複雑・ファジー小説
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.3 )
- 日時: 2017/12/10 16:21
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
「黒野君!」
「ダンナ! 大丈夫かい!?」
「おい」
「んっ?」
白石が振り向くと、そこには改造した学ランを着用し、髪を染めたりして尚且つ部室を壊したときに使ったであろう鉄パイプを持ったガラの悪い生徒数人が青年の方を向いていた。その中に一人、ソフトモヒカンの髪の毛にカラスマスク(黒いマスク)を着け、不自然に発達した上半身をした、恐らくは首領格の男が白石に口を開く。
「……えーと、僕達に何か御用ですか?」
「テメェらか? 新しく作った部活の部員は」
「滅相もございません。僕達は只の一般生徒でして」
「見え透いたウソ吐くなコラ! そこの部室から出て来たのはなんでだ!?」
「うぅ……言い訳するには無理があるみたいだね」
完全に部員だと見なされている上に胸倉を掴まれ、もう逃げることなどできない。
今の状況を彼は嘆いた。
(うぅ……こんなことになるなら竹刀やバールっぽいものでも持ってくればよかった……武器あれば負けないのに)
「運が悪かったな……俺達はこうやって新人潰しするのが大好きなんだよ。テメェも部活建てなきゃこんなことにならなかったんだがなぁ」
「それにこの通り可愛いスケもいるしな」
「ひっ……」
ガラの悪い生徒は白石だけでなく弥生にまでも絡みだす。
それを見た白石は祈るように片手を顔の前まで上げ、そして口を開いた。
「……見逃して♪」
「見逃すかコラァ!」
今、白石に向けて拳が振り上げられる。あぁ、もうダメだ。そう思った瞬間だった。
振りかぶった男の横から何かが投げられた。巨大な木片である。それが男の顔面に命中して男は伸びてしまった。
それを投げた男はそう、先ほど部室が崩壊した際に巻き込まれた黒野だった。
「だ、ダンナ!?」
「黒野君! 大丈夫!」
「へーきへーき……ったくよぉ、カチコミは予想できたけど、せっかく貰った部室をいきなりぶっ壊されるなんてな」
瓦礫から黒野は何の問題もなさそうに脱出し、腕をパキポキと鳴らしつつ近づいていく。
「テメェら覚悟出来てんだろうな?」
「……あっ、そうだ。皆さん、あの人です。あの人が創立者です。僕達、あの人に脅されて」
(白石君!?)
(静かに)
「そうか」
そう言うと先ほどまで白石の胸倉を掴んでいた男は起き上がり、黒野の方に歩み寄る。
「そんな悪い奴なら尚更ぶっ飛ばさねぇとなぁ」
「ったく相棒の野郎……また何か吹き込みやがって」
「ダンナ。前」
「んっ?」
黒野が気づいたとき、目の前が突然真っ黒になり、自らも後方へと下がっていた。そう、殴られたのである。
「イテテ……何だ、もう始まってんのか……」
「その通りだ」
「凶器使ってるの見ると格闘部じゃないな……なら楽勝だぜ」
「はっ?」
そう言うと黒野は再び歩み寄り、どちらも殴れるような間合いまで詰めて止まった。
「ほれ。もう一度打ってみろや」
「んじゃ、お言葉に甘えて……!」
そう言うと男は先ほど部室を壊すときに使ったであろう鉄パイプを手に取り、黒野目がけて振り下ろす。しかし、黒野が鉄パイプ目掛けて頭を突き出したとき、鉄パイプはたちまち弾かれ、地面へと落ちた。
「なっ!?」
「それで終わりじゃねぇだろ?もういっぺんやってみな。頭だけじゃなくて何処でもな」
「野郎……!」
落とした鉄パイプを拾い、男は黒野の頭、肩、首、腕、胴体、足を狙って滅多打ちにする。だが、黒野は全く動じない。寧ろ黒野は笑顔でそれを耐え抜いていた。
打ち続け、握力が限界に達した男は鉄パイプを落とした。
「ぜぇ……ぜぇ……何でだ……」
「教えてやるよ」
男が落とした鉄パイプを拾い、黒野は答えた。
「俺はこう見えてな……病人なんだ。俺を蝕んでる病気ってのがよぉ、それが珍しい病気でな。その名も……」
その一言と共に黒野は鉄パイプをまるで飴細工のようにぐにゃりと曲げ、さらにそれを丸めて地面に落とした。
「ミオスタチン関連筋肉肥大だ」
——ミオスタチン関連筋肉肥大。またの名をミオスタチン欠乏症。
通常、筋肉はミオスタチンと呼ばれる物質を持っている。ミオスタチンには筋肉に必要以上の栄養が行き届かないように調整し、筋肉を適度に成長させ、余分な栄養素を脂肪に変える役割を持っている。そのミオスタチンを筋肉が受容しなければ、ミオスタチンの生成量が極端に少なくなったらどうなるか……筋肉に栄養が止まることなく流れていき、結果筋肉は無限の成長を行う。
黒野は一見すると腹が少し突き出ており、小太りに見える体型をしている。しかし、黒野の体脂肪率はわずか3%。その太っているような体の殆どが筋肉で構成されているのである。その筋肉に違わず、黒野は非常に腕力が強く、非常に打たれ強い。
「俺の筋肉量はそんじょそこらの奴とは違ぇ。その搭載量、なんと常人の2倍。この鋼の肉体を鉄パイプ程度で何とかできると思ったら大違いってこった」
「は、ハッタリだ! 妙なハッタリかましやがって!」
「ハッタリ呼ばわり大いに結構。だがな、これ喰らってよ、ハッタリだと思ってられるかよぉ!」
そう言うと黒野は大きく振りかぶると大きく開いた掌で相手の顔面を思いっきり張った。
体力の消耗からか、男は逃げることもままならず、錐もみ回転しながら吹き飛び、気を失った。
「おっ、ダンナの勝利」
「……さて、どうやって落し前つけるかなぁ?」
そう言って黒野は残った不良達の方を向く。不良達はそれを聞くや否や倒れた男を担ぎ、一目散に逃げて行った。
「ちゃんと持って帰るあたり人望はあるみてぇだな」
しっかりと連れていかれたリーダー格を見て、彼は率直に思った。その黒野を心配するかのように弥生は見つめていた。
「黒野君……」
「心配すんな。こっちはこの通りピンピンしてらぁ」
「やっぱり余裕だったね、ダンナ」
「相棒よ。お前ぶつかり稽古だ」
「えっ? 何で?」
「何でじゃねぇよ! テメェ吹き込みやがって!」
「あぁ……あれね……だけど余裕だったからよかったでしょ?」
まるで他人事のように彼はそう言い放つ白石の胸倉を掴み、笑いながら怒りを見せる黒野。
何とかそれを弥生は宥めて一応は収束。
「さて、部室壊れたけどどうする?」
「部室くらいなくてもどうにかなるだろうが」
「そうかい?」
「あたぼーよ! なんつったって俺様こそ、日の下開山!黒野卓志様でぇ!!」
「よっ! ダンナ! 日本一!」
黒野は自信満々に名乗り声を上げ、それに便乗するように白石が煽てる。
「さて、茶番はこれくらいにしてスカウトでもしてくるか……」
「いってらっしゃーい」
「テメェも行くんだろうがボケ!」
「ちぇー」
何時の間にかに作られたビラを片手に黒野と白石、弥生は行く。
彼らのちょっと変わった学園生活、これよりスタートである。