複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.24 )
日時: 2016/05/27 21:18
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

「ふぅん。ダメだね。」

如何にぶちかましが早いとはいえ、それ以上に素早い打撃を見続け、鍛え抜かれた動体視力を持つ立花に命中するはずが無かった。軽やかなフットワークで瞬く間に黒野のサイドに回り込む。

「これで終わりにしてあげる。はい。」

ヒュン、と言う音と共に黒野の顎が一瞬歪んだ。その瞬間、黒野は両膝を付き、そして倒れ付した。立花の"消える左"が的確に顎を捉えた証拠である。如何に黒野といえども脳を揺さぶられた状態で立てるはずは無い。
あえなく倒れ付した黒野を見て拳を高々と上げ、自身の勝利を誇示する立花。

「へっへ〜ん。おいらの勝ちだ!」
「ダンナ……。」
「それじゃ、ボクシング部の看板返してね。」

相撲部の看板の横に下げられたボクシング部の看板を取り外すため、黒野を跨いでいこうとする。
しかし、その時だった。立花は足首に圧痛を感じ取った。倒れたはずの黒野が立花の足首を力を籠めて握っているのだ。

「えっ?えっ?」
「一年坊……まだだ……まだ終わっちゃいねぇよ……。」

立花は黒野を引き離そうとするが、怪力黒野の握力からそう簡単に逃れられることは出来ない。黒野はまるでゾンビの如く、立花の腰布を掴むとすがり付く様に立ち上がり、右四つの体勢になった。

「へっ……いくらお前でも捕まれちまったらな……。」
「え、えいっ!」

密着されたとはいえ、ボクシングにも脱出の手がないわけではない。クリンチと呼ばれる状態から黒野の顎目掛けて連続でアッパーやフックで執拗に顎を狙う。実際、黒野とて聞いていないわけではない。しかし、黒野の『絶対に離さない』と言う根性が手を離すことを許さない。黒野は一気に部室棟の壁に立花を叩きつけるように寄り切り、決して脱出させないように壁に身を押し付ける。
そして黒野は首を引き、立花の額に己の額を叩きつける何度も何度も全力で。ボクサー、しかもストロー級故に打たれる事に慣れていない立花にはこれ以上無い一撃である。
数発打ち、立花の顔を見る。立花は意識があるかどうかもわからない。それを確認すると黒野は息を深く吸い、その後一気に引き寄せて立花の股に膝をいれ、太ももに体を乗せて吊り上げ、豪快に地面に投げ落とした。
相撲48手『櫓投げ』が豪快に決まり、立花の意識は完全に吹き飛んでしまった。

「ぜぇ……ぜぇ……俺の……俺様の勝ちだぁぁ!!」

黒野は天を仰ぎ、高らかに叫びを上げた。しかし、黒野とて脳震盪を何度も引き起こした体である。叫びを上げた後、黒野もまた意識が飛び、倒れ付した。















「んおっ……。」
「あっ、ダンナ。」

黒野が意識を取り戻すと、そこは保健室のベッドの上だった。目の前には白石、そして隣のベッドには立花が丁度目を覚ましたところである。

「おぉ、相棒……間違いなく勝ったよな?」
「……全く、本当にダンナには驚かされてばかりだよ。」

苦笑交じりに白石は黒野に言い放つ。黒野は返答を聞き、笑顔でベッドに大文字に倒れ伏せる。
それとは対照的に頬を膨らませて不機嫌な様子で立花は黒野を見つめていた。

「ちぇーっ……先に倒れたのそっちなのにー。」
「悪いな一年坊……いや、立花。こちとら転校早々負けるわけにはいかないんでね。何せ最強の座と部員確保がかかってるからな。」
「もっともな事言ってるけど、本心じゃ部員確保が第一なんじゃない?」
「うるせぇ。」
「ぷっ、ははは。」

2人の掛け合いを見て、膨れっ面だった立花は無邪気な笑みを浮かべる。

「それならさ、ボクシング部の看板……一旦貸しとくよ。」
「なに?ホントか!?」
「おいら、嘘はつかない。それにね。」

そう言うと神速のジャブ……消える左を黒野に寸止めで放つ。

「今度はおいら、負けないからさ。ね?」
「言ってくれるぜ。こりゃ当分ボクシング部の看板は預かっとかないとな。」
「へへっ。」
「さーて、明日からまた勧誘だ。相棒。」
「OK。任せて。」

黒野は起き上がり、ベッドから降りると保健室を後にした。

=第5話 完=