複雑・ファジー小説
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.31 )
- 日時: 2016/08/29 19:51
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
須藤は黒野に向かって再び向かっていき、自らの体を側面を黒野に向け、その体勢から一瞬で靴を脱ぎ捨て、裸足となった足の裏全体を叩き込むような横蹴りを黒野に見舞う。黒野はそれを腕と腹筋で押し止めるが、その一撃は不自然なまでに重い。黒野は大きく後退した。
それを須藤は距離を詰め、足を上へと振り上げ、一気に黒野目掛けてそれを振り下ろす。踵落としだ。黒野はそれも受け止めにかかるが、なんと言う衝撃だろうか。ミオスタチン関連筋肉肥大で常人を遥かに上回る怪力を持つ黒野が、衝撃に耐えられずに片膝を地面についてしまった。
(こいつ、何て重い攻撃くりだしやがる……!)
「ちょ、ちょっと待ってよ! 落ち着いて! 冷静になってよ!」
脇で見ていた白石と立花が喧嘩を止めるために向かっていき、2人とも抑えるように須藤の肩を掴む。
「邪魔を……するな!」
「うっ! 」
須藤は背後の白石の腹部目掛けて、体の向きを変えないまま肘を叩き込む。強烈な一撃を喰らった白石は、その場にうずくまった。立花は須藤から手を離し、白石の方へと移動した。
「白石先輩!」
「相棒! テメェよくも……ぶっ飛ばしてやらぁ!」
これには黒野も怒りを見せた。先ほどまで防戦一方だった黒野は須藤に向けて走り、渾身の突っ張りを放つ。それに対し、須藤は腕全体でそれを上方へと受け流し、踏み込んで顎めがけ、アッパー気味に肘を打ち込んだ。
「あだっ!」
仰け反る黒野。追い討ちをかけるように、側頭部に左拳を打ち込む回し打ち、逆の腕でもう一度回し打ちを放ち、間髪いれずに黒野の腹部に拳を打ち込む。
黒野は多少ダメージを受け、後退し、学園を囲う塀を背にした状態になりながらも、それらを持ち前のタフネスで耐えていく。
(流石に重いが、馴れちまえばどうってことも無ぇ……全部耐えた上でぶっ飛ばしてやる!)
「………。」
須藤は左の掌を黒野に向け、右の拳を思い切り引いた。
「へっ、こんなもんで沈む俺と……でも……。」
黒野は今から繰り出されるであろう、その攻撃も耐えようとした。しかし、突如として黒野の体に強烈な寒気が襲う。それはまるでアフリカの象が遠くの嵐に気づくかのように、あるいは沈没する前にネズミが船から逃げ出すように、本能が危険を察知したのである。
黒野の生存本能は黒野自身に語りかける。『その攻撃を受けてはならない』と。
「せいやぁっ!!!」
放たれた渾身の正拳突き。黒野は咄嗟に地面に座り込み、それを回避した。須藤の拳は黒野の髪の毛を掠り、黒野の背後の塀を……コンクリートで作られた頑丈な塀を、いともあっさりと粉々に砕いた。
「あ、あの分厚い塀を……。」
「な……なんて野郎だ……。」
黒野はもちろん、脇で見ていた3人も映し出された光景に戦慄した。そして黒野はこの学園に編入して初めて恐怖と言うものを味わった。こんなものを受けてしまったら最後、どうなってしまうかは想像するのは難しくない。黒野のミニサイズの脳みそでも、その結果を容易く想像できた。
「……はっ!」
「ちょっ! 待てって!」
須藤は攻撃の姿勢を崩さない。黒野に踏み付けで追撃。黒野は何とかそれを横に転げて回避したが、攻撃的な姿勢から一転していた。
「逃げるな!」
「それ聞いて止まるバカはいねぇよ!」
先ほどの攻撃に怖気ついた黒野は、須藤の攻撃から逃げた。その蹴りから、突きから、徹底して逃げた。しかし、須藤も只、闇雲に撃っていたわけではない。黒野をあえて後退させるために技を放っていた。
やがて、黒野はその術中にはまった。相撲部の一応の練習器具ともいえる、部室近くに植えられた成木を背にしてしまったのである。
「やべっ……。」
「せいっ!」
「ほいっと!」
追い詰めた黒野に向けて、須藤は中段回し蹴りを繰り出す。だが、黒野は逃げるのを諦めなかった。丁度良く頭上に生えた太めの枝。黒野はそれに目掛けて跳躍して、しがみついた。結果的に須藤の蹴りを回避し、そのまま黒野は木に上ってやり過ごそうとした。
「降りて来い! 降りてこないか! 卑怯者が!」
「卑怯者呼ばわり大いに結構だよ……ったく。」
黒野は須藤の言葉に耳を傾けない。黒野はそのまま須藤の怒りが収まるまで、木の上でやり過ごす算段である。
(おぉ、怖ぇ怖ぇ……ったく、とりあえず待つか)
そんな時だった。黒野の耳に『ニャア』と言う鳴き声が聞こえてくる。その声をする方向に目を向ければ、ノラネコが怯えるようにたたずんでいた。
「何だネコ。上って降りられなくなったか?」
ネコは黒野の言葉に答えるように、もう一度鳴いた。黒野はそのネコを優しく抱えた。
「なーに、そう怖がるなって。下にいる怖い奴が帰ったら、一緒に降りようぜ。」
ゴシゴシとちょっと粗いが、安心させるように黒野はネコをなで、笑顔を見せる。
「ダンナ!」
「先ぱーい! なにか来るよ!」
「あぁ?」
白石と立花の声に何事かと、黒野は下を覗いた。そこには、学ランとボトムを脱ぎ捨て、目を瞑り、構えを取った須藤の姿が映っていた。