いたような表情をあげる。さらに黒野と立花の間に山口が割りこむ。

「その通りだ。彼がボクシング部最強の新人、"消える左"こと立花 誠だ。」
「やっぱりね……その体格で薄々感づいていたよ。」
「止めるなら今のうちと言っておこう。彼は体格も力量も全くものともしない。君など直ぐに倒せる。」

絵に描いたような器の狭い男である。自分よりも年下の男の強さを盾に威張るとは。黒野も呆れた表情で山口に向かって口を開いた。

「なんでぇ、お前年下に負けてんのかよ。情けねぇとは思わねぇのか?」
「う、うるさい!大体こいつは正真正銘化け物だ!勝てるわけがない!」
「それちょっと傷ついちゃうよ先輩。それにそっちも年下だからって舐めてるとさ……一撃で沈むよ。」

調子の良さそうな声と共に、どこかドスの利いた響きが混ざった声で黒野に言い放つ。

「年の一つや二つ、喧嘩には一切関係無いよ。強い奴が勝つ。それだけ。」
「中々確信を突いてやがるな。ますます気に入ったぜ。」

白石と山口の二人を避け、立花の元へと向かっていき、睨みつける。それに対し負けじと睨みを返す立花。小柄ながらも力強い眼差しをしている立花を見て、さらに戦いと言う気持ちが高ぶっていく。

「よっしゃ!もうこれ以上面倒な事はいらねぇ!いっちょ戦うか!」
「うんうん。賛成!」
「はぁ……もうやるしかないか。」

互いの気持ちが一致し、晴れて戦う事を決めた両者は部室の外へと飛び出す。最早止めても無駄だろうと、白石もヤケクソ気味に腹を括って外へと出た。
そして部室の前で両者は構えをとった。

「立花よ。」
「まぁまぁ、任せて任せて。おいらがちゃんと看板取り戻すからさ。」

服を脱ぎすて、ボクシング部のTシャツ短パンスタイルとなった立花は腕のバンテージの巻かれ具合を確認した後、軽く返事をして構えをとった。

「ダンナ、今回の相手は菊丸君や番長とはわけが違う。近代スポーツ科学によって研究、改良を繰り返された格闘技の使い手だ。今までと同じだと思ってると痛い目食らうから注意して。」
「了解でぇ!セコンドは頼んだぜ!」

白石の忠告を聞き終わるとともに、こちらも上着を脱ぎすて、四股踏みで気合を入れて構えをとった。

「よっしゃ行くぜぇ!」

黒野が地面に両拳をつけると同時に勝負は始まった。黒野は頭を突き出して突進、立花もまた構えた状態で黒野へと駆けていった。