複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.27 )
日時: 2016/07/26 16:20
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

その声の先を二人が振り向くと、そこには菊丸と翼の二人の他に、角刈りに剃られた髪型に道着を着用した男が一人佇んでいた。

「のぉ、菊丸。そいつは誰じゃ。」
「さぁ? 話聞く限りじゃ、そこのクズの関係者らしいけど。」
「ほぅほぅ。」

頷くとともに重蔵は権藤の方へと振り向く。

「と言うとるが、オンドリャあ誰か知っとるか? 」
「へへっ……。」

権藤はその男を見ると、笑みを浮かべると共に重蔵から離れ、その男の下へと歩いていく。

「久しぶりだなぁ……元部長サンよぉ。」
「変わってないようだな……権藤。」

2人は互いににらみ合い、一触即発の状況を作り出す。何一つ事情を知らない重蔵ら応援団はそれをただ見ていたが、重蔵はその沈黙を破り、口を開く。

「ピリピリしとる所スマンがのぉ……そこの角刈り。お前さん一体何者じゃ。」

男は重蔵の言葉に反応し、権藤をにらむのを止め、重蔵に一礼して口を開く。

「……押忍、自分は学館浜隆高校空手部主将を勤めさせていただいています。2年の須藤 茂と申します。」
「空手部か……このクズはワシらがいてもうたる予定じゃが、一体何のようじゃ。」
「番長、これは我々空手部の問題です。無礼なのは承知ですが、自分たちの筋をどうか通させてください。」
「何じゃと? 」

須藤と名乗った男は重蔵にそう言うと、再び権藤に目を向ける。

「こいつは元々空手部部員です。追い出して尚も行われるこの所業、自分たちが責任を持って止めねばなりません。」
「おぅおぅ、説明ご苦労なこったなぁ? 俺としても空手部をボコボコにされて追い出された恨み、忘れちゃいねぇよ……なぁ? 」
「お前が空手を悪事に利用したからだ。それも解からないか。」

権藤は腕を鳴らして既に臨戦態勢に入っていた。須藤も構えを取ろうとするが、その前に重蔵に向けて語りかける。

「番長、不義ではありますが……失礼します。」

須藤は再び重蔵に一礼する。対して重蔵は全てを理解し、頷きつつ口を開く。

「事情は大体解かった……ええじゃろ。菊丸、翼、お前らも手出し無用じゃい。」
「OK。」
「解かりました。」

重蔵はそういうと権藤と須藤の二人から離れ、その戦いを見守ることを決める。須藤は改めて構えを取った。

「ほらほら……ほらよぉっ! 」

先に仕掛けたのは権藤。構えを取らずに近づいていき、須藤の腹部目掛けて前蹴りを放つ。須藤はそれを左腕で受け止め、右手で権藤の鼻っ柱に裏拳打ち(手の甲をぶつける打撃)を叩き込んだ。まともに攻撃を受けた権藤は顔を抑え、須藤ににらみつける。

「くっ、野郎……! 」

今度は一歩踏み込み、こめかみ目掛けて上段回し蹴りを繰り出すが、それも須藤は右の腕刀で受け止め、そのまま間合いをつめて肩口を掴み、額を権藤の顔面に打ち込んだ。権藤はその一撃に怯み、尻餅をつく。

「情けない。鍛錬を怠ったな。その程度では俺には勝てん。」
「くそったれが……! 」

そういうと権藤は徐に引き下がると、跳び箱の一段目を掴み、それを須藤に向けて振り下ろす。

「くたばれ、この野郎! 」

須藤は振り下ろしの軌道を見切り、とっさに後方へ下がって回避する。

「お前は空手家としての信念も忘れたか! 」
「知るかよそんなもんよぉ!! 」
「元とはいえ、空手部部員として最低限情けをかけるつもりだったが……それも無駄なようだな! 」

そういうと須藤は目を瞑り、深く息を吸った。権藤はそれも構わず須藤の脳天に跳び箱を振り下ろす。

「……はっ! 」

振り下ろされる寸前、須藤の左正拳突きが権藤の腹部に突き刺さる。これを耐えるものの怯み、攻撃を中断する権藤。それを見て須藤は今度は右拳を思い切り引き、放った。

「やべっ……。」
「せいやぁっ!!! 」

とっさに顔面に跳び箱を構えて正拳から顔を守ろうとした。しかし、放たれた正拳は盾代わりの跳び箱をいとも簡単に貫通し、その拳は権藤の顔面を正確に捉えた。放たれた右正拳は一発目の左正拳よりも比べ物にならないくらいの威力である。そんなものを顔面に受けて耐えられるはずもない。権藤は後方へバタリと倒れこんだ。

「これに懲りたらもうやらないことだな……次は無いぞ。」
「かっ……はっ……。」

その言葉を聴いた後に権藤は意識を失った。戦いを終えた須藤は権藤に背を向け、歩みだす。重蔵の前を通り過ぎる前に彼はもう一度一礼をする。

「番長……ありがとうございました。」
「何、構わん。お前さんの筋を通させただけじゃけぇ。気にすんな。」
「……失礼します。」

須藤は頭を上げ、そのまま体育倉庫から立ち去った。

「あれが噂の須藤さんですね。流石です。」
「翼、何か知っとんのか。」
「GFC前回王者です……といっても重蔵さんは参加してないから知らないのも無理はありません。少なくとも学校では有名な人です。」
「GFC……そういえばあったのぉ、そんな大会。」

しばしの雑談の後に重蔵たちも体育倉庫から退散した。