複雑・ファジー小説
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.33 )
- 日時: 2016/08/06 17:22
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
数日たったある日の昼休み、相撲部部室で黒野と白石は集まっていた。
「んでもって相棒よ。須藤の調べがついたって聞いたんだが。」
「いや、これがとんでもないんだよダンナ。応援団の翼くんや菊丸くんにも協力してもらったんだけどさ……。」
須藤はカバンからファイルを取り出し、広げた。そのページの資料を取り出すと、そこには須藤に関する情報がビッシリと書き記されていた。
「学浜空手部主将にして、フルコンタクト空手(直接打撃制)の流派『清魂塾』の絶対的エース。それが須藤くんさ。」
「絵に描いたような空手野郎じゃねぇか。他は? 」
「前言ったとおり1年でGFCに優勝、その他にも空手部ではインターハイに優勝……まぁ、このくらいは学浜最強候補として当然のステータス。最大の戦果は、オープントーナメント全日本空手道選手権大会優勝、そして百人組手をクリアしたことさ。」
聴きなれない言葉に対し、黒野は中空に疑問符を浮かべる。
「百人組手って……何それ? 」
「読んで字のごとく、1日で100人と組み手を行う、清魂塾含むフルコンタクト空手の流派の修行さ。」
「なんでぇ、相撲だって似たようなことするぞ。」
「せいぜい30番勝負が限度の相撲と一緒にしてもらったら困るよ。それに相撲が足の裏以外着いたら負け。空手は攻撃がクリーンヒットしない限り一本にはならない。」
「はーん。」
ミニサイズの脳みそで黒野は何が大変かを理解しようと勤める。白石はさらに言葉を続けた。
「しかも須藤くんは、百人組手史上で初めて100人全てに一本勝ちしている。2時間休憩無し、有効どころか技ありも無し。そのスタミナには目を見張るべきものがあるよ。」
「………。」
「そしてオープントーナメント全日本空手道選手権大会……空手はおろか、ボクシング、ムエタイ選手などの選手の参加も認められる、立ち技格闘技の異種格闘技戦……これも1年の時に優勝している。さらに彼はアマチュアのK-1にも出場経験がある。この通り実践は数多く経験しているんだ。」
「聞けば聞くほど、スケールがデカ過ぎてイメージしきれねぇや……。」
黒野自身もアメリカで数多くのストリートファイトを経験し、日本に帰ってきた後も応援団の重蔵、菊丸、ボクシング部の立花など、様々な強者と戦い、様々な経験をして来たという自負がある。しかし、この男……須藤は黒野と余りにもかけ離れすぎている。数多くの『実践』の差を、黒野は到底埋めれる自信が無かった。
「そして須藤くんを強者たらしめているのは、その一撃の重さ。ダンナも見たでしょ?」
「あれか。」
黒野は先の戦いを思い出す。校舎の塀を砕き、黒野がぶちかましの鍛錬で使用していた木をへし折る一撃を。
「空手における永遠の目標、そして須藤くんが体現したもの、それが『一撃必殺』。」
「一撃必殺……。」
「頑丈な物を一撃の元で破壊する『物理的な一撃』、百人組手で全て一本勝ちする『技術的な一撃』、須藤くんはそれを若干17歳で極めているんだ……様々な大会で優勝する程の桁外れの実力、空手に対する飽くなき探究心、そして空手の目標を達成する圧倒的な才能、全てを考慮して皆は彼の事をこう呼んでいるよ……。」
白石は深く息を吐き、その視線を下に向ける。そしてもう一度息を吸うと共に、視線を上げ、口を開いた。
「『空手界の生きる伝説』と。」
寸分の迷いも無く、白石はその言葉を紡いた。さしもの黒野もこれには驚きを通り越し、寧ろ半分呆れたかのような表情を見せた。
「17で既に伝説かよ……とんでもねぇな……。」
「ダンナが戦ってきた人は十分強いよ。だけど須藤くんはそれ以上さ。さしものダンナも幾らなんでも分が悪すぎるよ。」
白石は、いつも通り黒野に忠告を行う。黒野も流石にこれには従わざるを得ないであろう。しかし、黒野はその言葉に対して笑みを浮かべる。
「けっ、上等だぜ。こっちだってバケモノだって言う自負はあらぁな。それに最強の座と部員確保の為には、嫌でも避けて通れない戦いだぜ。俺様は勝ってやるぜ。」
結局のところ、黒野は黒野。彼の頭からは『退く』なんて言葉は一切思い浮かばない。いつも通り白石は頭を押さえ、ため息をついた。
「ねぇ、ダンナ。本当に勝てると思って言ってるのかい? 」
「思わなかったら言ってねぇよ。それに別に時間は大量にあるんだ。対策くらい考えてやるぜ。」
慰めるように白石の肩を叩き、笑い声を上げる黒野。白石も、多少頭に痛みを抱えながらも、やれやれと言わんばかりに苦笑を浮かべる。